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1年Sクラス古澤 貴哉は学年首席の秀才くんだが、それなりに整ったイケメン面に、運動神経もそこそこ良く、明るく人柄も良いため人望もあつく、交友範囲も広い。
3年Sクラス黒瀬 拓也や、2年Sクラス矢田 るいのような圧倒的オーラは無いものの、最も次期生徒会長に近い人物はこの古澤 貴哉だと言われている。
そんなこの古澤 貴哉、近頃密かに悩み始めたことがある。それは、自分の隣の部屋…矢田生徒会長の部屋に頻繁に訪れる友岡 航のことが気になっている…ということだった。
「…はあ。」
「あれー?なによ古澤、悩ましげにため息なんかついちゃって。」
朝、食堂で朝食を食べていると、おぼんを持った仁先輩が俺の顔を覗き込んできた。
「ここ座っていい?」
「あ、はいどうぞ。」
返事をすると、俺の正面におぼんを置いて席に着く仁先輩。そしてその瞬間ニヤリと笑い、「で?どうしたの?」と楽しそうに俺に語りかけてきた。
「…なんでも無いっす。」
「え〜?でもなんか悩ましげだったけど?」
「…ちょっと勉強してたら夜更かししすぎて朝から疲れちゃったんですよ。」
「おー偉いね、さすが首席くんだな。そういやさー昨日夜遅くまで友岡くんとるいの話し声聞こえてこなかったー?あいつ夜になったら窓閉めろよって思うんだけど。丸聞こえだから。友岡くん『服の中に手突っ込むな!』とか怒鳴ってたからまじ笑ったわ〜。」
楽しそうに笑いながらそんな話をして朝食を食べ進める仁先輩だが、まさに今俺がため息をついた原因はそれだった。
隣の部屋から声が聞こえることはまあ良くある。仁先輩の言った通り、窓が開いていたら勿論のこと。
しかし話し声ならまあいい。でもさすがに喘ぎ声まで聞こえるのはこちらからしたらたまったもんじゃない。普通に聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。姿は見えずとも、想像をしてしまうものだ。
普段の声より遥かに高い声で、切羽詰まったような友岡先輩の喘ぎ声。それは、普段のやんちゃっ子のような友岡先輩からは想像もできないくらい、色っぽい。
きっと矢田会長は、そんな友岡先輩のことが、さぞかし可愛くて可愛くて仕方がないのだろう。そしてそんなことを考える俺自身もまた、友岡先輩が喘いでいる時の姿を想像しては、きっと可愛いんだろうなぁ…だなんてことを思い始めてしまっていた。
「…昨日結局矢田会長の部屋に泊まったんすかねえ、友岡先輩…」
「んー、泊まったと思うよー?つーか最近ほとんど泊まってんじゃねー?あーほらきたきたー。おーいおはよー。」
どうやら矢田会長と友岡先輩が揃って食堂に現れたらしく、仁先輩は二人に向かって手を振った。数分後、俺と仁先輩が座るテーブルにやって来た二人がおぼんをテーブルの上に置く。
「ふぁ〜ねむっ。あ、古澤くん隣おじゃましまー。」
「あっ…どうぞどうぞ。」
欠伸をしながらの友岡先輩が俺の隣に座ってきたから、俺は少しだけ心臓がドクンと音を立てた。
「友岡くん眠そうだねぇ。遅くまでなにしていたのかなぁ?」
さっそく仁先輩が、あくびをした友岡先輩にニヤニヤしながら突っ込みを入れる。
「おべんきょだよおべんきょ。」
「え〜?なんか2人の声聞こえたけどとてもおべんきょしてるようには聞こえなかったぞ〜?」
「いやそれがちょっと聞いてくれよ、キミのお隣に座ってる野郎がな?人が真面目におべんきょしようとしてるのに背後からちょっかい入れてきやがんだよ!」
「へえ〜?ちょっかい?具体的には?」
「服の中に手入れて乳首触ってきたり腹撫でてきたりパンツに手入れてきたり。」
「…るい、お前やめてやれよ。」
友岡先輩の話を聞いた仁先輩が、若干引いた目で仁先輩の隣に座る矢田会長に視線を向ける。しかしそんな目で見られたにも関わらず、矢田会長はキョトンとしながら味噌汁を啜り始めた。
そして味噌汁の器から口を離し、「はぁ」と小さく息をついた矢田会長は、そこでようやく口を開いた。
「いいだろ別に。」
「あ、この人全然悪いと思ってない。」
「悪い?なんで俺が悪いわけ?」
「え、友岡くんがおべんきょしてる時にちょっかい入れるからでしょ。」
「…航問題解くのおせぇんだよ。」
「あなたの解くスピードと一緒にされると困るんですけどぉお!?」
ぼそりと呟いた矢田会長の言葉を聞き逃さなかった友岡先輩は、矢田会長のおぼんにドン!と納豆の入った器を置きながら言い返した。そして何事も無かったかのように朝食を食べはじめる友岡先輩。
「航くん俺納豆こんなに要らないよー。」
「納豆ねばねば平安京。」
「平城京だろ。」
「鳴くようぐいす平城京。」
「平安京な。航くんその覚え方間違うからやめたほうがいい。普通に覚えような。」
矢田会長はそんなことを言いながら、結局友岡先輩の分の納豆を食べていた。
すごく仲良いな、この2人。俺はなんだか少し複雑な心境で、2人のやり取りを眺めていた。
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