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家の中に奥寺さんと晃平を上げてから、るいは「あ、お腹減りましたよね。焼き飯ぐらいでよかったら」と言ってフライパンを取り出した。


「へ!?!?王子の焼き飯…!良いんですか!?」


先程からるいを前にして顔面真っ赤な奥寺さんは、焼き飯と聞き興奮して鼻息を荒くしている。


「お口に合うかわかりませんけど。」


そう言って、てきぱきと焼き飯を作り始めたるいに、奥寺さんは今度はうっとりし始めた。


おいおい晃平、まじやばいって。これ奥寺さんガチでるいに惚れる可能性あるだろ。


「すっげー、王子料理できるんだ。」


いやいや、すっげー、じゃねえから。

お前の恋大丈夫かよ。

普通に感心してんじゃねえよ。


「航ー、お皿取ってー。」

「はいはい。」


奥寺さんと晃平を観察していたところでるいに頼まれて棚からお皿を四枚取り出す。るいの近くにお皿を持っていくと、「ありがと。」と言ってにっこりと微笑まれた。


「わっ鼻血でる…!」

「は!?ちょっ奥寺さん!?航ティッシュある!?ティッシュ!!!!!」


るいとそんなやりとりをした直後、ティッシュティッシュ!と騒ぎ始めた晃平。


そして奥寺さんは鼻を手で押さえている。


「あ、晃平、鼻血は出てないから大丈夫。」

「え〜!?もぉ〜!焦りましたよ!!」

「だって王子の笑顔見ちゃったんだもん!!」


奥寺さんはそう言って、もともと高いテンションがさらに上昇していった。


「おまたせしました。どうぞ召し上がってください。」


そう言って、るいが奥寺さんと晃平の前にほかほかと湯気が出ている焼き飯を差し出すと、奥寺さんはさっとスマホを取り出した。


「写真を撮らせてください!!!」

「え、いやそんな、写真撮るほどのもんじゃ…」

「王子の手作り焼き飯食べたって自慢するのです!」

「てかその王子っての、やめません?」

「えっ…!王子は王子ですよ…!!!」

「あそこのスーパーの人、るいのことみんな王子って呼んでんぞ。」


奥寺さんの相手をするのに苦戦しているるいを見ながら、冷めないうちに俺もるいが作ってくれた焼き飯に手につけた。


「るい!?王子るいって言うんですか!?かっこいい…!やっぱモテますよね!王子!彼女はいるのか聞いてもいいですか!?」


ささっと焼き飯の写真を撮った奥寺さんは、スプーンを持ったところでそんな質問をるいに投げかけた。いいからさっさと焼き飯食え!!!

そしてそんな質問をされたるいは、チラッと俺に視線を向けてくる。こっち見んな!!!!!

るいの視線は気付かなかったことにして、俺はバクバクと焼き飯を食べ進める。


「んー、聞いちゃダメそうです。」


数秒後に、るいはそんな返事を奥寺さんに返すと、奥寺さんは「え〜!気になる〜!」とキャッキャとはしゃぎはじめた。

だからお前さっさと焼き飯食えや!!!

と内心奥寺さんにツッコミを入れていたところで、奥寺さんの隣から晃平が「奥寺さん、王子が作ってくれた焼き飯冷めちゃいますよ。」と声をかけた。晃平ナイス。

奥寺さんはハッとしながらスプーンで焼き飯を掬い、口に入れた瞬間、


「んんん〜っ!!!おいひぃ〜!!!」


焼き飯を大絶賛していた。


「じゃあ話戻ってもいいですか?理想の女の子とかってどんな人ですか!?」


大絶賛したあと、るいへの質問を再開させる奥寺さんに、るいはまたチラッと俺に視線を向けてきた。だからこっち見んな!!!!!

るいからの視線を避けるように椅子から立ち上がり、空になったお皿を流しに置いて、コップにお茶を注いだ。


「理想?特にないです。」

「えっ!じゃあ好きなタイプとか!」

「好きになった子?」

「じゃあ好きな人はいるんですかぁ!?」

「いますよー、超好きな子。」


次々に質問し始める奥寺さんに、るいは淡々と答え始め、俺は恥ずかしくて聞いていられなくなってきた。

まだ続きそうな奥寺さんの質問攻めに、俺はふらりと特に用のない寝室へ逃げる。できれば質問攻めが終わったあとにるいたちの元に戻りたい。

しかし、俺の後をなんと晃平がついてきていたことに気付かず、寝室に入ってしまった瞬間、背後にいた晃平がぽつりと口を開いた。


「……ベッドひとつだけ?」

「…あっ!!!お前勝手についてくんな…!」


俺はハッと驚いて振り返ると、晃平は不思議そうにベッドを眺めている。


「まさかのベッド二人で共有系?」

「ベッ、ベッド二つもあったら部屋狭くなるだろっ!」

「……航、顔真っ赤なんだけど。どうした。」


ど、どうしたってこいつさては気付いてて言ってやがるな…!?

一歩一歩、俺の近くに歩み寄ってきた晃平が、ニッと笑いながら俺の肩に腕を回した。


「いや〜、まさかとは思ったけど。

……お前ひょっとして王子と付き合ってる?」


………!!!

やっぱり気づかれてた!!!!!


俺はサッと血の気が引き、冷や汗を流した。


バレるとまずい、でももうバレてる、しかしどうしよう、とパニクった結果、ドスッと晃平の腹にパンチを入れた。


「うっ…!」と腹を抱えて痛がる晃平の顎を掴み、「誰かに言ったら殺す!!!」と俺は必死で口止めする。


「バイト先でそれ広まってたらお前まじ覚えとけよ!!」

「分かった分かった!絶対言わねえ!!」


首を上下に、全力で頷く晃平に、とりあえずホッと息を吐く。


「でもその代わり俺の協力もしてくれよ!」


ああやっぱりな!!そうくると思ったわ!!!

晃平のことはまだ信用しちゃいねえが、こうなったなら仕方ねえ!!!


「奥寺さぁぁん!!!晃平が奥寺さんを送って帰るって張り切ってまぁぁぁす!!!」

「えっなになに!航くんいきなりどうしたの!?」


俺は協力してやるとなったら全力でやる。

さっそく奥寺さんのいる部屋に大声で話しかけながら戻れば、突然のことで奥寺さんは俺の声に驚いていた。


さっさと二人でラブラブ帰っちまえ!


俺の背後で晃平は、「えっちょっおい航…?」と戸惑っていた。


「じゃあ晃平、夜道は危険だからしっかり家まで送り届けてあげなきゃダメだぞ。」


るいまでにこにこしながら晃平にそう声をかけ、奥寺さんはうっとりしている。

晃平が家まで送ってくれる、ということに関しては特になんとも思わないのだろうか。


そんな話題になったあと、二人を帰る流れに持っていくことに成功し、俺は内心グッとガッツポーズだ。ぶっちゃけもう家には来てほしくない。

晃平にバレちゃったことも安心できない。


「お邪魔しました〜!」と二人が帰っていったあと、「はぁ…。」と肩の力が抜けたようにため息が出た。


「バイト先では絶対にバレたくねーんだよ…。」


噂はあっという間に広がるし。
さらにるいは人気者でみんなの王子。
そんな王子の恋人は、男である俺。

バレたら噂されまくりで、働きにくくなるに決まってる。


「はぁ…。」とまたため息が出た後、るいが俺の身体に腕を回して引っ付いてきた。


「さーて、そんじゃあ二人でお風呂でも入る?」


そう言いながら、俺の腰に腕を回し、俺の顔面にチュッチュとキスを落としてくる。


家に人を連れてきたことに関してるいには申し訳ないと思っていたから、二人っきりになったとたんにベタベタしてくるるいの好きにさせていたのだが…


俺はちょっと油断した。


「ごめん!忘れ物しちゃった〜!!!」


ガチャ、と玄関の扉を開けられてしまい、帰ったはずの奥寺さんが、再び姿を現した。

そんな奥寺さんの目に映ったであろう光景は、るいの腕にガッチリホールドされた俺。おまけにるいの唇は、俺の目尻に触れている。


「…えっ!?あっ!ごめんなさい!?」


慌てて謝ってきた奥寺さんは、驚いてアタフタしている様子だが、そんな奥寺さんを見て、俺は頭ん中が真っ白になった。

しかしここで不幸中の幸い、冷静なるいがスッと俺の身体から手を離し、一歩一歩奥寺さんに近付いた。

ふっと奥寺さんに向かって柔和な笑みを浮かべたるいが、奥寺さんに語りかける。


「俺の好きな人なんです。」


奥寺さんは、るいを前にして顔面を赤くしながら、ぷるぷると身体を震わせ始めたところで、もう一言。


「……内緒にしてもらえますか?」


奥寺さんの顔を覗き込むように言った一言に、奥寺さんは「…は…、はい…っ」と腰を抜かしそうになりながら返事をした。


奥寺さんからの返事が返ってきたところで、部屋に戻り奥寺さんの忘れ物を持ってきたるいが、「これですね、どうぞ。」と奥寺さんに忘れ物を手渡す。


奥寺さんは、「…あの!絶対!内緒にしておきます!!!それでは!今日は!ありがとうございましたっ!!!」と頭を下げて、駆け足で去っていった。


……うわぁ…まじか………。

まさか奥寺さんにもバレるとか………


もう冷や汗かきまくりの俺だが、るいは気にした様子もなく、再び俺の腰に腕を回した。


「大丈夫。あの人は多分喋んねえよ。」


何を根拠にそんなことが言えるのか。

でも、るいがそう言うならなんだかそんな気がする不思議。


「ま、いっか。」


バレたことは仕方ねえな。

開き直って、自分からるいの首に腕を回して、チュッとるいの唇にキスをした。



(うわあ…!うわあ…!うわあ…!王子と航くんまじかぁぁ〜!!!この展開はすごく滾る…!ごちそうさまでぇぇす!!!!!)


奥寺さんは王子のファンであり、そして、密かにボーイズラブを好む腐女子でもあった。


15. お宅訪問と王子の秘密 おわり


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