4 [ 93/188 ]
「「るいきゅ〜ん」」
その後、授業参観が終了したあと、親子揃って俺の元に現れた航と航のお母さんが、親子似たような言い方で俺の名を呼ぶから、俺はまた笑いそうになってしまった。
「マザーがもう一目るいのこと見てから帰りたいんだってー。」
「だってー!るいきゅんまじでイケメンなんだもーん、あっちょっと並んで並んで、写真撮らせて!」
航のお母さんはそう言って、俺の隣に航を立たせてきた。航は「えー」と不満そうな表情を浮かべている。
「いいじゃんいいじゃん、1枚だけ!」
「るい写真撮るの嫌いなんだぞ?」
「えっそうなの!?」
「あ、いや、全然。平気ですよ。」
航のお母さんが少し申し訳なさそうに言ってくるもんだから、俺は航のお母さんにそう言うと、航の目が大きく見開き、まじまじと俺を見つめてくる。
「ほんと!?良かった!じゃあはい、ピース!」
航のお母さんの掛け声に、少し照れ臭くなりながらも航の肩に手を置いてピースをすると、カシャ、と1枚写真が撮られた。
「えっどんなのどんなの!?
……うおお!母ちゃんこれ送って!!」
航が航のお母さんの持つ携帯を覗き込んでいた時、「あっ!航くん!私も私も!」と俺たちのやり取りに気付いた俺の母さんが駆け寄ってきたから、俺は「うわ、」と小声を出しながら眉を顰めた。
「なによ嫌そうねえ。」
「あ、母ちゃん!この人るいの美人ママ!!」
「え!?るいきゅんのお母さん!?やだー!お綺麗ねー!!あっ航の母ですー!」
「きゃー!航くんのお母さん!お会いしたかったですー!!」
「ええ!?そうなんですか!?」
「この前うちに遊びに来てくれた時から航くん、明るくて元気で良い子ねーと思ってて!」
「えっうちの子お邪魔したんですか!?やだー!もうこの子ったら何も話さないから!!もう!!」
「痛っ」
バシンと強く航のお母さんに頭を叩かれた航は、航のお母さんから逃げるように再び俺の隣にやって来た。
「あっとりあえず私も一枚撮りたいな!」
「ええ…。」
「ちょっとるい!さっきは笑顔だったじゃない!」
「あ、るいきゅんママ私が撮ったやついりますー!?」
「えっいいんですかぁ!?そうだ!良ければこの後お茶しません!?」
「あっいいですねぇ!!!」
なにやら盛り上がり始めた母親同士の会話をする光景に、航は「なんか盛り上がってんぞ。」と指を指す。
「ああ、盛り上がってんな。」
「帰る?」
「帰るか。」
「母ちゃん俺らもう帰るからー。」
「え?あっ!ちょっと!航また連絡しなさいよ!それとるいきゅん!必ずうちに遊びに来てね!!」
「あ、はいお邪魔します。」
「航くんも!またいつでもおいでー!」
「はーい!じゃあまたー!」
そう言って、教室を出た俺と航。
廊下から教室の中を覗き込めば、楽しそうに航のお母さんと会話をしている俺の母親。
俺はなんだか、とても奇妙な光景だな、と思った。
「あ、母ちゃんからメールきた。あ、さっきの写真付きだ、やったー。保存保存。」
寮への帰り道、スマホをポケットから取り出した航は、嬉しそうにスマホをいじっている。
「航って母ちゃんと仲良いな。」
「え?そうか?」
「俺んとこ来た時息ぴったりで笑いそうになった。」
「あっ!つーか笑ってただろ!!」
「うん。笑った。」
あまりにも2人が似ていて、なんだか微笑ましかったのだ。
「うーわ、母ちゃんからのメールで次の休みにるいきゅん連れてウチに来なさい、だって。やだよめんどくせー時間かかるし。そのうちな、っと。」
航のお母さんへメールを返信した航は、「見て見て〜俺とるいのツーショット〜」とへらりと笑って俺に先程の写真を見せてきた。
「母ちゃんたまにはいい仕事するな、るいが笑顔でピースしてるのとか超レア。」
「おいこら、ズームすんな。」
「イケメーン、るいきゅんイケメーンちゅう〜」
そう言って航は気持ち悪くスマホ画面に唇を寄せるから、航の手からスッとスマホを抜き取った。
ズームされた俺の顔面を元のサイズに戻して、そこに表示された写真を眺める。
そして俺は、無言で航のスマホを操作し始めたから、航は「ん?るい?」と不思議そうに呼びかけてきた。
数十秒後、「はい。」とスマホを航に返すと、「ん?なんかした?」と首を傾げる航に「いーや別に?」と素知らぬ顔をして航から視線を逸らすが、実は航のスマホから俺の携帯へ写真を送信しただけで、ただそれだけのはなしである。
思えば俺と航のマトモな写真など、まあ俺が写真を嫌がるからかあまり無い。…だから、なんか、いいなって思ったから。
俺もちょっと欲しくなった。
「つーかこの写真絶対母ちゃん待ち受けにしてるよ。るいきゅんまーじイケメンだから。」
「いやだからズームすんなって。」
何回言っても俺の顔をズームして遊んでる航の頭をペシンと叩く。そしてまた航は「ン〜ちゅ、」と気持ち悪くスマホ画面に唇を寄せている。
あまりの気持ち悪さに、航の手から再びスマホを取り上げた。
「あっ」
そして横から、航の唇に顔を近づけ、キスをする。
「スマホ画面はすげえ汚いんだぞ。」
キョトンとしている航にそう言いながらスマホを返すと、航はジーと俺を見てきた。
「そ、そうだな?生身のるいが隣に居るのに、なにもスマホ画面とキスする必要はねえな…?」
「生身って言い方はなんかやめろよ。」
「最近るいきゅん、人目も憚らずキスしてくるから俺戸惑ってる。」
「そこに生身の航くんがいるから?」
「やだー、俺照れちゃう。」
「お前の『やだー』っていうのお母さんそっくりだよな。」
「やだーるいきゅん。」
「もういいってそのダジャレは。」
「俺のおかんも帰って絶対言ってるわ、写真見ながらやだーるいきゅん素敵〜とか言ってるわ。」
「お前の母ちゃんまじお前。」
「よく言われる。」
「どうせお前の兄ちゃんもお前にそっくりなんだろ?」
「あ、それは否定させてもらうわ。」
「あそうなんだ?」
人の家族に興味を持つのははじめてで、いつか航の兄ちゃんも見てみたいなあと思ったのだった。
19.航とるいと保護者たち おわり
[*prev] [next#]