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アクセサリーショップを出た頃にはもう昼頃で、飯でも食うかと飲食店を探して歩く。
「何食いたい?」
「焼き肉!」
「…即答だな。」
「食い放題!」
「はいはい。」
俺の希望にるいは、さっそく携帯を片手に焼き肉店を探しはじめた。携帯を手にする方の手首には、腕時計とさっきるいが買ったばかりのレザーブレスがついている。俺の手首にもレザーブレスがついている。
「おそろいみたい」って言ったらすげえ嫌な顔された。
しかし嫌な顔をするクセにるいは、冗談で言ったのかもしれないが、「昼飯とそれ交換してやってもいい」と言ったから、俺はるいの言葉に盛大に頷いた。
つまり焼き肉は俺の奢り。そしてこのレザーブレスは俺のもの!
俺は、焼き肉屋を携帯で検索しているるいの隣を、るんるんと鼻歌交じりにスキップしそうな勢いで歩いた。
「ぃらっしゃあーっせー!!!」
焼き肉屋に入ると、暑苦しい挨拶で迎えられた。しかし「何名様でしょうか?」と問いかけてくれたお姉さんはとても可愛い。笑顔がよい。しかしその笑顔はやはりるいへ向いている。俺の存在はまるで空気のようだ。
「2人です。」
「2名様ですね!2名様ご来店でーす!!」
可愛いお姉さんにテーブルを案内され、席に着く。やはりお姉さんの目はるいの方を向いている。今日何度目だろう、俺が空気と化したのは。
「はぁ…可愛い子みんなるいに夢中だぜ。」
店員が去っていった後、俺は悩ましげに呟いた。イケメンは澄ました顔でチラリと俺を見ながらお冷やを飲んでいる。
俺は知っている。気付いている。あそこでこそこそと店員同士でこっちを見ながら話していることを。
「おねーさーん、お水くださーい」
「はい!!!少々お待ちくださいませ!」
ほらみろ、なにが少々お待ちくださいだ、全然待ってねえわこのやろう。
俺が手を上げて店員を呼んだ瞬間、光のような速さでこちらにお冷やを持ってきた店員に内心少しばかりの毒を吐く。しかしこれは使えるな。
お冷やを注ぎに来た店員に、いまだにコップに口をつけてお冷やを飲んでいるるいを指差すと、るいは驚いたようにコップから口を話した。
照れ臭そうにるいのコップにお冷やを注ぐ店員は、ぺこりと一礼して去っていった。
「おいおい。全然水減ってねえのになに店員呼んでんだよ。」
「いやあ。あの店員さんたちにはいっぱい働いて貰おうかと思って。お肉いっぱい持ってきてもらうぞ!!!頼むよるいきゅん。」
俺の肉のために。るいは店員を呼ばなければならない。
ここからは、90分間という時間との戦いなのだから!!!
手始めに、肉を種類ごとに1皿ずつ頼むと、やはり店員は光のような速さで肉の乗ったお皿を運んできたから、よしよし。と俺はほくそ笑んだ。
網の上に運ばれてきた肉をドバッと放り込む。焼けてきたらむしゃむしゃと食べる。お互い肉に夢中で暫く無言。
少し時間が経ち、俺は口を開いた。
「あ、おねーさーんタレ無くなりそー。」
「申し訳ございません!少々お待ちくださいませ!!!」
「あ、ついでにお肉もくださーい。」
「あ、お冷やおかわりも貰ってもいいですか。」
「はい!!少々お待ちくださいませ!!」
タレと肉をお願いした俺。
最後にお冷やをお願いしたるい。
「さてここでるいに質問です。タレ、肉、お冷や。あのお姉さん、どれを1番に持ってくると思う?」
「はあ?タレじゃねえの。」
俺の問いかけにるいは肉を焼きながら適当に答えた。そして俺は「ブッブー」と不正解の時のような声を出す。
るいは意味わからなさそうに首を傾げたがまあるいにはわかるはずないだろう。
「あのお姉さんは間違いなく、お冷やを1番に持ってくるぜ。」
俺がそう言った直後のことだ。
ほーら見ろ、店員の手にはお冷やが入った容器がある。俺は勿論、ドヤ顔さ。
「お待たせいたしました!
タレとお肉もすぐにお持ちいたしますね!」
タレとお肉を先に頼んだんですけどねえ。
イケメンの言うこと第一ですか。
おいらクレーマーになりそうだ。
まあしかしきびきび働いているお姉さんのおかげで肉がたくさん食えているので許してやろう。俺優しい。
あっという間に焼き肉食い放題の90分間は終了してしまい、お冷やをグビッと飲みながら腹を叩いた。超お腹膨れた。満足だ。
さて、これは俺がるいに奢ることになってるから伝票を持ってレジに行くが、店員に金額を言われ財布からお金を取り出そうとしていると、るいがお札をトレイの上に置いていた。
「いやいやいや」
「は?」
「レザーブレス!!!」
「ああ、なに。あれまじな話?」
「まじだし!これもう俺のだし!」
「いや別にほしいならやるけど。」
「あ、ほんと?」
それならいいのだ。
結局焼き肉食い放題は、割り勘だった。
奢るって言ってるのに金を払ってくるあたり、るいきゅんイケメンすぎて死にそう。
そんなイケメンるいきゅんは、アクセサリーショップと同様に、焼き肉屋の女性店員たちに最後まで熱いまなざしで見つめられていた。
そして、やっぱり俺は、空気だった。
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