2. 風 紀 委 員 長 失 格 [ 66/163 ]
【 2. 風 紀 委 員 長 失 格 】
1年Eクラス 友岡 航は、密かに風紀委員長に可愛がられていた過去がある。
「友岡くん…ダメじゃん、授業中に校舎探索なんかしちゃ。」
「探索じゃねえよ、迷ったんだって。」
「入学してもう3ヶ月経ってるんだぞ?どこをどう歩いたら迷うんだよ。」
「先生に数学準備室に呼ばれて行ったら英語の先生の部屋で、数学は上の階って言われてなんか彷徨ってたところでおっさんに会ったんじゃん。」
「おっさん言うな!」
「いてっ。」
これでもわりと男前だと言われる自分のことを、おっさん呼ばわりする1年。友岡 航。
彼とはじめて会話を交わしたのは入学式の翌日で、「あれ?俺の教室どこだっけ。」と彼が廊下を彷徨っていた時。
教室まで親切に連れてきてやった俺のことを、「おっさんサンキュー。」と言って手を振りながら背を向けられた時、俺は耳を疑った。
「おっ、お、…おっさん…!?」
確かに大人っぽいとか言われたことはあるが、おっさんと言われたことは初めてだ。
「誰がおっさんだ!」と反発すると、返ってきたのは「え?職員の人だろ?」という返事。
「お前と同じ制服着てんのが見えねえのかよ!!!」
「あ、ほんとだ。」
俺はこの時気付いてしまった。
友岡 航が、物凄くバカなことを。
廊下を彷徨っていた友岡を風紀室まで連れてきて、授業が終わるまであと数十分の時間だけここに置いてやることにした。
どうせ今更教室に戻ったって、授業の真っ只中で迷惑だろう。
「ところでおっさんはサボり?」
「まあそんなとこ。」
「うーわ不真面目〜。」
「お前が言うな。」
寝坊して寝癖頭にボケボケな面して昼休み前に登校してきた姿を俺は見たことあるんだからな。
まったく。学年一の問題児くんは、多分この少年だろう。
しかし彼にはその自覚が無い。
だから、友岡 航は質が悪い。
「…はぁ。お腹減った。おっちゃん飴ちゃんかなんか持ってない?」
上級生の俺相手にも、こんな態度を取る友岡だが、なんでかこれがまた不思議なことに甘やかしてしまうのだ。
「おっちゃん飴ちゃん。」
「はいはい、おっちゃん飴ちゃんな。」
もういいわ。
おっさんでもおっちゃんでも。
お前の好きに呼んだらいいよ。
まるで孫でも見てる気分。
鞄の中に入っていたグミを差し出すと、友岡は嬉しそうに「うわあい。」と俺からグミの袋を受け取った。
「もうそれ全部やるから次の授業は真面目に受けろよ?」
「俺はいつでも真面目だぞ?」
「はいはい。じゃあ次の授業も真面目にな。」
そんな声をかけるも、友岡はすでに俺の話は聞いておらず、美味しそうにグミを摘んで食べている。
授業が終わる5分前に風紀室を出て、1年Eクラスへと向かう。
「じゃあな、おっちゃん。また俺が迷ってたらグミ用意して保護してね。」
「はいはい、また迷ってたらな。」
絶対グミ目当てだろ、と突っ込みたくなる台詞だが、やれやれ。とため息を吐きたくなるのに何故か甘やかしてしまう後輩。
それから俺は卒業するまで、毎日鞄の中にグミを入れていた。
友岡が校舎で迷っている姿はその後は見かけなかったけど、会えばグミを差し出した。
嬉しそうにグミを受け取る友岡が可愛くて、結局卒業するまで不真面目な問題児を甘やかしてしまった俺は、風紀委員長失格だろう。
今、あいつは元気にしているだろうか。
【 風 紀 委 員 長 失 格 】おわり
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