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「「るいきゅ〜ん」」


その後、授業参観が終了したあと、親子揃って俺の元に現れた航と航のお母さんが、親子似たような言い方で俺の名を呼ぶから、俺はまた笑いそうになってしまった。


「マザーがもう一目るいのこと見てから帰りたいんだってー。」

「だってー!るいきゅんまじでイケメンなんだもーん、あっちょっと並んで並んで、写真撮らせて!」


航のお母さんはそう言って、俺の隣に航を立たせてきた。航は「えー」と不満そうな表情を浮かべている。


「いいじゃんいいじゃん、1枚だけ!」

「るい写真撮るの嫌いなんだぞ?」

「えっそうなの!?」

「あ、いや、全然。平気ですよ。」


航のお母さんが少し申し訳なさそうに言ってくるもんだから、俺は航のお母さんにそう言うと、航の目が大きく見開き、まじまじと俺を見つめてくる。


「ほんと!?良かった!じゃあはい、ピース!」


航のお母さんの掛け声に、少し照れ臭くなりながらも航の肩に手を置いてピースをすると、カシャ、と1枚写真が撮られた。


「えっどんなのどんなの!?

……うおお!母ちゃんこれ送って!!」


航が航のお母さんの持つ携帯を覗き込んでいた時、「あっ!航くん!私も私も!」と俺たちのやり取りに気付いた俺の母さんが駆け寄ってきたから、俺は「うわ、」と小声を出しながら眉を顰めた。


「なによ嫌そうねえ。」

「あ、母ちゃん!この人るいの美人ママ!!」

「え!?るいきゅんのお母さん!?やだー!お綺麗ねー!!あっ航の母ですー!」

「きゃー!航くんのお母さん!お会いしたかったですー!!」

「ええ!?そうなんですか!?」

「この前うちに遊びに来てくれた時から航くん、明るくて元気で良い子ねーと思ってて!」

「えっうちの子お邪魔したんですか!?やだー!もうこの子ったら何も話さないから!!もう!!」

「痛っ」


バシンと強く航のお母さんに頭を叩かれた航は、航のお母さんから逃げるように再び俺の隣にやって来た。


「あっとりあえず私も一枚撮りたいな!」

「ええ…。」

「ちょっとるい!さっきは笑顔だったじゃない!」

「あ、るいきゅんママ私が撮ったやついりますー!?」

「えっいいんですかぁ!?そうだ!良ければこの後お茶しません!?」

「あっいいですねぇ!!!」


なにやら盛り上がり始めた母親同士の会話をする光景に、航は「なんか盛り上がってんぞ。」と指を指す。


「ああ、盛り上がってんな。」

「帰る?」

「帰るか。」

「母ちゃん俺らもう帰るからー。」

「え?あっ!ちょっと!航また連絡しなさいよ!それとるいきゅん!必ずうちに遊びに来てね!!」

「あ、はいお邪魔します。」

「航くんも!またいつでもおいでー!」

「はーい!じゃあまたー!」


そう言って、教室を出た俺と航。

廊下から教室の中を覗き込めば、楽しそうに航のお母さんと会話をしている俺の母親。

俺はなんだか、とても奇妙な光景だな、と思った。



「あ、母ちゃんからメールきた。あ、さっきの写真付きだ、やったー。保存保存。」


寮への帰り道、スマホをポケットから取り出した航は、嬉しそうにスマホをいじっている。


「航って母ちゃんと仲良いな。」

「え?そうか?」

「俺んとこ来た時息ぴったりで笑いそうになった。」

「あっ!つーか笑ってただろ!!」

「うん。笑った。」


あまりにも2人が似ていて、なんだか微笑ましかったのだ。


「うーわ、母ちゃんからのメールで次の休みにるいきゅん連れてウチに来なさい、だって。やだよめんどくせー時間かかるし。そのうちな、っと。」


航のお母さんへメールを返信した航は、「見て見て〜俺とるいのツーショット〜」とへらりと笑って俺に先程の写真を見せてきた。


「母ちゃんたまにはいい仕事するな、るいが笑顔でピースしてるのとか超レア。」

「おいこら、ズームすんな。」

「イケメーン、るいきゅんイケメーンちゅう〜」


そう言って航は気持ち悪くスマホ画面に唇を寄せるから、航の手からスッとスマホを抜き取った。


ズームされた俺の顔面を元のサイズに戻して、そこに表示された写真を眺める。

そして俺は、無言で航のスマホを操作し始めたから、航は「ん?るい?」と不思議そうに呼びかけてきた。


数十秒後、「はい。」とスマホを航に返すと、「ん?なんかした?」と首を傾げる航に「いーや別に?」と素知らぬ顔をして航から視線を逸らすが、実は航のスマホから俺の携帯へ写真を送信しただけで、ただそれだけのはなしである。


思えば俺と航のマトモな写真など、まあ俺が写真を嫌がるからかあまり無い。…だから、なんか、いいなって思ったから。

俺もちょっと欲しくなった。


「つーかこの写真絶対母ちゃん待ち受けにしてるよ。るいきゅんまーじイケメンだから。」

「いやだからズームすんなって。」


何回言っても俺の顔をズームして遊んでる航の頭をペシンと叩く。そしてまた航は「ン〜ちゅ、」と気持ち悪くスマホ画面に唇を寄せている。


あまりの気持ち悪さに、航の手から再びスマホを取り上げた。


「あっ」


そして横から、航の唇に顔を近づけ、キスをする。


「スマホ画面はすげえ汚いんだぞ。」


キョトンとしている航にそう言いながらスマホを返すと、航はジーと俺を見てきた。


「そ、そうだな?生身のるいが隣に居るのに、なにもスマホ画面とキスする必要はねえな…?」

「生身って言い方はなんかやめろよ。」

「最近るいきゅん、人目も憚らずキスしてくるから俺戸惑ってる。」

「そこに生身の航くんがいるから?」

「やだー、俺照れちゃう。」

「お前の『やだー』っていうのお母さんそっくりだよな。」

「やだーるいきゅん。」

「もういいってそのダジャレは。」

「俺のおかんも帰って絶対言ってるわ、写真見ながらやだーるいきゅん素敵〜とか言ってるわ。」

「お前の母ちゃんまじお前。」

「よく言われる。」

「どうせお前の兄ちゃんもお前にそっくりなんだろ?」

「あ、それは否定させてもらうわ。」

「あそうなんだ?」


人の家族に興味を持つのははじめてで、いつか航の兄ちゃんも見てみたいなあと思ったのだった。


19.航とるいと保護者たち おわり


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