7 [ 82/172 ]

「なんで嘘つくんだよ、るいに報告しに来たんだろうが!」


りとくんがあんなこと言ったから、るいさっきからめちゃめちゃこっち気にしてんじゃねえか!とるいが厨房に下がった後にりとくんに俺はちょっと怒るが、りとくんは「クハハ。」と楽しそうに笑いながらコップを持ち、水を一口飲んだ。


ゴクンと水を飲み、コップを置いて、りとくんは頬杖をつきながら口を開く。


「別に受かってから言えば良くね?」

「あ、そんなこと言って実は落ちた時恥ずかしいから言いたくねえんだろ。」

「あーそうそう。だから航、落ちたら大学でよろしくなー。」


そう言ってヘラヘラ笑っているりとくんに、実はわざと落ちてやろうとか思ってんじゃねえだろうな!?と疑いの眼差しを向けていると、「おいおいー、お前らが来てから矢田が絶不調たぜ?」と俺とりとくんが座るテーブルに会長が現れた。


「おーっす拓也ちゃん久しぶり。」

「おう、久しぶり。弟も久しぶりだな。」


声をかけながらりとくんに視線を向ける会長に、りとくんは暫し無言で会長を見上げる。


そして、数秒後にりとくんは、思い出したように口を開いた。


「あ、海で焼きそば買ってくれた人か。」

「おいおい…。ひょっとして俺忘れられてたのかよ…。バーベキューん時も会っただろ…。」


まさかのりとくんの態度に、会長はちょっとショックを受けたように項垂れた。

「…バーベキュー?」と思い返しているりとくんを尻目に俺は会長を哀れみながら、「あ、りとくん会長と同じ大学受けることにしたから来年はりとくん会長の後輩。」と、俺はその話題を会長の前で出す。


するとりとくんは、「航ベラベラ喋んなよ。」と少しムッとなってしまった。


「俺が言わなきゃりとくん自分で言わねーじゃん。お兄ちゃんにもちゃんと言えよな。」

「じゃあもう航が兄貴に言えばー?」

「おいこら、なんで拗ねるんだよ。」


むすっとした顔をしてテーブルに肘をつき、俺からそっぽ向いたりとくんは、ツンとした態度でそのまま暫く口を閉ざしてしまった。


そんな俺とりとくんのやり取りを見ていた会長が、クスッと笑って口を開く。


「なんか矢田よりお前らのがよっぽど兄弟っぽく見えるぞ。」


会長が笑い混じりにそう言った瞬間、りとくんは無言でジロッと会長のことを睨みつけた。


それに対して、「…え、なんか睨まれた…。」と顔を引きつらせた会長。


なんだかどんどん不機嫌になっていってしまったりとくんは、ずっと無言のままむっすりしていた。


「…まあ、ごゆっくり…。」


そう言って立ち去った会長を見ながら、あんな引きつった顔してる会長を見るの初めてだな。と思っていたところで、りとくんがようやく俺に視線を向け、口を開いた。


「兄弟だってさー。」

「さては僻んでるな?」

「航が俺のことガキ扱いしてるからそういう見られ方をするんだよ。」

「え、ガキ扱い?してねえよ。」

「してんだろ。やたら兄貴のことお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってきてうぜえんだよ。」

「え、だってりとくんのお兄ちゃんじゃん。違うのかよ。」

「もういい。航黙ってろ。」

「なに怒ってんだよ!!!」


りとくんはまたツンとした態度でそっぽ向いてしまった。

えぇ?なんで?
どうしてこんなことに。


不穏な空気が流れる中、「…お待たせしました。」とこれまたむすっとした態度で現れたるいが、俺とりとくんの前に注文していた分のお皿を置く。


むすっとした態度同士の矢田兄弟は、チラリとお互いの顔を見た後、揃って眉を顰めた。

そして2人は、ボソッと一言。


「「…なんだよ。」」


…うわ、こいつらハモったぞ。


むすっとした態度で、不機嫌そうな声がハモり、同時に黙り込んだ2人を見て、俺は思った。


やっぱこいつら兄弟だな、って。


「…りと、ちゃんとさっきの話し説明しろよ。」


るいはりとくんをジッと見下ろして、ボソッと小声で先程の話を持ち出した。


するとりとくんは数秒間黙り込んだ後、相変わらずの不機嫌な態度で、こちらもるいと同じくボソッと「…滑り止め。」と答える。


「は?…滑り止め?どこの大学落ちた場合の…?」


るいのその問いかけに、りとくんはなにも言わずにチラッと俺に視線を向けてきた。

ジッとりとくんの目を見返すと、りとくんはようやく報告する気になったのか、そっぽ向きながらまたボソッと答えた。


「…兄貴が行ってる大学。」


そう答えたあと、照れ隠しするように水を一口飲むりとくんを、るいはキョトンとした表情で見下ろしている。


「…そっか。」


その後るいは、立ち去り際にりとくんの頭をクシャッと撫でて、「じゃあ、がんばれよ。」と一言残して、るいは俺たちに背を向けた。


りとくんの頬は、ほんのり赤みがかっていた。


「…りとくん、お兄ちゃん優しいな?」

「…うるせぇ。」


りとくんはやっぱり照れ隠しするように、るいが運んでくれたご飯をガツガツと食べ始めたのだった。

きっとりとくんは、兄からの純粋な優しさが、照れ臭いのだ。


可愛いやつ。


りとくんはさっき俺にガキ扱いしてるみたいなこと言ってたけど、俺にとってりとくんはもう、大事な弟みたいな存在になってるから、気づかないうちにりとくんに対して兄貴面しちゃってんのかも。

と、りとくんの様子をひっそり観察しながら、俺はそう思ったのだった。





「あれ?なんかお前、機嫌なおった?」


空き時間、店内の隅の方に立っていると、会長が俺に話しかけながら、俺の隣に並んできた。


「…あー…、まあ。」

「さては航にご機嫌取りされたな?」

「…いや、全然…。…弟が、俺と同じ大学受けるみたいっす。それの報告に来たみたいで。」

「あー、なんかさっき航もそんなこと言ってたな。」


あの素直じゃない弟が、俺にそんな報告をしてくるのなんて、きっと航がりとに何か言ったからだろう。


てか、あいつが俺と同じ大学選ぶとは思わなくて少し驚いた。俺と同じ学校は絶対嫌がるだろうと勝手に思っていた。


「あいつ俺のこと絶対嫌ってるだろうからちょっと意外だと思って。驚いてるんすよ。」

「えぇ?嫌ってるかぁ?嫌ってたらわざわざにーちゃんのバイト先なんか来ねーって。」

「いや、会長知らないっしょ。家で居る時とかあいつと兄弟喧嘩ばっかっすよ。」

「喧嘩できるだけ仲が良いってことだよ。本当に仲悪かったら喧嘩すらしないって。」


笑い混じりにそう言いながら、航とりとの方へ視線を向ける会長に、俺もつられて視線を向ける。


航とりとは、何を話しているのかはわかんねえけど、会話をしながら食事を楽しんでいるようだった。


「しっかしあの弟、すっかり航に懐いてるよな。…のわりにさっき兄弟みたいって言ったら弟に思いっきり睨まれたぞ。まさか航に惚れてんじゃねえよな?」

「は!?なんだって!?」

「…あ、…いや…冗談だって。仕事中仕事中。」


会長が何気なく発した言葉に俺は目の色を変えると、会長は苦笑しながらポンポンと俺の肩を叩いて俺を宥めてきたのだった。


「…冗談だからな。今のは忘れろ。」

「…要注意っすね。」


その後俺は、航とりとの様子を隙あらば観察していたのだった。


「兄貴こっち見過ぎだろ。働け。」


お兄ちゃんのところへ おわり


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -