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結局Tシャツを脱ぎ捨てたのは、棒倒しが始まる少し前だった。1年生の棒倒しを行っている間に、2年生は準備を完了させる。


「おい見ろよ、矢田くんのあの見事な身体。無駄な肉がない上に、程よく鍛えられた筋肉。そしてスラリとした細く滑らかな肌の腰。イキそう。」

「モリゾーお前マジ死ね!!!」


2年Sクラスの場所で待機しているるいをまじまじと見つめるモリゾーが、評論家のように語っている。しかし残念なことに、るいのことをまじまじと見ているのはモリゾーだけではない。るいの近くにいる奴なんか、真顔で顔を赤くしてるいのことを見つめている。

みんな分かっているのか、あの身体が俺のものだと言うことを。皆の者、あれは俺のものだ。


「今航が本気で憎く思った。」


るいを見つめながらクラスメイトはそんなことを俺に言ってくるから、あ、ちゃんと俺のものって分かってくれてるんだな。と俺はニンマリと笑った。


そうこうしているうちに、1年生の棒倒しが終了し、2年の棒倒しが開始される。

1回戦からSクラスとAクラスの戦い、るいの出番で、初っ端からグラウンドは異様な盛り上がり方をする。


「るいどっちかな攻め?防御?」

「そりゃ矢田くんは攻めるっしょー!」

「やっぱり?俺もそう思う。」


…と俺も友人たちもそんな予想をしていたが、なんと驚くことに、るいは防御側に回っていた。ちなみに仁が攻めに回るらしい。


「うわあぁぁちょっと待てよぉぉ矢田くん踏むなんてできませぇぇん!!!」


あ、理解した。これは2年Sクラスの作戦だ。

るいに棒を守らせて、棒の先についている旗を取るために棒をよじ登ろうとする生徒をるいが阻止するのだ。そうしてそのあいだに仁が相手側の棒によじ登り、旗を取る。

ここの学校では完全に棒が倒れなくても、旗さえ取れれば勝ちなのだ。


こうして初戦を勝利した2年Sクラス、ずるい奴らめ。

俺はるいを踏み越えて勝つ!!!



そしてBクラス対Cクラスの戦い後、俺たちEクラスの出番がやってきた。相手はDクラス。絶対に負けるわけにはいかない戦いである。

まあ負ける気しねえけどな。
だって俺が光の速さで旗とるから。


「うっしゃぁあ行くぞぉおお!!!」

「「「ぅおおおおお!!!!!」」」


ピストル音が鳴り響いて、俺は相手チームの棒に向かって猛ダッシュした。

俺と一緒に猛ダッシュしたなっちくんはやはり走るのが速く、俺より先に相手陣営に到着していたが防御班に邪魔されていて全然棒に近付けていない。

そこで俺が敵を交わしながら、「とうっ!」と棒に向かってジャンプした。


「踏むからな!踏むからな!先に謝るけど俺はお前らの頭を踏むからな!」


はい、踏みましたごめんなさい。

敵の身体を思いっきり踏みつけ、俺は棒によじ登った。

これが例えるいだとしても、棒倒しにおいて俺はるいを踏みつけると決めたからな。

俺の身体の重みに耐えられず、棒は徐々に傾いて行く。クラスメイトも俺に続いて、よじ登る。

手を伸ばして、あと数センチだ!という時、なんと下から手が伸びてきて、なっちくんに旗を奪われてしまった。

そこでグラウンドにはホイッスルが鳴り響く。勿論、Eクラスの勝利だ。


「あっ!くそ!てめえ!俺が旗取りたかったのに!!」

「いやいやそこは誰でもいいだろ、航のおかげで旗が取れたようなもんだって。」

「俺が取りたかったんだよ!!」

「次取ればいいだろー、次も頼むって。」

「当然だ!!」


次は俺が旗を取る。

やる気に満ち溢れながら、俺たちは控え場所へと退場した。



勝ち進んだのはS、C、Eクラスで、次にSクラス対Cクラスが行われる。その次にCクラス対Eクラスで、最後にSクラス対Eクラス。

最後にこのカードを持ってくるあたり、頭良いクラス対悪いクラスで見せ物扱いされているかのようである。

絶対に負けたくない。

俺はるいを踏みつけて勝つ!!

もう一度そう決意したところで、Sクラス対Cクラスの戦いが始まった。

やはり仁が攻めてるいが防御側に回っている。1回戦と同じ戦い方で、中央で棒を支えているるいから無理矢理棒にしがみつこうとしている者がいないため、もたもたしている間に仁が棒を倒して他の生徒が旗を取っている。ひょっとすると敵は仁に踏まれて喜んでいるのではないだろうか。いやくだらないことを考えるのはやめよう。


やはりこのバトルも、Sクラスのズルい勝ち方で終わったのだった。


俺はそうはいかんからな!!!

俺はるいの頭を踏みつける!!!

決意が揺らがねえように何度も言おう。

俺はるいの頭を踏みつける!!!


敗者Cクラスには可哀想だが、もう一度負けてもらうことになる。

再び戦場の場へ赴く時、Sクラスが入れ替わりに控え場所へやって来た。その時るいと目が合ったが、なんと奴はにやりとした悪い顔で俺を見てきたのだ。

あの顔にはろくなことがねえぞ!?

…と思っていると、るいがだんだん近づいてきて、すれ違い様にるいは俺に向かって言ったのだ。


「航との勝負たのしみだなー。」

「…は?…いやいやいや。」


俺との勝負じゃなくて、Sクラス対Eクラス、な。なに勝手に俺との勝負とか言ってんだ。

しかし反論している暇はなく。

間も無くCクラスとの戦いがはじまる。


今回も俺となっちくんが飛び出すように攻める。なっちくんは今度は上手く棒に触れたようで、俺より先に棒をよじ登ろうとしたが、旗を取るのは俺だ!!!!!


俺は今回も敵の肩や頭を踏みつけ、「ほっ!」と棒にしがみついた。

なっちくんが苦戦している様子を視界の端に入れながら、俺は両手足を使って棒によじ登る。

俺となっちくんの身体の重みで徐々に棒は傾いていくが、旗は俺が取る!!俺はよじ登って旗を取りたいのだ。


手を伸ばして、あと少しだ…!


というところで、「航ナイス!」…!!!

ク〜ソ〜カ〜ベ〜!!!!!


傾いた棒の先に手を伸ばしたクソカベが、俺が取るはずだった旗を取ってしまった。そしてホイッスルの音が鳴り響く。


「俺が取りたかったのに!!!」

「いやこれこういうゲームだろ。」

「俺は登り棒が得意なんだよ!!」

「いやこれ棒倒しな。」


クッソぉ!!!次だ、次!!!

俺はるいを踏みつけて、旗を取って勝つ!!!


こうして、Cクラスとの勝負は当然ながらEクラスの勝利で終わり、残るはSクラス対Eクラスのみとなった。


ズルクラスには絶対負けねえ!

俺はるいを踏みつけて勝つ!!!


「矢田くんがんばれー!!!」

「仁くんいったれー!!!」

「友岡 航!矢田くん踏んだら承知しねえぞおお!!!」


……ふむ。どうやら俺に踏まれた覚えのあるやつが俺に野次を飛ばしているようだ。

しかし俺の決意は固い。

俺はるいを踏みつけて勝つ!!!

しつこく言ってすまない。


こうして、2年棒倒し最終ゲーム、Sクラス対Eクラスの戦いがはじまろうとしていた。


…が、ちょっと待ってほしい。この展開は読んでいなかった。…いや、最初は読んでいたかもしれない。

だが、ここへきてそう来るとは思っていなかった。


「なんかるいがスタートラインに立ってるんですけど!?」


…るいが、攻めてこようとしていた。


「おい!矢田くんこっち来んぞ!!」

「まじかよ!なんでだよ!!!」

「お前ら矢田くん来ても遠慮すんじゃねえぞ!?」


俺の背後で防御班が焦り始めている。そして観客は「矢田くんが攻め側だ!」と盛り上がっていた。


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