おまけ [ 16/188 ]

「ねえねえ航!一緒にご飯食べよー?」

「んあー。」

「航起きてる!?もう昼休みだよ!?」

「…おっまじか。飯だ飯だー」


うんと伸びをして立ち上がった航と共に食堂へ向かおうとすると、「俺も俺もー」と数名が航に引かれるように後を追う。

高校に入学して早くも僕ら1年Eクラスは、すっかり仲良くなっていた。

それはきっと、航を中心に賑やかな雰囲気が出来上がってきたからで、航を取り巻く環境が、自然に僕らをそうさせたのだ。



「あっ見ろよ、あの人だ。学年首席の矢田くん。まじイケメンだよなー。」


食堂へ訪れると、入学初日からイケメンだ、イケメンだと騒がれていた学年首席の矢田 るいが、人々の視線を集めていた。

僕も彼に視線を向ける人々の中の一人で、彼が騒がれることに凄く納得できる。

まるで、テレビの中にいるアイドルが現実世界に飛び込んできたような、そんな感じ。かっこいい、って少し見惚れてしまったのは内緒。

彼は、周囲の視線など気にする素振りも見せず、無表情で食堂のメニューを眺めていた。


僕たちも、矢田くんが立っている場所へ歩み寄り、メニュー選びをするが、ぶっちゃけるとこんなところでメニューなんて見てられない。

近付けば近づくほど、矢田くんには人を惹き付けるオーラがあった。


「やーべえまじでイケメン。」


そんなことを呟いているクラスメイトに同意。

うんうん、と無言で頷く僕だが、その側で航は「ゆでたまご単品売ってねえかな?」とわけのわからないことを言っている。


「ゆでたまごは置いてないでしょー。」


僕は矢田くんから視線を逸らし、僕らの側でウロウロしている航にそう言うと、なんと矢田くんがこっちにチラリと視線を向けていた。


えっ、なに!?矢田くんがこっち見てる!!と僕は少し焦りを見せると、なんと矢田くんは閉じていた口を開いた。


「ゆでたまごあそこに置いてあるぞ。」


そう言って、矢田くんは一部分を指差していた。そんな矢田くんの声を聞いた航が、「おおマジか。ゆでたまごあった。やったー、俺カレーにしよー。」と言ってゆでたまごを取りに向かった。


僕らは皆、そんな航をポカンと間抜けな表情で見ていた。


だってさ、あんなに視線を集めている人からゆでたまごの場所を教えられたクセに、航ったら平然とした顔でゆでたまごに向かってったんだもん。


「あいつすげーな。」とクラスメイトは航を見ながらぼやいていたが、僕も同意で、うんうんうん。と頷いた。


カレーライスを注文し、嬉しそうにゆでたまごを乗っける航。テーブルについた僕らは、食事をはじめたかと思えばさっきの話で盛り上がった。


「航お前なにいきなり矢田くんと喋ってんだよ。」

「…はあ?」


スプーンを咥えながら首を傾げる航に、クラスメイトは「ゆでたまごの場所教えてくれた人のことだよ!」と声を張り上げる。


「……んん。」


航は考え込むように眉間に皺を寄せる。

まさか矢田くんが視界に入っていないとか言わないよね。

僕がそう思ったその直後、航は「ああ、」思い出したように口を開く。が、


「てかゆでたまご1個100円高くね?」


まったくの期待外れな返答をされ、僕らはその場でズッコケそうになった。


多分だけど、あのとき航の視界には、矢田くんの指先にあるゆでたまごにしか目がなかったんだ。



思い返せば航って、やっぱり人を惹き付ける力があるな、って思った。

会長が航に目をつけたのもそうだし、それに矢田くんも。最初こそ航にいい思いを抱いているようではなかったが、マイナスなイメージから矢田くんを徐々に惹き付けた航。

僕は最初っから航に惹かれていたけど、まさか入学当初から皆に一目置かれている矢田くんと、恋敵になる時が来るとは思わなかった。


けれど、そんな先のことなど入学したてで航に夢中な僕が想像できるわけもなく。


今日も僕は、隣で美味しそうにカレーライスを食べる航に、密かな想いを抱いていた。


おまけ おわり

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