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友人と妙な話をしてしまった所為で、なんだか今日は落ち着かない。

友人に変な誤解をされてしまったからかもしれない。だいたい矢田会長と友岡先輩はすごく仲が良く、俺なんかが割って入れるとは思えないし、そもそも入ろうとも思わない。

だってそんなことをしたら絶対矢田会長が黙っちゃいないだろうし、矢田会長を敵に回すなんてことは絶対にしたくない。

だから、俺は一体なにが言いたいのかと言うと、友岡先輩のことが好きなわけではない。でも気になってて、だからもやもやして落ち着かない…っていうことだ。

きっと友岡先輩のことが気になってるのは、俺がエロい妄想してしまってるからだ。困ったなぁ。


「はあ。」とため息を吐いて、俺は放課後、生徒会室に立ち寄った。集合がかかったわけではなく、チラ、と顔を出しただけ。先輩が来てるのに後輩が来ていないのはなんだか申し訳ない気になるからだ。

しかしチラ、と顔を出すと、矢田会長が会長席に座っていた。


「あれ?矢田会長?今日なんかやることありました?」

「…ん?あーいや。今日は帰って大丈夫だぞ。俺ちょっと別でやる事あるだけだから。」

「そうすか。じゃあお先に失礼しますね。」

「おー。」


矢田会長に会釈をすると、矢田会長からは持っているプリントをジー、と読みながら緩い返事が返ってきたら、俺は静かに部屋の扉を閉めようとするが、扉が閉まる前に突然現れた友岡先輩が、俺の腕と扉の間からにゅっと生徒会室を覗き込んできたから、俺は内心かなり驚いた。


「るいー先帰ってんぞー。」

「あ、うん。ごめん。」

「いいよー。飯はどうするー?」

「一緒に食べたい。」

「じゃあ待ってるなー。」

「サンキュー」


友岡先輩と軽く会話をした矢田会長は、俺の時とは違い友岡先輩に優しい笑みを浮かべた顔を向けて返事を返していた。

…ただの後輩と、好きな人とでは凄い違いだな。そんなことを考えながら、俺は扉から手を離すと、友岡先輩が「あ、ごめん」と俺を見て謝ってきた。

友岡先輩が顔を引くと、ガチャンと生徒会室の扉が閉まる。


「仲良いっすね。」

「うん。羨ましいだろ。」


友岡先輩はニタリと笑ってそんなことを言ってきた。


「別にそんなことないっす。」

「あ、そう。矢田くんと仲良くしやがってむっきゃー!!ってやつ多いんだぞ?」

「どっちかと言うと矢田会長が羨ましいです。」

「へ?」

「嘘です。言ってみただけです。」

「古澤くんって結構生意気だな。」


生徒会室を後にする俺と友岡先輩は、自然に会話をしながら共に帰路につく。なんかちょっとテンションが上がる。

気になってる人と一緒に帰ってるから?
でも相手には好きな人がいてちょっと複雑。


「先輩はどうやって矢田会長のこと落としたんですか?」

「ん?どうやって?…んー。ちょっと待てよ?どうやって?」


何気なく聞いてみた内容に、友岡先輩は腕を組んで考え始めた。そんなに思い出せないことなのか?


「どうやってだろうな?俺のが先にるいのこと好きになってー、るいに好きなことばれてー、そしたらるいも俺のことが好きだったという謎現象が起きてた。
人間ってのは実に不思議だな。あいつ前は俺のこと嫌ってたんだぞ?俺るいにクソクソ言われまくってたの知ってる?」

「あーなんか聞いたことあります。でも凄いっすね、今は矢田会長、もうすっかり友岡先輩にデレデレじゃないですか。」

「ああ、すげえキモいよな。あの俺に向かってクソガキとか言ってたるいが、『航くーん』とか言って甘えたな声出すんだから。」

「満更でもないのでは?」

「うん。羨ましいだろ。」

「え、あ…いや…。」


あまりに率直に言われるもんだからちょっと悔しい。それに、羨ましいだろ。って言う言葉を向けられるのが何より悔しかった。

何故なら、それは図星だったから。多分俺は、羨ましいのだ。想い合える相手がいる、友岡先輩と矢田会長が。

そして俺はこの時思った。

俺が友岡先輩のことを気になっているように感じたのは、俺もそんな相手が欲しかったからなのではないだろうか、と。


好きな人には見せられる恥ずかしい姿や声を、俺にも見せて欲しい、聞かせて欲しい、と思ってしまったから、だから俺は、ほんの一瞬だけ、友岡先輩のことが気になってしまったのだ。



「友岡先輩って矢田会長以外の人とエッチできます?」

「…は!?お前いきなり何聞くわけ!?」

「いやぁ、相手が矢田会長だから先輩あんな可愛い声出せるのかなーって思って。」

「ちょっ、お前俺にそんな話すんなや!!生意気だぞ!!」

「俺も好きな人が自分の前で可愛い声出して気持ち良さそうにしてる顔が見たいなあって思っちゃっただけですよ。やっぱり、好きな人とのエッチはイイですか?」

「……うん。」


先輩は俺の問いかけに、顔を真っ赤に染めながら小さな小さな声で頷いた。俺はそんな友岡先輩を見て、やっぱり可愛いなあ、って思ってしまったのだった。

それと同時に、やっぱり俺は、矢田会長のことが羨ましいな、と思ってしまった。


真っ赤な顔で頷いた友岡先輩をそんな気持ちで見ていたときのことだ。


友岡先輩の身体は突然後ろからグイッと誰かに引っ張られた。


「うわっ!?」


友岡先輩は驚きの声を上げ、そのままその手で抱き寄せられる。

そして友岡先輩を抱き寄せながら、これでもかというほど俺をキツイ表情で睨み付けてくる……それは、先程生徒会室で一人プリントと睨めっこしていたはずの、矢田会長だった。


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