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『会長のバイト先紹介してもらえることになった。』


数日前、るいがちょっと嬉しそうにしながら報告してくれたから、『良かったな。』って言うと、るいは『うん。』って更に嬉しそうな顔で頷いた。

るいにその話を聞いたあと、るいには内緒で俺は会長と連絡を取った。


【 るいをよろしくお願いします。】

【 立派に育ててみせます。 】

【 今度るいに内緒でお客さんになって様子を見に行きます。 】

【 おう、来い来い。サービスしてやる。 】

【 キャ!会長す・て・きっ 】

【 また行く時メールしろ。 】

【 わかった。】


完全にるいに見られたらアウトのメール内容である。…いや、アウトと言ってもただちょっと嫉妬するだろうな、って程度だ。


それから数日後、俺のバイト休みの時にるいが出勤する日を狙って、【 明日るいのバイト姿見に行く。】と前日会長に連絡すると、偶然にもその日は会長もバイトが休みだったらしく、一緒に会長とるいのバイト先のレストランに行くことになった。

るいには内緒で行くから、突然客として現れた俺にるいは絶対驚くだろうな。楽しみだ。


会長と約束した日、会長は遅くまで大学での用事があったらしく、約束したのは夜の8時過ぎ。


「会長〜!おーっす!」

「よお、航元気か〜?」

「元気元気〜。」


会長と他愛ない会話をしながらお店へ向かう。

レストラン前まで辿り着き、チラ、と店の外から店内の様子を窺うと、白いシャツに黒いエプロンを腰に巻いたるいがテーブルを拭いている姿が見えた。


「るいかっこい〜…。」


黒いエプロンはるいによく似合っている。思わず思っていることが口から出てしまうと、会長はニヤリと笑って「おかげさまで最近女性客が少し増えてきた気がするな。」とか言ってきた。


「…え。やだ。」

「まあ心配すんな、あいつお前にしか興味ねえしな。」


と、俺を慰めるように頭をポンポンと叩いてくる会長。


「会長、るいが浮気しないように見張りよろしくな。」

「ははっ、了解。」


笑いながら俺の背を押す会長に促され、俺はるいが働くレストランの店内へと足を進めた。


「いらっしゃいませ」


チリンチリン、と鳴る鈴の音に引き寄せられるように、素早く店の入り口へと、客である俺を出迎えてくれたのは、るいだった。


「航!?と会長も!?」

「へへっ、来ちゃった〜。」


ニヤニヤ、にやけが止まらない。るいに向かって小さく手を振ると、るいは照れ臭そうに「こっち…」って、奥のテーブルを案内してくれた。


「あ!拓也じゃん!お前何やってんの?」

「飯食いに来たんですよ、見りゃわかるでしょ。」

「働けよ!」

「いや今日は休みだっつーの。」


会長は店員に声をかけられており、少し遅れて俺の正面の席に座った。


「あ!店員さん!今日はお休みだったんですね!」


会長が席に座った瞬間、隣のテーブルに座っていた女性客が会長に話しかけていたから、すっげー驚いたけど、会長は慣れたように「あ、今日も食べに来てくださったんですね、ありがとうございます。」とお礼を言っていた。この人相変わらず人気すぎかよ。


まだ隣の席のお客さんは何か話したくてうずうずしてそうだったが、会長はパッと俺に視線を向け、「はい、なに頼む?」とメニュー表を手渡してきた。


「んー、なに食おう。」


メニュー表を開けて迷っているところに、お冷とおしぼりを持って現れたるいが、照れ臭そうに俺の手元にお冷とおしぼりを置いてきた。

チラ、とるいに視線を向けると、チラ、とるいもこっちに視線を向けてきたが、サッと恥ずかしそうに目を逸らされた。


「るい恥ずかしそう。可愛い。写真撮って良い?」

「…だめ。…なに食べるか決まった?」

「まだ。るいのオススメはなに?」

「……んー、トマトソースとチーズのハンバーグが美味しそう。」

「じゃあそれにする。」

「俺ボンゴレビアンコ。」

「なんだそれ。」

「なんだと思う?」

「ボンゴーレなアンコウてきな?」

「お前相変わらずだなぁ。」


会長は笑いながらメニュー表を閉じた。るいは笑いを堪えるように口元を手で隠して去って行った。

なに笑ってんだバカ、写真撮るぞ。


『カシャ』


結局るいのバイト中の姿を我慢出来ずに撮影してしまった。かっこいい。


ボンゴレビアンコとは、貝殻が入ったスパゲッティだった。俺は今日ボンゴレビアンコという食べ物を知ったのだった。

『ボンゴーレなアンコウ』と言った自分が恥ずかしくて俺は恥ずかしさを紛らわすように『カシャ』と再びるいの写真を撮った。

るいが恥ずかしそうにしながら控え目に「こらっ」て言ってきたところでスマホを置き、るいが持ってきてくれたハンバーグに手をつける。


「おお!んまい!!!」

「…一口、って言いたいところだけどバイト中だった…」

「さあ矢田、頑張って働けよ。」

「……会長ずるい…。」


ションボリしながらおぼんを持って立ち去るるい。

俺がハンバーグを味わっているあいだ、るいはテキパキと働いていたから、さすがるい、なんでもこなすなぁ。と感心する。

せっせと働くるいをお客さんは目にハートマークを浮かべて眺めているから、こらこらあれは俺の旦那だぞ、って言って回りたい。


「ちょっ拓也拓也、見ろ!初お客さんの連絡先ゲット!」

「おぉ、良かったっすね。」


るいの働く姿を眺めていると、会長の側にはさっき会長と話していた従業員がコソコソと会長に話をしにやって来た。


「しかし聞いてくれ、今度合コンしましょって言われたぞ。お前と矢田連れてきてくれだってさ!どうせお前ら目当てだよな!クソ!」


悔しそうに一枚の紙切れを握りしめている従業員に、会長は「あー。まあ、うん。ドンマイ」とボンゴレビアンコを食べ進める。

すぐさま吹っ切れたように店員は笑顔になり、「つーわけで!今度合コンするぞ!」って張り切った口調で言った瞬間、会長の視線がチラ、と俺に向いた。


「あ、矢田はそういうのダメだぞ。」

「なんで!?あ、あいつ彼女いる!?」

「そうそう。あいつは誘っても絶対行かねーよ。」

「んじゃあ合コンってのは内緒で誘うわ。あ、先輩命令で!」


は!?おい!やめろ!この店員ふざけるな!

俺は会長をジッと見つめて『どうにかしろ』って訴えた。

すると会長は苦笑しながら「合コンってわかった瞬間帰るだろうしやめといたほうが良いっすよ。」って言ってくれた。

それじゃあ矢田は諦めるか。ってなると思ってホッと息を吐いてると、その店員はさらにギョッとすることを言いだしやがった。


「いや、もう連れてくって言ったし絶対参加してもらう。」

「ふざけんな!!!!!」


そいつの発言に、俺は思わず口を挟んでしまい、従業員は目を大きく見開いてびっくりしたように俺を見た。


「会長なんとか言ってやってください!」

「へ、会長!?お前会長なの!?何の!?」


そんなことはどうでもいいのだ!!
とにかく!るいが合コンに参加なんて認めんからな!

キーッ!とそいつを睨みつけながらもぐもぐハンバーグを食べ、ごっくん。


「るいが合コンとか絶対ダメっ!な!会長!!」

「はぁ…。うん、そうだなー。」


会長は溜め息を吐きながら俺を落ち着かせるようによしよしと頭を撫でてきた。

俺と会長のやり取りに、その店員は「会長…?なんの?」って不思議そうにしながらも、少し忙しい雰囲気の店内の様子を察して、厨房へと引っ込んだ。


「会長!!見張りまじ頼むからな!」

「航、その会長って呼び方はもうやめてくれ…。」

「拓也ちゃん!!!頼むぞ!!!」

「はいはい…。」


会長は力無く頷いた。

頼りにしてるぞ!拓也ちゃん!


12. 黒瀬先輩から学ぶこと おわり

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【 空気読めないクソ男 】


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