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体育祭の種目は、残すところあとはリレーのみとなった。

待機場所で俺たちは口々に、リレーについてのあれこれを語る。


「やっぱリレーって超注目されるし一番緊張しない?」

「あーするする!バトン落としたりとか抜かされたりとかしたらまじ嫌だなー!」

「BクラスとCクラス陸上部いるらしいけど速いのかな?」

「いや、Bクラの方は投擲でCクラは幅跳び専門らしいよ?大丈夫じゃね?」

「AクラとBクラのサッカー部の奴も走るっつってたけど俺より走るの遅いよ。」

「いやなっちくん普通に短距離クソはえーからその比較はアテにならん。」

「やっぱこわいのは矢田くんだよな。」


誰かのその言葉に、皆「うん。」と大きく頷いた。皆の視線が一斉に少し離れた位置でSクラスの奴らといるるいに向けられる。そして、俺たちの視線に気付いたるいが、ゆっくりとこっちに歩み寄って来た。


「うわ、来た。」

「うわってお前。」

「最近航矢田くんの扱いひどくね?」

「気の所為だろ。」


俺がるいをひどい扱いするわけがない。
だって俺はるいを愛しているから。

…おっと。くさいセリフは苦手である。


「航何走者目?」

「1。」

「お前しれっと矢田くんに嘘ついてんじゃねえ!」


痛っ、バシンとクラスメイトに頭をしばかれ、俺はジトリとクラスメイトを睨みつけた。


「なちくん、航何走者目?」

「なっちくん言ったら殺す。」

「航5走者目だよ。」

「なっちくん殺す!!!!!」


俺を裏切って呆気なく本当の順番を言ってしまったなっちくんに俺は掴みかかろうとすると、るいは俺より先になっちくんへ手を伸ばし、なっちくんの肩に腕を回して俺に背を向け、少し離れた場所へ歩いて行ってしまった。


「うわ、なっちくん連れてかれたぞ。」

「航あれほっといていいの?」

「なに喋ってんだろうね?」


皆が気になってるように、勿論のこと2人の様子が気になる俺は、ジッとるいとなっちくんの様子を睨みつけるように見ていた。



「なっちくんるいと何話してたんだよ。」

「内緒。」


その後、なっちくんのみが俺らの元に戻ってきて、俺はすかさずなっちくんに問いかけた。

しかしなっちくんは答える気が無く、そっぽ向く。るいはと言えば、再びSクラスの奴らが固まって話しているところに戻ってしまった。

くっそぉ…、るいのやつなっちくんにちょっかい出しやがって。とイライラしている最中、「じゃあリレー出場選手はコースの内側に入って」と誘導係に声をかけられ、俺たちは待機場所からグラウンドの中央へ足を進めた。


最終種目だけあるのと、やはり一番盛り上がるのがこれから始まるリレーなだけあって、リレー開始前からグラウンドは熱気に包まれている雰囲気だ。


「うわ俺しょんべん出そう。」

「勝手に出しとけ。」


マイケルひどい。

俺の後ろの順番で待機するのは外人顔のマイケルで、俺に対して冷たいマイケルに俺は「ケッ」と唾を吐き出しそうになった。便所に行っておけばよかった。


そうしているうちに、いよいよ体育祭最終種目、リレーが始まった。1年のリレー選手が白線の前に並ばされ、ピストル音が鳴らされ6名が一気に走り出す。

お、赤色速いじゃねえの、いいぞいいぞ。何クラスだっけ。まあなんでもいいけど。

抜きつ抜かれつの戦いが行われている中、俺たちとは一番離れた列の一番後ろで待機しているるいにふと視線を向けると、るいは俺の視線に気付いたようで、ふっと表情を和らげる。

そんな表情を今俺に向けるのはやめたまえ、だってお前は今俺たちにとって最大の敵なのだから。

そこにいるということは、お前やはりアンカーだな?と思いながら、俺はるいにべー、と舌を出した。言っとくけどなっちくんだって足めちゃ速いんだからな!!!

しかしるいがアンカーで良かった。

ほっと息を吐いていた俺は、「航、航」と背後からなっちくんに呼びかけられ、振り向いた。


「ちょっとこっち来て。」

「は?なに?」

「いいから。」


なっちくんはちょいちょい、と手招きする。

俺はなっちくんの元へ歩み寄ると、なっちくんは俺の肩にポンと手を置いた。


「矢田くんから伝言。」

「は?るいから?」

「『まだ一勝一敗だろ?』って。」

「え、なに。ちょっとよく意味が。」


今このタイミングで俺に話しかけてくるなっちくんに困惑している間にも、1年のリレーは早くも終盤に差し掛かっている。

1位と2位が接戦のようで、観客はかなり盛り上がっており、歓声がすごい。

そんな中、なっちくんはトン、と俺の肩を押して、俺より一歩前に出て口を開いた。


「どうせなら航が矢田くんと走れ。」


なっちくんはそう言いながら、俺が居た位置、第5走者目の位置へ移動した。


「はっ!?」


突然のことで俺は勿論声を上げて驚いた。その後なっちくんは俺の方へ振り返らず、第4走者目のクラスメイトと話している。

いやいやいや、と俺が冷や汗をかきはじめた頃、1年のリレーは終了しており、2年の第1走者目のリレー選手が、白線の前で準備をしていた。


なっちくんと会話をしていたクラスメイトは、なっちくんから順番を変えた話でも聞いたのか、にやにやしながら俺に視線を向けてくる。


「えっ!?ちょ、まじかよ!!なっちくんお前ちょっとまじふざけんな!!!」

「ふざけてないふざけてない、絶対この方が盛り上がる。」

「いや盛り上がりとか求めてねえから!!」

「航、大丈夫。1位でお前にバトン回してやるから。」


焦る俺に、マイケルが俺を励ますように、白い歯を見せていい笑顔でそう言ってきたが、ちょっと待て、1位でバトン回って来る方が嫌だわ!!!

だってつまりそうなると、るいが後ろから追いかけて来るってことだろ!?


「いやいやいやいや!!まじで無理!嫌だ!!」

「航、もう始まるから大人しくしろって。」

「うわぁああぁんみんなひどいよぉ!!!」


俺が一人、可哀想に地団駄を踏んでいるなか、『パンッ!!!』とピストル音が鳴らされた。


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