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【 file5:晃、絶望感を味わう。 】
僕は、高校1年の頃からずっと航のことが好きだった。
航はかっこいい。バカだけど、頭は悪いけど、運動できるし足速いしかっこいい。
そんな航に、僕は抱かれる想像を何度も、何度もしたことがある。逆に男も女も自分が抱くのは想像できない。女々しい僕だけど、それが僕だ。
もし航に抱かれたら、どんな感じかな。
僕のことを見つめて、キスをしてくれて、ゆっくり入れてくれたら幸せだな。とか。僕は人には言えないことを何度も何度も想像したことがある。
そんな、想像だけでも幸せになれる僕の日常を壊したのが、矢田 るい。あの男だ。
最初はそりゃ僕だって矢田くんのことはイケメンだ、イケメンだ、って見てはしゃいでた。だってほんとうにアイドルみたいなんだから。逆になんでアイドルグループに入ってないの?って疑問に思ったくらい。
でも、例えそこまでのイケメンが身近にいても、やっぱり僕は航の方がかっこよく見えて、好きだった。
だから、僕の日常から矢田くんに航を奪われた時、僕は一気に矢田くんのことが嫌いになった。
いつも航と僕は一緒に過ごしていたのに、航と矢田くんが両想いになってからというもの、二人はいつでも一緒にいる。
周りも口々に航と矢田くんを見て『仲良しだな』とか言ったりしてて。僕はたまらない思いで、日々を過ごしていた。
そして、時間がそんな僕の心を癒してくれた。時間が経つにつれて見慣れてくる。見慣れると、なんだか吹っ切れてくる。
吹っ切れたら、もうなんでもいいや、って。航に思いっきり抱きついちゃえ、とかも思うわけで、なんならキスしちゃえ、とも思うけど、誰かのものと分かっててキスをできるほど、僕は図々しくなかったようだ。
こうして僕の、どう頑張っても報われそうにない片想い生活は淡々と過ぎていくのだが、ラブラブな様子を見せる2人に周囲はだんだんある話題をするようになる。
それは、矢田くんと航がもうヤったのか、ということだ。
そんな話題を聞いた僕は、それを聞くたびに思っていた。
航と矢田くんがヤったとかヤらないとかいう話題はおかしい、と。
航と矢田くんはヤらないよ、と何故か勝手に思っていたのは、どう考えても航は僕の中では抱く側だったからだ。
航が誰かに抱かれるなんてあり得ない。でもやっぱり矢田くんと航なら航が抱かれる側だよな。と周囲は口々に噂する。
僕は聞いていられなかった。
そして状況はどんどん、僕の悪い方へ進んでいくのだ。
「あれ絶対もうヤってんだろ。」
誰かがそんなことを口にするのは、航と矢田くんが所構わず手を繋いでキスをしていたからだ。
キスをしたのは矢田くんからで、航はキョトンとした顔で矢田くんからのキスを受け入れている。
僕の心臓はドクン、ドクン、と変に音を立てていた。
「そういやこの前航の部屋に遊びに行った時ちょっとトラブってさ、矢田くん怒らせたんだけど……。」
コソッと内緒話をするように話すのは日下部で、周囲のクラスメイトは日下部に身を寄せて話を聞いている。
そんな彼らの会話に僕もしれっと加わると、日下部は興奮気味に口を開いた。
「矢田くん、航のパンツに手突っ込んでちんちんイジってたぞ!!」
「まじか!?」
「あの矢田くんが!?」
僕は、聞くんじゃなかった、と思った。
航と矢田くんのそういう話題は、聞く前は気になって仕方ないのに、聞いてしまうと聞いたことを後悔するのだ。
しかし今度は何事かと思えば、航と仁くんが何故か親しげに話している。それもちょっとコソコソしててかなり怪しい。
僕は彼らの会話を聞くためにゆっくり、ゆっくり近付くが、彼らの声はだんだん興奮気味になってきており、声のボリュームが上がっている。
そこで聞いた会話に僕は、絶望感を味わった。
「あーっやっぱ想像できないんだけど!友岡くんとるいがヤったとか!」
「いや想像しなくていいから!お前も大概どスケベだろ!!」
「だってさ、るいが腰振るの?友岡くんが突かれるの?無理無理、想像できない!」
「いやだから想像すんなって!お前プライバシーの侵害だぞ!」
僕は耳を疑った。
でも一切否定をしない航。
何より僕の心臓をえぐりつけてきたのは、仁くんの『友岡くんが突かれるの?』という言葉。
どうやら僕の恐れていたことが、現実になってしまったらしい。
航が矢田くんに、抱かれてしまった……。
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