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「うわあ、良い天気ダナァ!こんな日は、るいきゅんと、おデートに行きたいナァ!!!!!」
チラチラチラ。
休日だというのに早起きなるいと食堂で朝食を食べてから、窓の外とるいを交互に見ながら俺は大きな独り言を口にした。
ちなみに休日だけど俺も頑張って早起きするのは、るいきゅんと朝食を食べるためだ。俺ってまじ健気。
いつもは特に何かするわけではなく、部屋でゲームしてたり勉強してるるいきゅんの側で俺も一緒に勉強したりして。一緒に勉強ができるという幸せに浸るのである。俺ってまじ健気。
しかしこんなにも天気が良い日に部屋で勉強でもされたらたまらない。俺は、るいが部屋に戻ってしまう前に手を打った。
無言で俺をジトー、とした目で見るるいは、まるでそのイケメンなお顔には面倒くさいという字が書いてあるような白けた表情を浮かべている。
しかし外の天気はやはり物凄く晴れやかだ。もったいない。こんな良い天気の日に勉強だなんて。この俺が許すはずがない。
「そう言えばるいきゅんとおでかけしたことねえしどこかおでかけに行きたいナァ!!!」
別に出かけるところは何処でも良いのだ。俺は、とにかく何処でもいいから寮から外に出てるいとおデートがしたいのだ。
しつこくチラチラるいに視線を向けてみるが、るいは無言でジトーとした目で俺を見るだけ。物凄くめんどくさそうだ。
「お願いお願いお願いっ!!!」
なかなか頷いてくれそうにないるいの肩に手を置いて、ゆさゆさと揺さぶりおねだり。
「…はあ。ああもう分かった分かった。」
するとるいは、ため息混じりにようやく頷いてくれたのだった。
「やったあああああ!!!!!」
「うるせえ!!!」
……痛い。バシンと頭を叩かれたが、友岡 航、こんなのへっちゃらである。なんてったって、るいきゅんとおデートできるんだから。
二人とも緩い部屋着を着ていたため、私服に着替えるために一旦るいと別れて自室に戻ってきた俺は、クローゼットからジーパンを引っ張り出してきた。
Tシャツにジーパン、そのケツポケットに財布を突っ込んで、ちょっとだけ髪を整える。……んー。髪切りてえ。
日頃るいばかり見ていると、自分のダメなところが気になるようになってきてしまった。例えば寝癖のついた髪だとか、姿勢とか。
るいの髪はサラサラで、ツヤツヤ。んで、綺麗にセットされている。スッと伸びた背筋がかっこいい。
俺も姿勢良くしたら、ひょっとするとるいとの身長差0になるんじゃね?って思った。
髪型がキマらないので、俺はキャップを引っつかんで部屋を出る。
「あれー?航どっか出かけんのー?」
「おーっす、そうそう、ちょっとるいきゅんとおデートに!」
「うわうっぜー自慢かよー!」
「そうそう、自慢ー。いいだろー。」
部屋を出るとクラスメイトに会ったので、俺はさっそくるいとおデートすることを自慢した。いやあとても気分が良い。そんな会話をしていた直後…
「っんはっっ!?!」
クラスメイトが突然奇声を上げた。俺は、なんだこいつとクラスメイトに目を向ける。
「お、おいっ、あっ、アレとお前…っ出掛けるってか…!?」
クラスメイトは数メートル先を見つめながら、俺の肩を揺さぶった。
アレ、ってなんだ?とクラスメイトの視線の先に俺も目を向けると、クラスメイトが言いたいことが一瞬で分かってしまった。
「やだ、イケメンが歩いてきた…」
俺は口に手を当て、キャッとキモい声を出すと、クラスメイトに思い切り白い目で見られた。が、まあ別にクラスメイトの目が白かろうがどうでもいい。
携帯をいじりながらゆったりとした足取りでこちらへ歩いてくるるいは、まるでメンズファッション雑誌から飛び出てきたのかと思えるほどにイケメンモデルのような出で立ちである。
グレーのVネックTシャツに黒パンツ。服装は至ってシンプルだが、なんといっても元々の素材が一級品。変に着飾る必要がない上に、シンプルだからこそ更に引き立つるいの容姿の良さ。
そして、るいが間近に来たことにより目についたのが、携帯を持っている方の手首に付けられたレザーブレスと腕時計。
なるほど。るいにおしゃれをする気はあるらしい。つまりその私服の選択は自分の容姿を理解した上でのチョイスだな。チッ、このイケメン野郎め。
あの人どうせジジィの肌着着て歩いてたってイケメンだぜ。なんかムカつくな。
俺は、るいの容姿に嫉妬した。
「やばい、俺矢田くんの私服姿見んの初めて…。うわー、すげえかっこいい。写真撮らせてくんねーかなぁ」
「はあ?ダメに決まってんだろ!!」
「なんで航に決めつけられなきゃなんねーんだよ!」
「決まってんだろ。……俺のるいきゅんだからだ!」
フン!と鼻息を荒くして言うと、クラスメイトに舌打ちされた。そして、「うりゃあああ!!!」と髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられてしまい、俺は「あああああてめえ!!!これからおデートだっつってんのに!!!」と大声を上げながらクラスメイトの胸倉を掴んでゆっさゆっさと揺さぶった。
「…なにやってんだよ。」
呆れたような声でそう言ったるいは、俺の首根っこを引っ張り、クラスメイトから引き剥がした。
俺はササッと手櫛で髪を整え、キャップをかぶる。持ってきて良かった、お帽子さん。
「やっべー、矢田くん私服超かっこいいっす!写真撮っていいですか!?」
「あってめえ!!!」
さっそくるいに物申しているクラスメイトに再び掴みかかろうとすると、るいに手首を掴まれた。
「はいはい行くぞ。」
「えーっ矢田くん写真ー!」
「写真撮るほどのもんでもねえ。」
「写真撮るほどのもんですよぉ!!」
クラスメイトに背を向けたるいは、俺の手を引っ張り歩み始めた。背後でクラスメイトが「あ〜!」と声を上げている。
振り向いて、ベー。と憎たらしく舌を出せば、クラスメイトは悔しそうに中指を立てていた。
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