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「よお、元気?りときゅんどしたの、俺に相談って。」

「…雄飛うっぜ。」

「おい!わざわざお前のために休みの日に出てきてやったのにうぜーはねえだろ!」


電車の改札口を少し出たところで、随分落ち着きのある髪色になった雄飛が、柱に寄っかかって立っていた。

最近は勉強を真面目にやっているって言ってたっけ。以前よりもチャラついた雰囲気が薄くなった気がする。


「…進路どうしようかと思って。」


特に行くあてもなく歩きながら雄飛に話をすると、雄飛は意外そうに俺に視線を向けてきた。


「…おお、相談って真面目な話だったんだ。てっきり航先輩のことかと。」

「それもある。」

「同じ大学行きてえとか言うなよ?」

「同じ大学…行きてえ…。」


雄飛の発言に釣られるようにそうぼやいた俺に、雄飛は「うわ、言いやがった。」と呆れた表情を浮かべた。


「ちなみに聞くけど、矢田先輩の成績オール5じゃん?お前はどんなもんなわけ?」

「オール5とオール4のあいだくらい。」

「うーわまじか。お前もちゃっかり秀才君なんだな。」

「秀才君ってか、普通にテストでアホな点数取りたくないから勉強してるだけだし。」

「アホはとりたくてアホな点取ってるわけじゃねえんだぜ?」

「勉強しないからアホなんだろ。高校のテストなんか勉強したらアホでも解けるような問題しかねえよ。」

「うわー、矢田先輩も同じこと言いそー。やっぱお前ら兄弟だな。もう兄貴と同じ大学行けよ。」


思ったことを口にしただけで、雄飛に笑い混じりにそんなことを言われてしまった。


「兄貴と同じ大学はねえよ。」

「航先輩と同じ大学の方がねえわ!」

「なんでだよ。有りだろ。」

「じゃあそこの大学を受ける理由は?」

「航に会うため。」


雄飛の問いかけに即答すると、雄飛は何故か笑いを堪えるように「はぁ…。」とため息を吐いてから、俺の肩にポンと手を置いてきた。


「…そんなに会いたいなら会いに行けばいいだろ。付き合ってやるよ。だから進路のことはちゃんと考えた方がいい。」


雄飛はそう言った後、「行くぞ。」と足を動かし始めた。


「…は?どこに?」

「航先輩の大学。」

「………え。………まじで?」

「会いたいんだろ?」

「………会いたい。けど…」


今大学行ったところで航学校に来てるか?

って思ったけど、…ああ、忘れてた。


なちが今日学校あるから雄飛が今日予定空いてたんだった。なちが今日学校行ってる…ってことは、つまり航も学校だ。


「仕方ねえからりとに付き合ってやるよ。」

「お前自分がなちに会いたいだけだろ。」

「え?別に行きたくねえなら行かなくていいけど?」

「行くに決まってんだろ!」


まさかのタイミングで、航に会えるチャンスがやって来た。雄飛にちょっとだけ感謝。





「あー…そういや今日って祝日らしいな。」

「あー…。だな。なんで休みじゃねえんだよ。」


朝から眠気と戦いながら学校へ行き、愚痴りながら講義を受ける。


昼まで講義を受けたらあとは自由の身で、「昼飯食って帰る?」なんて話をなっちくんとしていた時のことだ。

なっちくんがスマホを見ながら突然、「えっ!?」と驚きの声を上げた。


「は?なに?」

「こらそこー静かに。」


先生に注意されて、ぺこりと頭を下げながら口を手で塞ぐなっちくん。


それからクイクイ、と無言で俺の袖を引っ張ってきたなっちくんは、俺にスマホ画面を見せてきた。


「…………はぁ!?!?」

「こらぁ!友岡うるさい!」

「あっすんませーん。」


なっちくんのスマホ画面を見た瞬間、今度は俺が驚きの声を上げてしまい、名指しで怒られてしまったじゃねえか。


さて、じゃあ一体俺もなっちくんも何に驚いたのかと言えば、なっちくん宛に送られてきた雄飛からのメールの内容である。


【 なちの大学来た。 】


そんなメール本文と、写真が1枚。

その写真に写るのは、俺たちが通う大学内にある謎のモニュメントを、仁王立ちで見上げているりとくんの姿だった。


「なんだこいつ。」

「どう見てもりとくん。」


いや、りとくんという事は分かっている。

何故こいつはこんなところにあるモニュメントを眺めているんだと聞きたい。


「雄飛とりとくんってマジで仲良いよなー。」


なっちくんはそう言いながら、雄飛にメールを返信している。


「そうか。…高校生は休みか。」


クソ…俺らが真面目に講義を受けているというのに高校生コンビは遊びに来やがって。


「学食にいるから終わったら来てだって。」

「はあ〜?高校生が大学生に命令してんじゃねえよ!」

「こらぁ!!!友岡うるさいって言っとるだろ!!」

「あーはいはいすんませーん。」


なっちくん、この話はまたあとだ。





「航ーなっちくーん、お昼ご飯どっかで食べて帰ろー!」

「あー悪い、俺らこれから学食に用事が。」

「ん?用事?あ、学食でご飯?」


講義終了後あかりたちに昼飯を誘われ、帰る支度をしながら特になにも考えずに返事をすると、なっちくんに小声で「あっ航のバカ!」と言われながら軽く頭を叩かれた。


ん?何故頭を叩く?と疑問に思いながらなっちくんに視線を向けると、なっちくんはなんだかあかりたちを前にしてそわそわしているから、なんとなく俺は察してしまった。


…雄飛が来てること知られるの嫌、とか?あかりたちに雄飛を会わせたくない、みたいな?


「あたしらも別に学食でいいよー。」

「うん、あたしもいいよ行こ行こー。」


…あ、すまん、なっちくん。

完全にこれは俺が悪いな。うん。

俺が何か違う言い訳であかりたちとの飯を断ろうとする前に、学食へ行く流れになってしまい、なっちくんは顔をやや青くしながら、必死でメールを打っていた。恐らく雄飛宛のメールだろう。


もういっそのこと、良い機会だから、付き合ってることをあかりたちにバラしてしまうのはどうだろう……。


その方が多分スッキリするぞ。



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