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どう見てもただのラブシーンをクラスメイトに披露しただけの航とるいだったが、何故か一人わたわたと焦りを見せている航のことはさておき。


不機嫌面で教室を出て行ったるいは、その後暫くイライラがおさまらず、生徒たちにはその凄まじいほどの不機嫌面を目撃されたようである。


そんな放課後………


「おーっす矢田、久しぶり。元気かぁ?」


正面から歩いてきたのは前会長で、明るい笑みをるいに見せる。

が、このタイミングで会ってしまったのは非常にまずい。まずいのは前会長。

何故なら、


「………え、なんだどうした怖い顔して。」

「………お久しぶりですね。」


愛想の欠片もない上に、まるで怒ったようにるいは前会長を睨みつけながら言ったのだ。


少し前までは自分を慕っていたはずの後輩のこの態度。前会長は、瞬時に娘に嫌われた父親のような心境に陥った。


「……なんかあったか?話なら聞くぞ…?」

「いえ、別になにもないです。」

「そ、そうか。ならいいけど……」


るいの表情は一ミリも動かず、不機嫌面で前会長を見る一方。


「では。失礼します。」

「お、おう…」


最後まで前会長を見るるいの視線はとても鋭く、前会長はやや凹みながら首を傾げたのだった。


哀れな前会長のこともさておき。


不機嫌面なるいの言いたいことはこうだ。


『てめえ航に何回キスしやがった?』


しかしそれを直接言えないのは、それが尊敬している先輩であるからで。

さらにそれが、物凄く悔しいことだから。

何故ならそれは、前会長が

航のファーストキスを奪った相手だからである。

言いたいことが言えないもどかしさに、るいのイライラはその日、おさまることは無かった。


ファーストキスのお話 おわり

2015.05.21〜07.07
拍手ありがとうございました!


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