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「…俺、最近学校でちょっと勉強頑張ってる。」


ぽつりぽつりと話をすれば、母さんは黙って俺の話に耳を傾け、相槌を打ってくれた。


「目標ができて…。俺頭悪いから、勉強やんなきゃダメだなって思って。」

「……目標って?」


母さんが、控え目に問いかけてきた。問いかけてくれるのを、実はほんの少しだけ期待していた。


「…大学。受けたい大学がある。」


そう、この話は、いつか母さんには話さないといけないと思っていた。もうそんな時期は迫っている。高校2年生ともなれば、遊んでばかりはいられない。


「母さんには苦労させるけど…。」


大学受験は母さんの協力が無いと出来ないから。


ボソッと聞こえてるかどうか分からない声で言ったものの、母さんは嬉しそうに表情を緩めた。


「お母さん雄飛のためなら全然平気だよ。」


やっぱりその目には涙が浮かんでいる。

でも、母さんが笑っていたから、ホッとした。

今度は母さんの笑顔に照れくさくなって、そっぽ向いた。

すると母さんは、そっぽ向いた俺をまじまじと見つめている。


あまりに見られているから、「なんだよ。」って母さんを見返すと、母さんは「別にっ。」と言って今度は母さんがそっぽ向いた。

ちょっとギクシャクした雰囲気だけど、そんな空気もまた、なんだか照れくさくなった。



「雄飛と話せて嬉しいなぁ。ずっと雄飛の話を聞きたいと思ってたの。」

「母さんが家に居ないから悪いんじゃん。」


…あ、やべえ。
思わず母さんを責めてしまった。


「…うん、ごめんね。」


違う、謝らせたいわけじゃない。

でも、上手い態度が取れない。

母さんに謝らせてしまって、俺は黙り込んでしまった。そして母さんは、困った顔をする。


違う、俺はこんな態度を取りたいんじゃない。

母親との距離感が上手く掴めなくて、もどかしい。


「…母さんが、俺のこと鬱陶しく思ってるんじゃないかって思って、ずっと怖かった。」


母さんが家に居ないから、母さんが俺のことをどう思ってんのかわからなくて、怖かった。

母親との距離感が上手く掴めないから、とりあえず思ってたことを言ってしまったら、ちょっとだけスッキリした。

そして母さんは驚いた表情を浮かべたのと、首を全力で振って「そんなこと思ってない!!!」って言ってくれたから、俺は心から安心した。


「雄飛が居なくなったらお母さん生きてけないよ…。」


母さんはそう言ってまた涙を流したから、ちょっとだけ言わなきゃ良かったかも、って思った。

でも、胸の中にずっと抱えていたわだかまりが消えて無くなったから、言って良かったと思う。


「もうちょっと大人になったら、ちゃんと親孝行するから…。」


ぼそぼそと話した小さな声だったが、母さんは笑顔で頷いてくれた。





「また家に帰ってくる。」


そう言って家を出ると、母さんは嬉しそうに頷いた。

絢斗と待ち合わせをして、寮へ。


「なんかスッキリしたっぽい顔してんな?」

「うん。絢斗サンキューな。」

「別に?俺なんもやってねーし。」


まあこいつならそう言うと思った。

でも絢斗には感謝している。


「進路の話してきたわ。」

「はあ?早くね?」

「全然早くねーだろ。」

「大学受験すんの?」

「おう。長い付き合いだったけど、絢斗と同じなのは高校までだなー。」

「は?なんで?」

「お前は頭良いとこ受けるだろ。」


と、絢斗に言えば、絢斗はポカンと口を開けて暫し無言でいるから、沈黙が訪れた。

そして、数十秒後に絢斗がポツリと口を開く。


「あー…ぶっちゃけお前とはずっと一緒だと思ってたわ。」


って、そう言ったあと、続けていつもの絢斗らしいむかつく態度で「でも雄飛バカだしな。」と言われた。


だから言ってんだろ、お前は頭良いとこ受けるだろ、って。


「あ、あれか。なちと同じとこ受けんのか。」

「おう。なちも航先輩も受かったし、俺も行ける気がする。」

「…ん?航先輩と同じ学校?」

「いやいや目の色変えんなって。」


航先輩という名前を聞いた瞬間に反応した絢斗を、呆れつつ笑った。


「…へえ。航先輩と同じ大学かぁ。」

「いやいやお前、まさか航先輩を理由に志望校決めんなよ?」

「お前だって恋人理由に決めてんじゃねえか。」


そう言いながら、絢斗はちょっとむっとしながら寮への帰り道を歩いて行った。


おいおい、なんかちょっと怒ってる?


あ、こいつもしかしてあれだろ。

小学生の頃からの付き合いだから、俺と離れるのが寂しいのだ。


…って言ってもどうせ『違う、キモいこと言うな』とか言うだろうから口には絶対出さねーけど。



「あ、ところで禁欲中の雄飛くん。禁欲生活まだ持つわけ?」

「あっおい思い出させること言うなよ!」

「帰ってAV鑑賞会してもいいんだぜ〜?」

「あ、今からなちに会いに行こうかな。」

「チッ。まじ雄飛に恋人とか似合わねーわ。」


舌打ちをして、絢斗は不機嫌そうに歩いっていってしまったから、まあ今日はお世話になった友人のAV鑑賞会に付き合ってやろうか。


さすがに俺の身が持たん。

でも、浮気じゃないから許してね。


13. 雄飛の闇と母への思い おわり


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