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暫くの間空き部屋だった隣の部屋に、大学生が引っ越してきた。
「隣に引っ越してきた矢田と申します。つまらないものですがどうぞ。」
「あ、どうも。」
「と、それから友岡です。」
「…あ、どうも。」
どうやらルームシェアらしきことをする今春から大学生の2人組のようだ。しかも揃いも揃ってイケメンときた。それも、片方ちょっとえげつないほど美形なんだけど…。
まじまじとそんな二人を観察するように眺めてしまう俺、福田(ふくだ)もまた、この二人とそう変わらないくらいの年齢である大学生なのだが、あまりにこの二人が煌びやかなもんだから、少々自分が憐れに感じた。
お隣さんどうし仲良くしましょうということで、ほんの少し自己紹介をし合う。俺が通う大学名を言えば、友岡さんの方が食いついてきた。学部は違うが同じ大学だということが判明。
まあここのマンション、俺が通う大学に結構近いからここに住んでいる学生も多い。
じゃあ矢田さんも同じ大学?
と聞けばこれまた驚いた。この美形、全国でもトップクラスの大学に通うエリート大学生だった。
しかしここから通うには少し遠くないか?と思いきや、「まあでも、いい部屋が見つかったので。全然大丈夫です。航の大学からは近いもんな。」といい笑顔で話している。
なんだよ、美形で頭良くて、人柄も良いのかよ。こりゃモテるだろうなぁ…とせめて彼の人柄を見習いたくなった。
「あ、じゃあそろそろ失礼します。」
礼儀正しくぺこりとお辞儀をしながら去っていった2人に、まあいい子が入ってきてよかったよかった。と玄関の扉を閉める。ご近所付き合いで面倒なことは起こしたくないからな。
…と、はじめはそんな感想を抱いた俺だったが、俺はその日の夕方、隣の部屋から聞こえてきた会話に耳を疑った。
洗濯物を取り込もうとベランダに出ると、隣の部屋からもカラカラと扉が開く音が聞こえる。
「あっまだ全然乾いてなかった!」
洗濯物を取り込もうとしたのか、そんな友岡さんの声が聞こえる。
「さっき干したとこだぞ?」
そして次に、そんな矢田さんの声が聞こえたから、慣れないルームシェア生活に苦戦中かな?と少し微笑ましい気持ちになる。
「航くん風邪ひくから早く部屋入りなー。」
「はっくしゅっ!」
「ほらほらほらもー。」
聞こえてくる会話に仲良いなぁ。とさらに微笑ましい気持ちになった俺だったが、耳を疑ったのは次の瞬間である。
「こっちおいでー、あーいい子いい子。一緒にお風呂入る?」
「うん。」
えっ!?一緒にお風呂入んの!?!?
その後、聞いてはいけないことを聞いてしまったような心境になった俺は、『カラカラカラ』と隣の部屋のベランダの戸が閉められた音を聞いてから、音を立てずに洗濯物を取り込んで、静かに部屋の中に戻った。
えーっと…、一緒にお風呂…っていうのは…、うーんと、…水道代の節約…かな?
入学式があった翌日、俺が家を出る少し前に仲良さげに家の中から出てくる矢田さんと友岡さんの声が聞こえた。
「見て見て、るいがくれた時計今日から毎日つけてく。」
「わあ、嬉しいなぁ。」
「ちょい大人っぽく見える?」
「見える見える。」
「よっしゃ。」
……うーん。仲良いな。いろいろと疑うレベルで仲が良い。なんとなく家から出辛く、声が聞こえなくなるまで待ってから家を出た。
数メートル先を、友岡さんと矢田さんが並んで歩いている。…え、でも矢田さんの大学の方向そっちじゃなくね?
疑問に思いながら、距離が縮まらないように一定距離を置いて歩いている俺は、その後目を疑う光景を見てしまった。
並んで歩く友岡さんと矢田さんの距離は異常に近く、さらに矢田さんから友岡さんの手に、指を絡めたのだ。
「えっ!?」
思わず声が出てしまい、ハッとしながら口を塞ぐ。
待って、あれどう見ても手繋いでる。
お風呂一緒に入る発言といい、あの二人もしかして付き合ってる…?
まあ恋愛は個人の自由だ。同性愛なんてこの世の中にはたくさん存在しているだろう。けど…!あんなに煌びやかでお互いに可愛い彼女でも居そうな2人が、まさか付き合ってるとは思わない。
俺はその後、半信半疑な思いを抱きながら、駅までの距離を歩いた。もちろん、友岡さんと矢田さんの後ろを、だ。
その後、矢田さんは友岡さんとは反対の方向の電車のホームへ向かった。
何故彼はここの駅までわざわざ歩いてやって来たのか。家から友岡さんとは反対の方向へ向かって歩いていれば、一駅分浮いただろうに。
という疑問の答えを、俺は薄々気付いていた。
きっと彼は、友岡さんと一緒に通学したかったのだ。
半信半疑に思いながらも、この考えで間違いないのでは、となんとなく確信していた。付き合ってると考えると、全て辻褄が合うから。
「あ、福田さん?」
うん。絶対そうだ。
彼らは付き合っている。
「おーい。福田さーん。」
「ハッ…!あっ!と、友岡さん!」
うわ、びっくりした。
友岡さんに気付かれた。
「今から学校すか?」
「そうそう、友岡さんも、だよね?」
「はい!授業の説明とかさっそく聞かされるぽいっすねー。おすすめの授業とかあるんすか?」
「あー、あるある。うまくサボれる授業とか、毎時間授業の最後に感想書かされて全然サボれないのとか。」
「へーそうなんだー…あ!るいこっち見てる。る〜い〜」
友岡さんは、会話をしはじめたと思ったら、向かいのホームに立っている矢田さんに気付き、手を振り始めた。
そんな友岡さんに、笑みを浮かべながら手を振り返した矢田さんが、俺に視線を向け、会釈する。
慌てて俺も会釈を返した直後、反対車線の電車が到着し、矢田さんは電車に乗り込んだ。
走り去っていった電車を眺めながら、にこにこと笑顔を浮かべていた友岡さんに、「仲良いねぇ。」となんとなく言ってみれば、友岡さんは「はい!仲良しっす!」と良い笑顔で頷いた。
付き合ってるんでしょ?…って聞いてしまいたい。でもさすがにそれは聞きにくい。
「一緒に住めるくらいだもんね、相当親しくないとできないよ。」
…って俺、わざとらしくそっち方向に話進めたがってるようなこと言っちゃったよ。しかし友岡さんの反応が見たくて、チラ、と顔色を窺う。
すると彼は、さらに嬉しそうに笑みを浮かべて「へへっ」と照れ臭そうに笑った。
俺はもう、間違いないと感じた。
友岡さんと矢田さんは、付き合っている。
「あっ!友岡くんおはよう!教室まで一緒に行こ〜!」
「おーおはよう!じゃあ福田さんまたー!」
大学に到着すると、女の子が友岡さんに話しかけてきた。…うわ。さっそく女の子の知り合い居んの?
…そりゃ居るよな…イケメンだし。と、女の子の知り合いがあまり居ない俺は、女の子と2人で館内に入って行った友岡さんを眺めたあと、ちょっとしんみりしながら別館へ向かった。
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