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小学生の時から友岡 航という男は、とても活発なやつだった。俺、湯浅 真紘(ゆあさ まひろ)は、その男のことを幼稚園時代から知っている。

しかし運動神経が良いとか、頭が悪い、などと同学年の奴と自分を比べたりするのは小学生の3、4年くらいになってからで、まだ幼い頃の俺の中では友岡 航のことをちょっといじわるでやんちゃな奴、といったイメージ。


女の子のスカート捲って泣かせてたり、ツインテールの女の子の髪をいじって遊んで泣かせてたり。

兎にも角にもあいつは幼い頃から悪ガキだったのだ。だから、俺はちょっとあいつが苦手で、ちょっとだけ嫌いだった。


小学校に入学したての頃、あいつはさっそく女の子のスカートを捲り、先生に物凄く怒られていたのは知っている。


「友岡くんダメでしょ!女の子のスカート捲っちゃ!」

「えーだってひらひらしてるんだもん。」

「ダメ!次やったら先生、友岡くんのお母さんに話しちゃうよ!」

「えー。だってひらひらしてるんだよ?」

「スカートとは、そういうものです!」


航を怒る先生に、俺はちょっとざまあみろ、と思ったものだ。

そういえばあの時、航にスカートを捲られた彩花(あやか)ちゃんは、翌年のバレンタインデーで航にチョコを渡していたな。…と、そんな要らぬことまで思い出す。



「お〜。鈴(すず)ちゃんの髪の毛で汽車ぽっぽできそう。」


そういえば、そんなことを言いながら、鈴ちゃんのツインテールの髪を両手で掴み、汽車ぽっぽと言って遊ぶ学習能力の無い航は、また先生に怒られていたな。ということを思い出しながら、そう言えばそのすぐあと鈴ちゃんは航にラブレターを渡していたな。というまた要らぬことも思い出した。


【 すきです 】と書かれた紙を手に持ち、「すきやき食べたの?よかったね」と鈴ちゃんに話しかけていた航を見たとき、俺はそこでようやくこいつバカなんじゃないかって思った。けれどラブレターをもらっていた航はほんの少し羨ましかった。


…そう。友岡 航はバカなのだ。
バカなのに、なぜかとてもモテる。
幼い俺は、わけがわからなかった。

スカート捲りをして、女の子の髪で遊んで、先生にいっぱい怒られている航が、なんでモテるんだ?…って、俺は不思議で不思議で仕方なかった。


けれど、小学生中学年に上がった俺は、同学年の子と自分を比べ、そしてまた、航と自分も比べ、そうすることで、なんで航はモテるのか、ということを徐々に知っていく。


航は、とても活発なやつだ。
そして、運動神経が良い。
足が速い。ドッチボールではいつも最後まで残る。

あと、顔も良い。子供ながらに整った顔してんな、って思えるくらい。

けど、バカ。頭悪い。授業中先生に当てられても「わかりませーん」ばっか。

でも、そんな航はモテる。


逆に、クラスで一番女の子にあまりよく思われていないやつの特徴を上げてみる。

そいつは、頭は良い。ガリ勉で、いつも本読んでる。ちょっと暗い性格。運動全然ダメ。走るの遅いし鈍臭い。

つまりなにが言いたいかと言うと、小学生なんて頭が良いのはあまりステータスにならないってことだ。そして、俺は子供ながらに気付いたのだ。


ああ、やっぱ、顔だよな。って。


俺は航の、ちょっとぱっちりしてる目に、スッとした鼻が羨ましかった。いつも寝癖つけて、ぼけぼけの眠たそうな顔をしてても、それでもみんな、航のことを見ていたから。


モテる航と一緒にいると女の子と喋れるからか、はたまた航自身が人を引き寄せるのかは疑問だが、航の周りにはよく人がいた。


「まっひろ〜ん、まひろんまひろん、まっひろく〜ん」

「なんだようるさいな!!そして変な呼び方をするな!!!」


やたらとうるさく俺を呼ぶ航は、幼稚園からの馴染みか結構俺に絡んでくる。最初はとてもウザかったし、嫌だったが、小学校高学年…ここまでくると正直、あまり嫌ではなくなった。


…というのも。


「まひろん!だって〜。前から思ってたんだけど、いいよねその呼び方!ねえ湯浅くん、あたしもまひろんって呼んでいい?」


実はずっと俺が好きだった、可愛くて優しい彩花ちゃんが、俺にそんな声をかけてきた。


「……別にいいけど。」


照れ臭くて、ぼそりとそう返事を返すと、彩花ちゃんは嬉しそうに「やったあ!」と笑って俺を見た。


「やーやーまっひろんくんよかったねぇ。じゃあ彩花ちゃん祝まひろん呼びと言うことで。ん。宿題見せて?」


俺の肩をぽんぽんと叩きながら、憎たらしく片手を出してそう言ってくる航。いつもは思いっきり文句を言いながら航に宿題を見せていたが、この時だけは、無言で宿題を航に見せたことを覚えている。


つまり俺が航と仲良くすることが嫌じゃなくなったのは、女の子が絡んでいるということだ。…いやあ、俺って結構女の子好きだよな。と自覚し始めた小学生高学年の俺だった。

しかし俺の本命は彩花ちゃんだが。

その本命彩花ちゃんに『まひろん』って呼んでもらえるようになったのだから、航には感謝している。


「まひろん、今日学校終わったら遊ぼーって誘われてるけどまひろんも遊ぼーぜー。」

「俺今日は帰って家でゲームする。」

「じゃあ俺もまひろんとゲームしよ。

彩花ちゃんごめーん俺と真紘パスー」

「な!?!?おいちょっと待て。」

「ん?なに?家は無理だって?」


違う、そんなことを言いたいのではない。お前…今………彩花ちゃんって言わなかったか!!!

何故彩花ちゃんに誘われていることを先に言ってくれないんだよ!!!そんなん断るはず無いだろ!!!


そう思いながら俺は一人焦っていると、「えー航くん遊べないの?」と言いながら、彩花ちゃんが同じクラスの女子を2人連れて、俺と航の元へやって来た。


「俺とまひろんゲームするー。」

「えーずるい!あたしもゲームしたい!」

「チッチッチ、男のゲーム対決は熱いんだぜ?彩花ちゃんついてこれるかい?」

「ついてこれるよ!あたしお兄ちゃんとゲーム対決したりするもん!」

「だって。まひろんどうする?」

「……みんなでゲームやればいいんじゃない。」

「やったあ!まひろんありがとー!」


彩花ちゃんは、嬉しそうに笑顔で俺にお礼を言った。その日はじめて俺の家に、同級生の女の子が遊びにきたのだった。

もちろん一人は、俺が好きな彩花ちゃん。

俺はまた、ナイス航!と思ったものだ。


こうして俺の小学校時代は、結構男女共に友達が多く、賑やかで楽しい小学校時代だった。

それは何故か。俺は気付いていた。

航と仲が良かったからだ。


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