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「ふっふふっふ〜んっ」


それはある日の週末のことだ、母ちゃんが機嫌良さそうに鼻歌交じりでご飯を作っていた。


「やけに機嫌良いね。どうしたの?」


俺は母ちゃんの背後からご飯を作っている母ちゃんの顔を覗き込む。

息子の俺より20cmほど背の低い母ちゃんは、可愛い。若い上に童顔でとても可愛い。自慢の母ちゃんを持つ俺は、正真正銘のマザコンである。

そんな母ちゃんは、寮に入ってからというもの連絡一つよこさない弟の愚痴をいつも言っていて、不機嫌なことが多かった。

親不孝者の弟なんか放っておけばいいのだ。しかし残念ながら母ちゃんは、昔から長男の俺よりバカでアホな弟のことばっかり可愛がっていて面白くない。むかつく。

…が、バカでアホな弟が寮に入ってからというもの、俺自身も少々寂しく感じたことはあったけど、まあ弟が家に居ない日々はもう慣れた。

母ちゃんは未だ寂しそうだけど。
大丈夫、俺が居るから。

実家暮らしで大学に通う、イケメン大学生な俺、友岡 海渡(ともおか かいと)がな!!


「さっき航から電話あってな、明日家帰ってくるんやってぇ〜!!明日のご飯の仕込みしとこうと思って母ちゃん忙しいからあんた向こう行っててー。」

「…へ、へー…よかったね。」


嬉しそうな母ちゃんに、俺は複雑な思いを抱いて自室に籠ることにした。





「……え、母ちゃんなんかお洒落してる?化粧もしちゃってどうしたの?」


翌日の母ちゃんは朝から掃除機をかけ、何故かとてもはりきっていて、疑問に思いながら問いかける。確か今日は航が帰ってくるみたいだけど、今からどこか出掛けるのか?


「んー?べっつにー??この前買った服まだ着たこと無かったからちょっと着てみたくなっただけー。」

「へー、母ちゃん似合ってる。」

「ふふ、せやろ。」


母ちゃんは俺の言葉に嬉しそうに笑った。



『ピーンポーン』

「あっきた!!!」


部屋にインターホンの音が鳴り響き、母ちゃんは慌てて玄関へ向かう。航が帰ってくるからそんなにはりきってんのか?ちょっとはりきりすぎじゃね?と思っていたその数十秒後、何故母ちゃんがここまではりきっていたのかを俺は理解した。


「ただいまー。」

「お邪魔します。」


……ん?『お邪魔します』…?

聞き慣れない声が玄関から聞こえて、俺は眉を顰める。え、航だけじゃねえの?


「航おかえりー!やーん!るいきゅん上がって上がってー!!」


母ちゃんはいつもより1オクターブ高い声で話しながら、テンション高らかで部屋に戻ってきた。そんな母ちゃんの後に続くのは久しぶりに見た弟と、超絶イケメンな男。…は?イケメン?…誰だ。

ジッ、と男を睨みつけていると、そんな俺に気付いた男が会釈してきた。


「…あ、航のお兄さんすか…。」


どっからどう見てもイケメンな男に、俺は無言で睨みつける。


「あの…?」


すると戸惑ったように首を傾げた男を見て、航がケラケラと笑いだした。


「あっはっはっ残念だったな!!兄ちゃんよりるいの方が遥かにイケメンだわ!!なー母ちゃん!」

「そらそうや、海渡あんたるいきゅん睨みつけんのやめや。はいシッシ。」

「ちょっ母ちゃんひどい!俺今ここ座ったばっかなのに!」

「あんたは部屋にでも行っとけ。」


ソファーで寛いでいた俺に、虫を払うような扱いで退かす母ちゃんに、俺は泣く泣く立ち上がり、台所にあるテーブルの方へ移動した。

航が連れてきた男は、そんな俺をまじまじと窺うように見てきてはクスリと笑っているから、俺はまたジトリと男を睨みつけた。

なに俺を見て笑ってんだ、自分の方がイケメンだって言いたいんだな?そうなんだろ?


「……似てますね、航と。」


しかし男はそう口を開いて、朗らかに笑うのだった。

クッ…!なんだその笑顔は…!俺に勝負を挑もうってか!?言っとくけど俺が笑うと大概の女の子は俺に惚れるんだからな!?


「え、似てねえから。アレと一緒にすんのやめてもらえる?」

「アレって言うな!アレって!」


航が男に言い返している声が聞こえて、俺はハッとして言い返した。


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