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ある日の2年Eクラスの休み時間、誰かが「キスしたいなぁ〜。」と言い出したことから、クラスメイトたちはキスの話で盛り上がり始めていた。
「キスってどんな感じ?」
「俺実は初キスまだ。」
「俺中学ん時。初カノと。」
「うわ、羨ましいぞてめえ。」
「僕航と。」
「……………ん?」
クラスメイトの会話を耳にしながら俺はスマホゲームで遊んでいると、突然クラスメイトたちの視線が俺に突き刺さってきた。
「航とのキスは今でもはっきり覚えてるよ。だってあれは、僕のファーストキスだもん。」
「いやちょっと待て。その前にアキちゃんるいとキスしてるよね?」
「は!?なにその話詳しく!!!」
アキちゃんがうっとりしながら語っていたから、俺は思わずアキちゃんの話に突っ込みを入れてしまったが、多分それは失言だった。
周囲のクラスメイトが興味津々で問いかける。
「ん?なにを言ってるのかな航は。僕が矢田くんとキス?そんな非現実的なことを言うのはやめてもらえないかな?」
……あ、アキちゃんアレ無かったことにする気だな。俺が今でもはっきり覚えているアキちゃんとるいのキスシーン。
しかしまあ無かったことにするのは俺は全然構わない。ただ、アキちゃんのファーストキスの相手が実質上るいだと思うと少し羨ましい。
が、アキちゃん自身ファーストキスの相手は俺だと言っているのだから、まあそれはそれで良いだろう。
「ああそうだった。アキちゃんのファーストキスの相手って俺かぁ〜。」
わざとらしくクラスメイトに聞いてもらえるように言えば、アキちゃんは「そうだよ〜もう航ってばあ。」と俺のほっぺたをツンツンしてきた。
クラスメイトらは面白そうな話題だったのに残念だ。というように「なーんだ。」とつまらなさそうにしていた。
が、その次の瞬間にはもう別のおもしろい話題を見つけたのか、キラキラした目をして、
………何故か俺を見ていた。
「で?」
「…ん?」
「航のファーストキスは?」
「…ん?」
問いかけるのはアキちゃん。
周囲は興味津々で俺のことを見ていた。
俺のファーストキス…っつったら…アレだよな。いやどれだっけ。忘れたなあ。
そう、忘れたのだ。
実に残念だが、ファーストキスの記憶がどこかへ行ってしまった。いやあ実に残念だ。忘れもしない、不意打ちの会長とのキス。……あっ。いや嘘嘘。忘れた忘れた。
「ぴゅうぅ。」
俺はヘタクソな口笛を吹いてごまかした。暗にそれは、答えるかバーカ!といった口笛だ。
「…僕知ってるんだよ。球技大会の時航なっちくんにバカみたいなチューしたあと、ファーストキス終えてるから俺の唇中古品…とかなんとか言ってたよね。
でも僕、1年の時航がファーストキスまだって言ってたの覚えてる。
だから航は、そのあいだに誰かとファーストキスを済ましたんだ。
………僕は一人、疑ってる人がいるよ。ねえ、誰だか言ってあげようか?」
こっ…こわい!
アキちゃんこわい!!!
まるで探偵のようだ。
俺は黙ってスマホゲームを再開させる。
「え?誰誰?航のファーストキスの相手疑惑の人」
「まさか矢田くん?お前矢田くんと前からちょくちょく喋ってたもんなー!」
「…矢田くんより先に、航に目をつけた人物…みなさんもうお忘れですか…?」
「アキちゃァァァん!!!やめよう!過去のおはなしをするのはやめよう!!!」
「…矢田くんより先に?いたっけ?」
「前会長とか?でもまさかなあ?」
やめよう……
過去のおはなしを掘り返すのはやめようぜ。
しかし俺は思った。
ファーストキスというのは、
俺の一生に、ずっとつきまとってくるのだ。
それが、ファーストキスというものなのだ。
るいが、もしるいが、俺のファーストキスの相手が前会長だって知ったら、るいはなんて思うかな。
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