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やばいことになった。実にやばい。
なんと俺、一度るいの手でイかされてからというもの、自分の手ではイケなくなってしまった。
そもそも俺はそこまで性欲が強い人間でもないけど、まあそりゃあ俺だって健全な男子高校生。たまには抜きたくなる時もある。
夜、寝る前に無意識にパンツの中に手を突っ込んで、スマホを弄りながら、無意識に自分のモノもイジっていたが、あれ、全然勃たない。って、俺はふと気付いてしまい、一人動揺してしまった。
それから強く上下に自分のモノを扱いても全然ダメ、全然元気にならない。どうしたんだよ、俺の息子くん。どうやら自分の手ではどうも萎えてしまうらしい。
「はあ、はあ…つかれた。寝よ…。」
そうして俺は、一人無駄に疲れてしまい、諦めて眠りについた。
「あああああー…。」
翌日、ものすごくモヤモヤするのは、抜こうと思って抜けなかったから。一度抜こうと思ったら抜かなきゃ気が済まないのに、なんと勃ちもしなかったあいつの所為で翌日の俺は朝から絶不調だ。
あいつ、っていうか、まあ…。
俺の息子くんのことだけど。
「どうした?航、なんかやけに疲れた顔してるな。」
そう言って俺の顔を覗き込んでくるるいだが、言えるか。『るいの手でないと勃ちません』だなんて。
「んー…ちょっと昨日寝る前にぬ、………ゲームやりすぎて眠たい。」
「……ぬ?」
「ゲームやりすぎて眠たい。」
『抜こうと思って抜けなかってモヤモヤしてる。』そんなことをバカ正直に言ってしまいそうになった自分を殴りたい。
俺はつい思っていることを口に出してしまう悪いクセがあるが、るいの前では気を付けねばならぬ。
「授業中寝んなよ。」
「んー…分かってる。」
こうして朝からモヤモヤスッキリしない気分で1日を過ごしたが、夜、るいとご飯を食べてからるいの部屋へお邪魔すると、今日1日抱えていたモヤモヤは爆発するように俺の身体を襲ってきた。
机の前に座り、ノートと教科書と筆記用具を出し、勉強をはじめる。しかしなかなか集中できない。
俺の隣に座ってベッドに凭れかかりながら俺の勉強している様子を眺めているるいがいるからだ。
どうもるいのことをかなり意識してしまっている自分がいる。
いや意識は前からしてるけど。
今までのとはちょっと違う。
というのも、今までるいに対して性的な意識をあまりしたことが無かったが、あの日るいの手で突然イカされて以来、どうも俺の中で何かが芽生えてしまったらしい。
ああああダメ。
変なことは考えんな。
るいに、触って欲しいだなんて。
引かれて、気持ち悪がられたら、俺は多分もうるいに近付けそうにない。
「はあ…。」
無意識に吐いてしまったため息に、るいは「航?」と俺の顔を覗き込んできた。
「お前今日なんか変じゃね?どうした?」
「……なんでもない。」
「なんでもないなら辛気臭い面してんなよ。」
ちょっとムッとしたようにるいに言われてしまったから、俺もちょっとムッとした。誰の所為でこうなったと思ってるんだ。
そもそも最初に手を出したるいが悪いのではないだろうか。と、俺はふと、そういう考えに思い至った。
ただの逆ギレである。
「あーもうやめたやめた。今日はもう勉強やめた。」
勉強道具を片付けて、俺はるいの部屋を出ようと立ち上がった。すると、「待てよ。」とるいの手が俺を引き止める。
下から俺を見上げたるいは、ムッとした顔のまま「んな意味わかんねー態度取られて帰らすと思ってんのか?」と言ってきたから、俺は更にムッとした顔をして、「帰るったら帰るんだよ。」とるいの手を振り払った。
逆ギレも甚だしいな、俺。
出入り口に向かおうと足を進めるが、るいはいつの間にか立ち上がっており、ぐいっと背後から強引に俺の肩を掴み、振り向かされる。
身体を部屋の扉に押し付けられ、るいの片手で顎を掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
るいの方を向かされ、ムッとした表情のままるいの顔を見ると、かなり不機嫌面なるいが俺の目をジッと見つめている。
不穏な空気。まあ俺の態度がいけなかったんだろうけどさ、るいって改めて考えてみると物凄く手荒だ。乱暴だし、敵に回すと怖い相手。多分そこらの不良に絡まれたとしても、るいなら楽々相手を倒してしまうだろう。
味方だととても頼りになるし頼もしいけど、敵になるとかなり厄介。そんなるいを、今確実に俺は敵に回してしまっている。
るいは不機嫌な顔をしたまま何も喋らない。ただジッとこっちを見ているだけで、俺はたまらずに目を逸らしてしまった。
ああ、俺ってまじでバカだな。
俺のさっきの態度じゃるいが怒っても無理も無いのに、俺は自分の中で抱えているモヤモヤをるいの所為にして、あんな態度をとってしまったんだから。
「…離せよ。」
「まじなんなわけ、お前のその態度」
「別になんでもねえ。」
「なんでもねえわけねえだろ。」
「なんでもねえんだよ!!」
俺はるいにそう怒鳴りつけ、るいの身体を勢いよく押しやった。その拍子に俺の顎からるいの手は離れたが、るいはすぐさま俺の胸倉を掴んで俺の身体をベッドに投げつけた。
キツいるいの視線が俺に突き刺さるのはいつぶりだろう。最近のるいは俺にとても優しい。そんなるいに睨みつけられている今がとても嫌で、逆ギレしてあんなバカな態度を取ってしまった自分に反省し、情けなくるいのベッドの上で後頭部を預けて転がっている体勢で、「…ごめん。」と小さく謝った。
するとるいは、静かにベッドに腰掛ける。目の上に腕を置いて顔を隠した俺にはるいの表情は分からないから、ちょっと腕をズラしてるいに視線を向けると、るいは黙ってこっちを見ていた。
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