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「昇ってさー、晃のこと好きなんじゃね?」
帰宅中、なっちくんはそんな話を持ち出した。
それは、昇の俺への態度を見てのことだろう。
俺も、まああり得る話だなぁ。と納得しながら、「あー…」となっちくんの言葉に相槌を打つ。
「晃高1から航のことめちゃくちゃ好きだもんなー。昇が晃のこと好きなら航への態度も納得だよ。」
「…んー。なんかそう言われてもすげえ複雑だわ。」
「確かになー。航には矢田くんがいんのに敵視されても困るよな。」
「てかアキちゃんが困るだけだろ。」
俺にはるいがいる、とかどうこうじゃなくて、アキちゃんが俺と仲良くしようとしてくれてんのにあいつが俺のこと嫌ってたら、アキちゃんが昇に気ぃ遣うだろ。
そんなことを考えはじめたら、今後の友人関係が、なんだか少し拗れそうな気がして嫌になった。
「まあ俺は別になっちくんがいるから友達には困んねえし、昇と関わらなくても全然問題ねえけど。」
「うん俺もー。俺の惚気を話せるのはお前だけだよ航。」
俺の発言になっちくんは突然ニヤニヤしながらポン、と俺の肩に手を置いてきた。どうやら惚気るタイミングを窺っていたらしい。
「聞いてくれ!次の休みに雄飛に会える!」
「よかったな。」
遠く離れていたらきっと毎日会いたくて会いたくて仕方ないんだろうなぁ。……俺は毎日一緒だけど。ぐへへ。
なっちくんの惚気を聞きながら、るいと毎日一緒に居られる俺は、かなり幸せ者だと思った。
「じゃあなっちくんまた明日ー。」
「うんバイバーイ!」
あ、あとバイト探さなきゃな。と、俺は求人情報雑誌を持って帰宅した。
*
その日の夜は、るいの作った夕飯を食べながら、お互いに大学であった話をした。
「高1、2年同じクラスだった昇ってやつが一緒の大学なんだけど、そいつが俺のこと嫌ってるっぽい。」
るいにそんな話を持ち出すと、るいの眉間に思いっきり皺が寄った。
「なっちくんと、昇アキちゃんのこと好きだからじゃね?って予想してんだけどだからってあいつすげえ俺に感じ悪いし関んねーようにしようって思うけどそしたらアキちゃんとも仲良くしにくいしなんか難しい。」
るいに話したら、なんか良い人間関係の方法を教えてくれるんじゃないかと思ったから、だから俺はるいにその話をしたのだ。
別に昇に嫌われてて可哀想な俺慰めて、ってわけではない。そしてやっぱり、るいは俺に言ってくれた。
「航が悩む必要ねえよ。航からは近付かない、で良いんじゃねえの。んで、アキちゃんから航の方に来たら、航はアキちゃんと気にせず仲良くしてればいいじゃん。」
「だよな。」
俺もそう思ってた。
にっこり笑って頷けば、るいも表情を緩めた。
「話してよかった、ちょっと気楽になった。」
やっぱり人に嫌われているのはちょっと悲しい。しかも友達だと思っていたやつだから余計に。でも、相談できる人間が俺にはいっぱいいるから、嫌われてると分かってたら気にしないようにするのが一番だ。
変に嫌われないように気を使おうとするのなんて真っ平御免である。
「なんでも話せよ。なんならその昇ってやつを俺はぶん殴りにでも行ってやるからな。」
「結構です。」
冗談で言ってんのか本気で言ってんのかわかんねえよ。
「まあ冗談だけど。」
…あ、良かった冗談だった。
「それよりるいの方はどんな感じ?」
「…ん?…あー…。」
うわ、言いづらそう。
なんだよ、俺だって話してんだから言えよ。
「……ごめん、女の子二、三人に連絡先教えちゃった。」
「なにっ!?」
「やましい事は無しにしたいから言っとくな、この子とこの子とこの子とこの子とこの子、大学で知り合った子な。」
そう言って、スマホ画面に登録した名前を見せられてしまった。この子って…。ちょっと多すぎねえか。全然二、三人じゃねえじゃん。
まあやましい事無しにしたいって言ってるから許してやろう。
「同じ学部で仕方なく交換したって感じ。あ、仁も。」
あ、良かった。仁も一緒か。まあるいがモテることは知ってるからな。信頼しているぞ、ダーリン。
「あ、じゃあやましい事は無しついでに俺も言っとくな、この子、宮原 由香ちゃんが俺の中学ん時からの同級生で、あとこの子とこの子がその繋がりで仲良くなった子な。」
「なにっ!?おいおいおい!!」
「いやおいおいっておめえも人のこと言えんじゃろ。」
「…おっとそうだな。」
ひとまずお互いやましい事は無し、と交換したての登録してある連絡先の名前を見せ合ったところで、俺たちはスマホをしまった。
「るい、お風呂入ろー。」
「うん、入ろ入ろ。」
お風呂でもまた、1日にあったことを話すのが、俺たちの日課になりそうだ。
2. 新しく始まる人間関係 おわり
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