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「おーいるい?聞いてる?つーかどこ見てんの?」
夕飯を食べていると、ふと耳に入ってきた航の声に、俺は視線を動かして航の姿を探して、そして見つけた先にはまた、あいつが居た。
以前、航の友人が悪ふざけで、航の携帯から俺に写真を送りつけてきた。見れば航の背にぴったりくっついてピースをしている姿と、そして航の頬に唇を寄せようとしている姿の2枚の写真だ。
航は悪ふざけだと言っていたけど、そんなの本当かどうかわかりゃしない。
そもそも悪ふざけで写真を送りつけられること自体腹立たしいのに、それがあんな写真じゃ俺はもっと腹が立ってしょうがなくなった。
「あ、友岡くん?来てたんだ、あっちの席移る?」
「…いい。」
「てかなにいきなり不機嫌になってんの、そんなに友岡くんところ行きたいなら行こうぜ?」
「…いいっつってんだろ。」
「うわ、なんかごめんそんな怒る事ないだろー?」
怒ってない。苛立ってるだけ。
そんな苛立ちを隠すように、俺は黙々と夕飯に箸をつけた。
「るーいきゅ〜ん」
数分後、飯を食べ終えたらしい航が、俺の名を呼びながら側に現れた。
「あー友岡くんナイスだよ、さっきからるいが不機嫌そうに飯食ってたから困ってたんだ。」
「お?ご機嫌ななめなるいきゅんかい?」
「お前もう飯食ったの?」
「うんカレー食った。」
「座れば?」
「いや友達待ってるし。」
「…またあいつ?」
俺は視線をあいつが座るテーブルに向けて言えば、航はそんな俺の視線に気付いたようで、「あ、なっちくん?」と俺の視線の先を辿りながら口を開けた。
「なっちくん?なんか可愛いあだなだねぇ。」
「奈知くんだからなっちくん。つーかなっちくんるいにびびってんだけど。」
「え、るいなんかしたの?」
「別に?つーかされたの俺だろ。」
「えっなにされたの?」
「まーまーまーはい仁くんあーん!」
「ンゴ!!!!!」
航はどう考えてもふた口くらいのサイズのからあげを手で掴んで、仁の口の中に突っ込んだ。そしてふたつあったもう一つのからあげを、また手で掴んで齧り付く。
「おっ、おれのからーげが…!」
モグモグからあげを食べている航を見て、仁は涙目で口の中に突っ込まれたからあげを、噛みしめている。
「仁の取んなよ。」
「あはは、ごめんつい。」
笑いながら残りのからあげを口に含んだ航に、仁がかなりショックを受けたような顔してるから、俺の皿の上に乗ったからあげを箸で掴んで仁の皿に乗せてやると、仁はその瞬間嬉しそうに笑みを浮かべたからよかった。
「あ、プチトマトほしい。」
「ん。」
「あっプチトマトなら俺のあげる!」
「るいから貰ったからもういらね。」
「クッソ〜!友岡くんむかつく!」
「あ、なっちくんとアキちゃん先帰るだって。じゃあるいが食べ終わるの待ってよーっと。」
航の携帯にはメールが届いていたようで、携帯画面を見ながらそう言った航は、俺の隣の席に腰掛けた。
俺の気分はちょっとだけマシになった。
「るい、あんまりなっちくんのこと悪く思ってやんなよ?なっちくん普通にいい奴だから。」
でもまた嫌な気分になった。
「別になんとも思ってねーよ。」
「あそう?ならいいけど。」
なんとも思ってねーわけねーだろ、俺はあの写真を見て、結構嫌な気持ちになったんだからな。
お前もお前でちょっとは俺の気持ちに気付けバカ。
*
「なーんかさあ…、やっぱ最近矢田くん、俺のこと睨み付けてくる…。」
休み時間、なっちくんはそう浮かない表情で俺にそんな相談をしてきた。
「へえ?でもるい、この前のことはなんとも思ってないって言ってたぞ。」
「えーほんと?」
「うん多分。」
そう頷いて、残りの休み時間、便所へ行っとこうと立ち上がると、「航どっかいくの?」となっちくんが問いかけてくるから、「便所。」と答えると、なっちくんは「俺も行く。」とついてきた。なっちくんは連れションでないと便所行かない奴だから。
こうしてなっちくんと共に便所へ到着し、用を足す。
便所から出て、教室へ帰ろうと廊下を歩いていると、突然なっちくんは「ひィィ!」と声を出しながら俺の背後に隠れた。なにごと?と思っていると、前からるいが歩いてきたから、俺は「ああ。」と納得する。
なっちくんは背後から俺の肩を掴んで、ぐるりと俺の身体を方向転換させた。
「は?なに?」
「あっちから帰ろうよ!」
「はあ?あっちってどっちだよ!こっちだろ教室!」
「1年の教室通って帰ろお!?」
「お前るい相手にまじでビビりすぎだろ!」
「だって矢田くん俺のこと凄い睨むんだよ!?すっげえ怖いんだぞ、お前知らねえだろ!?」
なっちくんはそう言って、俺の身体をグイグイ押すから、結局そのまま超大回りをして教室に帰ることになった。
「るいが怖いことは俺が一番知ってるぞ、前は俺だってすげーるいに睨まれてたじゃん。」
「あれ?そうだっけ?」
「そうそう。あー懐かしいな。」
怖かったなーいやしかし。
俺はなっちくんのお気持ちはよーく分かるのだ。
と、呑気にそんな会話をしながら教室に帰った俺となっちくんだが、実はあの時、俺の肩を押すなっちくんの姿をるいが見ていたことなど、まあ俺となっちくんが知る由もなく。
「チッ…またあいつかよ。」
その後のるいがとても不機嫌なことを、Sクラスの生徒は気付いていた。
*
「やっ、矢田くん…!」
「……ぁ?なに?」
「…ヒっ!ごめんなさい!あのっ昨日配られたアンケート回収に…!」
「ああ…。はい。」
「ごめんなさいっ!失礼します…っ!」
2年Sクラスのクラス委員長は、不機嫌なるいに怯えながら声をかけた。クラス委員長とは別名担任の雑用係で、その役員になりたがるものは少ないが、Sクラスでは別である。
生徒会役員で人気者のクラスメイトにも話しかけるチャンスが多いのが、このクラス委員長だ。
いつもは無表情の矢田 るいが、えらく眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしている時、近付くのはできるだけ避けたい。しかし今日中に回収しろと担任に言われているアンケートを受け取らなくては。と、本来なら照れながら声をかけるクラス委員長だったが、えらく不機嫌な矢田 るいに、クラス委員長はビクビク怯えていたのだった。
「…どしたの?顔こわいけど…」
またえらく不機嫌そうな顔して。と、怖い顔をしているるいに、仁はおずおずと近寄った。
「……。」
返事をせず、チラリと仁の顔を見るだけのるいは、やはりとても機嫌が悪い。
おっと、声をかけるのは間違いだったな。そう思い、後ろ足でるいの前から立ち去ろうとした仁だが、「…誰だっけ」とぼそりとるいが口を開いたから、仁は「ん?」と立ち止まり、るいの声に耳を傾けた。
「…なち?」
「ん?なち?」
「…航の友達。」
「ああ、なっちくんって人?」
「それだ。」
「それがどうしたの?」
「…別に。名前出なくてイラついただけ。」
「あ、そうなんだ。」
絶対違うだろ…と思いながらも、仁が突っ込みを入れることはなかった。
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