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「…なっちくん、ごめんな。嫌な思いさせて。」
どうやらあの後矢田くんと授業をサボった航は、昼休みになった直後に俺の目の前に現れた。
航に謝られてしまった俺は、ブンブンと首を横に振る。
「…ううん、俺が航に無神経なこと言っちゃったから。俺もごめんね。」
「なっちくん寂しがり屋だもんね。高一ん時からなっちくんとはいっぱい一緒に遊んできたもんな。俺自分のことでいっぱいいっぱいだったから気付いてあげらんなくてごめんな。」
「…そうだよ。いっぱい一緒に遊んできたのにさ、航最近全然一緒に遊んでくんないんだもん。寂しくなるよ。」
「じゃあさ、なっちくん今度は一緒に勉強がんばろ。一緒に勉強頑張って、来年も一緒のクラスになろ。」
航はそう言いながら、ポン、と両手を俺の肩に置いてきた。ニッと笑みを浮かべる航に、俺も自然に笑みが浮かぶ。
「うん!来年も一緒がいいな!」
航の言葉に頷くと、そこへひょっこりと矢田くんが顔を見せる。
俺も航も笑顔なのを見たからか、ホッとしたように笑顔を浮かべた矢田くんが、口を開いた。
「なちくん、一緒に昼飯食お。」
「え?俺は?」
「お前は一緒に決まってんだろ?」
そんな会話をする航と矢田くんの元に、日下部やモリゾーがやってくる。
「矢田くん!なんでなっちくんしか誘ってくんないんすか!俺らも一緒にどうっすか!」
暑苦しく矢田くんに話しかけた日下部に、矢田くんは「ああうんいいよ。」と投げやりに返事をする。
それから大橋や村下も現れて、大人数で俺たちは食堂で飯を食うことになった。
このメンバーの中に矢田くんが含まれていることがとても奇妙に感じるが、矢田くんは楽しそうに日下部たちと会話をしていて、そんな矢田くんを見ているだけで、俺はなんだか気持ちがほっこりした。
ススス、といつの間にか俺の隣にやってきた航が、俺の耳元でぼそりと話しかける。
「なっちくんるいのこと見すぎじゃね?」
「えっ!?」
航に指摘されたことに、俺の肩が大きく跳ねた。確かに俺は、矢田くんのことをガン見してたから。
「まさか惚れたとか言うなよな。」
「…やっぱ矢田くん、かっこいいよな。」
「あたりまえ。」
「…優しいし。」
「あたりまえ。」
「…好きになっちゃったなー。」
「ダメ!!!!!」
航はバチン!と俺の両頬を両手で挟むように叩いてきた。
「あっ航、さっき仲直りしたばっかだろー?なちくんに乱暴すんなよー?」
そんな航を見た矢田くんが、航にそう注意する。
「やだー!!!!!」
しかし航は、そんな矢田くんの言葉を聞かず、ボクサーのように両拳で俺の身体を叩いてきた。
「痛い痛い痛い!おらっ!」
航の手を捕らえ、俺は航の足に自分の足を巻きつけて、航の身体を倒そうと試みる。
すると航は「うわっ!!!」と声を上げながら、地面に尻餅をついた。
間抜けな航に笑ってしまい、航はギロリと俺を睨み付けてくる。
「おいおいお前ら喧嘩はやめろよ。」
「矢田くん大丈夫っすよ、あいつらじゃれてるだけなんで。うさぎと犬みたいじゃないすか?」
「……ああ、まあ。」
心配そうに俺たちを眺める矢田くんに、日下部がそんな説明をしていて、俺はなんだかまた笑えた。
そう、俺たちはずっとこんな感じで高校生活を送っていたから、やっぱりこれからもこんな感じで、みんなと最後まで楽しく過ごしたいんだ。
「るいは譲らん!!!!!」
「心配しなくても矢田くんは航しか眼中にないよ。」
「だろうな!!!」
「でも俺矢田くんに勉強教えてもらう約束したから、その時は矢田くん貸してね。」
「やだ!!!!!」
好きになっちゃった人には大好きな人がいるけど、俺はそんな彼らとこれからも、楽しく過ごしたいと、改めて思ったのだった。
37. 奈知の不満と航の憂鬱 おわり
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