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騎馬戦のルールはこうだ。
1戦目、S、B、Dの3クラスが戦い、2戦目A、C、Eの3クラスが戦う。3戦目に6クラスすべての生き残りの騎馬が戦うことになる。だから俺とるいが共に生き残ると、3戦目に俺はるいと戦わなければならない。
1戦目にるいが運良く誰かに倒されやしないだろうか、と思ったが、それもなんだか嫌だな。と思った俺は面倒くさい性格だな。るいが誰かに倒されるなら俺がるいを倒したい。いやそもそもあのチンパンジーを倒すことは不可能だった。俺は全力で逃げる。
「キャッ!矢田くんだ…!」
るいの前に立ちはだかった騎馬は皆、るいを前にして手も足も出ない。ていうか照れてる奴はなんだ、勝負しろ。
下だと言ってたのはやっぱり嘘で、るいは存在感をこれでもかというほど出し、騎馬の上で構えていた。
もちろんるいは俺の想像通り、淡々と敵のハチマキを取っていく。取られたものは『矢田くんだから仕方ない』という風に諦めて戦場を去っていく。
中には顔を赤くして照れながら去っていく奴もいるから、お前なんのために騎馬戦に出たんだ、と問いたくなる。
約3分の2の騎馬が消え去ったところで、ホイッスル音が鳴り響く。
るいに狙われなかった騎馬はとてもホッとした表情をしていたが、少し、残念そうでもあった。どうやらるいに狙われることは光栄なことらしいな。ふざけるな。
さて、次は俺の出番だ。
ダークホース航と呼んでいただきたい。
るいもいないこの1戦目は楽しみしかない。
ペロリと舌を出して唇を舐め、頼もしい馬と共に俺は戦場へと足を進めた。
「背後から迫ってくるのが一番こえーだろうから、俺は後ろから狙うぜ。基本は屁っ放り腰のやつな。」
「悪どい。」
「さすが航。」
「うむ。もっと褒めていいぞ。」
「褒めてはいねえよ?」
「あっそう。」
まあいい。俺は敵の馬を端から端まで眺めて、試合開始までの間狙いを定めた。
こうして騎馬戦の幕は開かれる。
俺を担ぐクラスメイトはわりとガタイが良い。そして情けないことに俺はそこまで重く無いから運ぶのも楽なようで、馬の足はとても速い。
試合開始初っ端から、屁っ放り腰の奴に突き進んでいき、俺は頭上から敵のハチマキを奪い取った。
「うわ、わっるい顔。」
途中ですれ違った仲間の馬にそんなことを言われたが、まあよかろう。良い褒め言葉だ。
しかし後ろから狙おうと思っているのは何も俺だけではなく、敵も俺のハチマキを背後から狙ってくる。
「なぬっ!?卑怯な真似しやがって許さん!!」
卑怯な真似を考えている俺が言える台詞ではないが、俺が狙われた時は別問題だ。俺は伸びてきた手を掴んではたき落とし、グイッと身体を捻って手を伸ばして敵のハチマキを取った。
「おお、今のは凄かったぞ。」
「だろ。」
冷静に褒めてくるチームメート。
褒めるのはあとにしてくれ。
そしてさらに俺は近場の馬を襲いにかかる。別の騎馬と戦っている最中の敵のハチマキを取るのもまた良し。
こうして俺は約数分間で、自分のハチマキを死守しながら、着々と敵のハチマキを取ったのだった。
「ふぅ。」
「おつかれ。」
「お前ハチマキ取りすぎ。」
「航何騎馬倒したの?」
「さあ。」
一時の休息タイム中、観戦していたクラスメイトが話しかけてくる。
騎馬戦の3戦目はどの学年も最後に行われるから、るいとの戦いは3年の騎馬戦と1年の3戦目が終わってからである。
いや、戦いっつっても俺は逃げるけどな。
「航のクソガキっぷり久しぶりに見た気がする。」
休息している俺の元に、スポーツドリンクを持ってやって来たるいが笑い混じりにそう言って、俺にそのペットボトルを差し出した。
「あー楽しかった。」
やっぱり負けない戦いは楽しい。るいのスポーツドリンクはありがたく頂きながら、俺はるいにそう言う。
クスリと笑いながら「俺との勝負も楽しそうにしてほしいなー」とるいは言うけど、無理だろ。
負けると分かってる戦いを、俺は楽しめない。
「まあ精々頑張って俺のハチマキを狙うが良い!俺は全力で逃げてやるからな!」
俺はそう言って、るいにペットボトルを押し付けた。
「逃げられんのは嫌だな…。」
俺がるいの前から立ち去ったあと、るいはやや苦笑気味になり、小声でそんなことを呟いていた。
こうして、騎馬戦はいよいよどの学年も、残すところ生き残り騎馬の戦い、第3戦目だけとなる。
1年の第3戦目の戦いもあと僅かだという頃、俺たちは再び騎馬を組んだ。全滅しているクラスもいれば、ほとんど生き残っているクラスもいる。まあ言わずもがなEクラスのことだ。
手荒な奴が多いからな。
え?お前が一番手荒だって?
そんなことは知るか。
Sクラスの騎馬もわりと生き残っている中、やはり一人だけオーラが違うのはるいだ。
俺はこの戦い、敵のハチマキを狙うという目的は一旦置き、るいから逃げることを最重要とする。だってハチマキ取られたらその時点で終わりなんだから。
1年の第3戦目が終了し、全生き残り騎馬の準備が整ったところで、俺たちは位置につき、戦い開始のピストル音が鳴るのを待った。
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