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半袖Tシャツにハーフパンツ姿の体育後の航の首筋に、つー、と伝った汗。額からもうっすら流れる、汗。

額から流れる汗を、体操服を捲り上げて拭うことにより、腹が露わになる。無駄な脂肪が無く、うっすらと腹筋がついている、細い腰。


「友岡くんって色気出てきたよね。」


D、Eクラスと入れ違いにS、Aクラスの体育がグラウンドで行われるが、グラウンドを去ろうとしていた航を見つけた仁が、突然そんなことを口にした。


「あと結構エロい身体してる。」


俺は瞬時に仁の頭を殴りつけた。
なにを言い出すんだこいつは。


「痛いな!!るいだってそんなこと言いたげな目で友岡くんのこと見てたぞ!?」

「は?見てねえよ。」

「見てたし!!」


強気な態度でそう言ってきた仁に、俺はフンとそっぽ向いた。そんな時、航が俺たちに気付き、歩み寄ってくる。


「おー、るいこれから体育だな。」

「うんそうそう。今日なにした?」

「50メートルのタイム計った。」

「まじ?何秒だった?」

「6秒7」

「お、はえーじゃん。」

「るいもっと速いくせに。」


そう言いながら、うっとおしそうに前髪をかき上げる航。額から流れる、汗。

首筋にも伝う、汗。


無意識に目がいってしまい、航は「るい?」と不思議そうに俺の顔を覗き込む。近付いた航との距離に、俺は無意識に、航の首筋に舌を這わせていたのだった。


ぺろりと航の首筋に流れる汗を舐めとったところで「あ、」と顔を上げると、ポカンと口を開けた航が俺を見ている。


「…やべえ、舐めちった。」


ハッとしながら告げると、航は顔を赤くして「なにが舐めちっただ!恥ずかしいなおめえ!」と怒鳴りつけてきた。


隣からは仁の冷ややかな視線を感じる。

俺は何事も無かったように、航の髪をわしゃわしゃと撫でながら航の隣を通り過ぎた。


「うわー、もう困るわこの人。場をさ?考えようよ。るいただでさえ注目されてんだから。」

「……俺、衝動的にやっちゃうのどうにかなんねえかなぁ…。」

「え、今の衝動的なわけ?」

「……うん。」


頷くと、仁は「はぁ。」とため息を吐いた。俺もため息が出そうだ。日に日にエロい目で航のことを見てしまっている気がするから。


「友岡くんのこと抱きたくて仕方ないんだろ。」

「……それな。はぁ…。俺まじでやべえよ…。」


俺は髪を掻きむしりながらしゃがみ込んだ。


「うわ。まじ?こんなるいはじめてみた。え、ひょっとして悩んでたりする?」

「……うん。結構。」

「……うわーまじで?」

「俺航のこと好きになって気付いたけど、すげえ嫉妬深いし多分束縛しちゃうタイプじゃねえかなって思うし、航のこと触れたくて仕方なくなるし、最近エロい目で見ちゃうし、いつか俺航に嫌われそうで怖い。」


仁に弱音吐いてる時点で俺相当余裕ねえな。だってこんな話、人にしたことねえから。


「……うわぁ、まじで悩んでる。すげえな友岡くん。るいどっぷりハマっちゃったな。」

「…だってあいつ可愛いんだもん。」

「あ、惚気は聞かないよ。悩みなら聞くけど。」

「……。」


俺は無言で立ち上がり、はあ。とため息を吐きながらまた髪を掻きむしり、歩きはじめた。

俺の後を追う仁の、「らしくなさすぎてきもちわる…」と言う声が聞こえたが、何も言い返す気にはならなかった。


「まあ心配しなくても友岡くんるいのこと凄い好きだから嫌われることはないと思うけど。」

「…それほんと?」

「ほんとほんと。あ、じゃあなんかまじで真剣に悩んでるみたいだから良いこと教えてあげるよ、『るいえっちうまいから俺が病み付きになっちゃいそうで怖い』って友岡くん言ってた。」

「…あいつそんなこと言ってたの?」

「うん。ハマると困るから今くらいの頻度で良いんだって。内緒だぞ、俺から聞いたって言うなよ。」

「……言わねえよ。」


驚いた、てっきり疲れるからヤるの嫌なんだと思ってた。

なんでハマると困るんだよ。別に、もっともっとハマれば良いのに…

そして、航から俺を求めてくれたら、俺はすげえ安心できる。





「なあなあ友岡くん、おたくの旦那、なんか物凄く悩んでるけど。」

「は?なんで?」

「なんでだと思う?」

「俺のことが愛しすぎて。」

「うわ、すご。だいたい合ってる。」

「やはり。」


さらりと冗談めかしたようにだが言い当ててしまう友岡くんにあっぱれ。

真面目に考えているのか、いや、いないだろう、友岡くんはスマホをイジりながら俺に返事をしている。


「もっと詳しく聞かないの?るいの悩み。」

「え、まじで俺のことが愛しすぎて悩んでんの?うける、なにをどう悩むの?」

「あ、そうそう。それを聞いて欲しかったわけよ。」

「ふむ。では聞いてやろう。」


友岡くんはスマホをズボンのポケットにしまい、腕を組んだ。ちょっと態度が偉そうだ。


「えーっと、なんて言ってたかな?まず嫉妬深いしー「ふむ。」束縛しちゃいそうだしー「ふむ。」んーと、あ、触りたくて仕方ないしー「ふむふむ。」あとはーあ、思い出した。エロい目で見ちゃうからいつか友岡くんに嫌われそうで怖いんだって。」

「へー。るいにそういう悩みあって良かったー。エロい目で見ちゃうっておい、ヤラシイな。まあ好きなだけ悩んで、俺のこといっぱい考えてたらいいよね。はい、以上!!」

「ええ!?なんかあっさりしてるね!?るいのお悩みを解決してあげようとか言う気にはなんないわけ!?」

「解決もくそも俺だってるいのこと好きだし、嫌うことなんかまず無いけど、まあ俺のことで悩むんだったらずっと悩んどけって感じ?」

「……ふうん。まあそれもそうだね。」


相思相愛でも悩みは付き物ということか。

つーか羨ましい悩みだよな。考えたらちょっとるいにムカついてきたぞ。だって友岡くんだってちゃんとるいのこと好きなのに、友岡くんに嫌われるのを恐れて悩んでんだから。

まあ確かに、ずっと悩んでたらいいのかもしれないね。


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