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一斉に6人が走り出し、最初に内側の良いポジションを取ったのは緑色のハチマキを巻いたやつで、その後ろに赤色のハチマキを巻いたクラスメイトが続く。

その後ろに青、白、黒、黄と続いているが、まだ大差はほとんど無く、俺たちEクラスは2位でバトンが回った。

しかし第2走者目の青いハチマキのやつがかなり走るのが速く、あっという間にクラスメイトが抜かされてしまう。

そのまま1位だった緑も抜かした青に続き、緑、赤、ときて、Eクラスの第3走者目は3位でバトンを受け取った。

後ろの白、黒、黄、という順位は変わらぬままで、俺はやたらとそわそわしながら黒の順位を注目する。


第3走者に入ると、白がグイグイと上げてきて、呆気なくクラスメイトは抜かれてしまい、4位に下がってしまった。

赤、黒、と続いている順位に俺はまた余計にそわそわする。そしてここで黄色も上げてきており、黒と黄色が接戦している。

青、緑、白に続き、次の第4走者目にバトンが渡る頃には、クラスメイトは黒と黄色に抜かれかかっており、え、まさかのビリいっちゃう?と思いながら、第4走者目のクラスメイトが走り始める。

この第4走者目のクラスメイトがなんとか黒と黄色から少し引き離すも順位は変わらず、青、緑、白、赤と続く4位で俺が走る予定だった第5走者目のなっちくんにバトンが渡った。

ここでなんとこのなっちくん、スーパー足速いのはみんなご存知の通り。

一瞬にして白との距離を縮めたなっちくんは、白を抜かしにかかった。順位は3位に上がる。

なっちくんの少し前に走る緑にも、なっちくんはグイグイ距離を縮めていく。なにあの子、超かっこいい…

おっと見惚れている場合ではない。

青と緑の1位争いに加わったなっちくんは、そのままマイケルにバトンを渡した。

ここで赤に抜かれて順位を落とした白に続き、黒、黄色で第6走者目にバトンが渡った。


赤が3位で黒が5位…なんか微妙だな。

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


マイケルも外国人顔なだけあってかなり走るのが速く、…いや外国人顔なのは関係ないけどとにかく速く、緑を抜かして2位に上がった。

うわ、このままいくとまさかの有言実行で1位で俺にバトン回っちゃう?と思いながら俺は白線の上に立った。やべえ、超ドキドキしてきた…。


しかし1位を走っている青色の奴もそこそこ速く、マイケルは少し距離をつけられてしまった。2位のまま俺にバトンが回ってこようとしているが、この時点で俺はチラリと黒の順位を確認する。

黒は白と接戦しており、4位と5位で際どいところだった。


いけるかもしれない。

このまま俺が頑張れば、るいから逃げ切れるかもしれない。


俺はふぅ、と息を吐いて、マイケルからバトンを受け取った。


走る距離は200メートル。余力など少しも残すことのないよう、俺は最初から全力で駆け出した。

1位を走る青色の奴など、ほんの少しの目標に過ぎない。とにかく後ろから追ってくるであろう黒に抜かされたくないから、俺はとにかく全力で駆け抜ける。


あと半周に差し掛かったところで、俺は1位を走る青の背中を捉えた。カーブに入る前にその距離を縮め、俺は青を抜かすことに成功する。

よし。これいけるんじゃねえの?と少し余裕ができたところで、俺はカーブに差し掛かった時、チラリと後方に目を向けた。


「!!!まじっ!?」


4位と5位で争っていたはずの黒が、たった今、青の背中を捕らえた瞬間を、見てしまった。

やばいやばいやばいやばいやばいっ!!

余裕かましてる場合じゃねえぞ俺!


「はあっ…、はあっ…、はあっ…、」


息を切らしながらも、俺は全力で足を動かす。

多分人生で今が一番全力で走っている気がした。

今までそこまで真剣に頑張らなくても、わりと勝負では勝てたりリレーでも活躍できたりしていたけど、『敵わないけど負けたくない、』と思ったのがはじめてで、今俺はるいに対してそう思っていて、だから全力で走っている。


あと少しでゴールテープにたどり着くことができるけど、俺の背後では荒い息と、タン、タン、タン、と速いリズムの足音が迫ってきている。


後ろを振り向かずとも、それの音がるいのものだと俺は分かって、だから俺は最後の力を振り絞るように、全力で足を前に進めた。


そして俺はグッとガッツポーズをしながら、白いゴールテープを切った。


「はあっ、はあっ、やった、っ!!」


疲れ果てた俺は、崩れるように地面の上に寝そべった。


「はあっ、うわっ、ちょー悔しいっ!!」


どうやらるいは、俺のすぐ後ろに迫ってきていたようで、息を切らしながら俺の隣にゴロリと倒れ込んだ。


「おまえ、やっぱはえーわっ!」


どの口がそれを言う、と俺はその時思ったが、でもるいがとても悔しそうな顔をして俺にそう言ってくるもんだから、俺はとても嬉しくて、「へへへ」と照れ笑いしたのだった。


「やばい!見ててまじ興奮した!!」

「航お前頑張ったなぁ!!」

「矢田くん追い上げはんぱなかった!」

「でも航の最後まで全力疾走すげえかっこよかったよ!!」


地面に寝そべって呼吸を整えていた俺の元に、なっちくんやリレーメンバーが集まってきて、俺はかなりのお褒めの言葉を頂いた。


「あーっ悔しい!あとちょっとだったのに。」


俺の隣に寝そべっていたるいは、そう言いながら身体を起こし、俺にチラリと視線を向ける。そしてニッと笑いながら、俺に向かって言ってきた。


「でもちょー楽しかった。どう?航も俺と走って正解だろ。」


それはきっと、俺がるいと走ることを嫌がっていたから向けられた言葉なのだろう。確かに走る前は嫌だったけど、でも抜かれたくない、って思って全力で走って得た達成感や、爽快感がはんぱない。


「うん、サイコー、超良い気分。」


俺はニッと笑いながら、身体を起こし、るいに視線を合わせてそう言った。

こうやって、真剣に競うことも案外悪くない。まあでもスタートラインが一緒なら、俺は100%るいに負けるだろうけど。


「よかったぁ、逃げ切れて。」


ふふっと笑えば、るいも同じく俺に笑みを見せてきた。


「この勝負は航の勝ちだな。」


おお。スタートラインは全然違ったけど、俺の勝ちにしてくれるのか。


「あれ?じゃあひょっとして1対2で俺の勝ち?なんだったっけ!?負けた方が勝った方のお願い!!」


まさかの展開に、俺は興奮気味に飛び上がった。


「ああ、そういうことになるな。いいよ、お願い聞いてあげる。」

「まじか!!!!!」


もうとてもテンションが上がった俺は、グラウンドでは3年のリレーが始まっている中、コースの内側でるいの首に飛び付いた。


「はいはーいいちゃつくのあとあと。」


しかし忘れていたが俺たちの側にはクラスメイトがいて、クラスメイトたちにるいに抱き着くことを止められてしまった。


「うわーまじかぁ。お願い考えよー。」

「なになに?矢田くんに?お願い?」

「うん、るいがお願い聞いてくれんの。何がいいと思う?」

「そりゃもちのろんこれっしょ。コンドーム口に咥えて『抱・い・て?』だな。」


真面目な顔をして言うクラスメイトに、お前正気か?と思ったが、俺の隣にさらに正気でない奴がいた。


「お、それ良いな。採用。」


なにが採用だふざけんな!と、俺はそう言った男、るいの頭を殴りつけた。


「わははは!!まじかよ!矢田くんまさかの採用!!!航お前まじで抱いてもらえば!?」


クラスメイトはきっとるいが冗談で言っているんだと思って爆笑してるけど、あれまじで言ってるから。


「却下。もっと他のお願い考える。」

「お前もったいねえって!矢田くんお前を抱いてくれるって言ってくれてんだぞ?」

「なにがもったいねえんだよ!この人隙あらば俺を抱こうとするからな!?」

「ええっ!?」


驚いたようにるいを見るクラスメイトに、るいはつんとした顔でそっぽ向いていた。素知らぬふりしやがって………

覚えとけ、俺はるいに、あっと言わせるお願いしてやる!!!


こうして、熱く盛り上がった体育祭は、全種目が終了し、幕を閉じた。


リレーや騎馬戦、棒倒し、それから俺は出ていないけど、綱引きや大縄跳びで好成績を残した2年Eクラスは、当然のように学年優勝という結果に終わり、俺たちは大満足で、テンション高らかにグラウンドを後にした。


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