8. 航とるいの年越し [ 160/163 ]

※ S&E futureとfutureUのあいだのおはなし

〜 大学1年 冬 〜


12月31日の23時。るいとリビングに置いている小さなこたつの中に入って、年末のテレビ番組を見ていた。


「あと1時間で今年もう終わるぞ。」

「うん、今年もあっという間だったなぁ。」


俺の言葉にそう返してくるるいは、こたつの中でぶつかった俺の足にすりすりと自分の足を擦り付けてくる。


「水虫うつるからやめて。」

「水虫うつしてやろ。」


勿論るいは水虫ではないが、冗談を言えばるいも冗談を返してくる。俺の太腿に足を擦り付けてくるのをやめないるいは、とうとう俺の腰周りにまで長い足を巻き付けてきた。


「こしょばいこしょばい!!やめろって!!」


腹の肉にるいの足の指が刺さって身を捩っていたらるいは楽しそうにクスクスと笑っている。くだらないことでたくさん笑い、今年一年もるいと楽しく過ごせたな。


「るい、来年もよろしくな。」

「うん、こちらこそよろしく。」

「初詣どうする?行く?」

「あー…どうしよっか?」


今年の年末はお互いバイトがあったりしてたから、実家に帰ることもなく休みの時間はるいと家でのんびり過ごしていた。初詣などの予定もまだ何も決めておらず、年が明ける1時間前にるいに問いかけると、るいからも曖昧な返事が返ってくる。


「初詣は深夜に行った方がテンション上がんだけどさみぃなぁ…。」

「あったかい飲み物買ったげる。」


るいがそう言うから、俺は「じゃあ行く!」と勢い良くこたつから出た。こういうのは勢いが大事だ。

ダッと駆け足で着替えに行くために隣の部屋に移動し、部屋着を脱ぐ。コートの下にごっぽり着込んで、首にはマフラーをぐるぐる巻きに。初詣に行く準備をしていたら時刻はもう11時30分を過ぎている。


「やべえ!もうすぐ年明ける!!」

「どこの神社行く?近所の神社にしとく?」

「屋台とかあるとこがいい!おみくじ引く!」


近所に神社はあるものの小さいところだから、わがままを言って家から少しだけ距離がある神社へ電車に乗って行くことにした。


「しゃびゅいっ!!」


家を出た瞬間に冷えた空気が身体に襲いかかり、るいの身体に抱き付く。るいが鍵を閉めてくれているあいだずっと抱きついていて、鍵を閉め終わったのを確認するとるいの手を握ってその手をるいのコートのポケットに突っ込んだ。

るいと肩と腕同士が触れ合っていてちょっとだけ暖かい。人気が全く無いのを良いことに、空いている方の腕もるいの腕に抱き着き、るいの肩に頭を置いてすりすりしながら歩いた。


さすがに駅まで来ると人が居るため、切符を買うためにも一旦るいから離れる。改札を抜けてホームに行くと自販機があったから、るいが「いる?」って聞いてくれるが首を振った。


「便所行きたくなるからもうちょっとあとに飲む。」

「よしよし。」


ホットドリンクの代わりにるいが俺を暖めてくれるように、髪を撫でてからまた手を繋ぎ、その手をポケットに突っ込んでくれる。

少しだけ待つと電車が到着し、電車の中でスマホ画面を見つめて時刻を確認していると23時57分になった。


「あと3分で年明ける!」


ジーッとスマホ画面を見つめる俺の横から、るいも覗き込んできた。そして、あと2分、あと1分…と二人でカウントダウンをして、0時00分になった瞬間に「「あけましておめでとうございます。」」と言い合った。

でも年明けの瞬間に浸っている暇はなく、すぐに電車を降りてまた寒い空の下をるいと手を繋いで歩く。


「今年も変わらずるいと初詣行ってるなー。」

「うん、良かったー。変わらず航が俺の横に居てくれて。」

「…うわ、すげえ人だな。」


のんびりるいと話しながら神社に向かい、神社の入り口が見えてくると人の多さに呆然とした。


「航くんはぐれないようにちゃんと俺の手握っててね。」


るいはそう言って、ギュッと俺の手を力強く握り直す。

神社の中に足を踏み入れると、人が多過ぎて問答無用でむぎゅっとるいと身体がくっつくから、また空いている方の手でるいの腕を握り、ずっとるいに抱きつきながら賽銭箱の方へ人の波に流されながら歩いた。人混み万歳。

そして賽銭箱の前まで近付いてくると、あらかじめポケットの中に用意しておいた50円玉を2枚手に持った。それをるいの手にも握らせると、るいは軽く驚くように50円玉を見つめてキョトンとしている。


「準備良いだろ?」

「うん、しかも50円なんだ?」

「うん、たまたま2枚あったのが50円だった。」

「5円玉より50円の方が10倍パワーあるんだよ?航くんさすがだね。」

「賽銭にたった45円多く払っただけで10倍もパワー上がんの?神様優しいな。」

「まあ航に優しくするのは俺だけで十分だけどな。」


神様にまで対抗しているるいは、俺の頭を抱き寄せてよしよしと撫でながら賽銭箱の目の前まで歩く。そして二人で賽銭箱に50円玉を入れ、お辞儀をしてから『パンパン』と手を二度叩いた。


神様、去年はありがとうございました。無事第二希望の大学に受かり、るいとも仲良くやれています。家族もみんな健康です。

今年もよろしくお願いします。


願うことはいつも同じようなことだから、心の中でそう神様に語りかけ、顔を上げるとるいも同じタイミングで顔を上げたのが視界に入る。


「帰ろっか。」

「うん。」


るいのその声に頷き、またるいの手を握って、神社の本堂を後にした。


人はそこそこ居るものの、おみくじはすんなり引けて、るいと同時に紙を開く。


「…は?凶かよ。」

「俺小吉。」

「なんかパッとしねえおみくじだな。」


俺は“凶”と書かれたおみくじに文句を言いながら、おみくじを結ぶところに結んだ。「お賽銭ちょっと奮発したのに神様いきなり俺に凶のおみくじ引かせやがって。」とついでに神様にまで文句を言う。


「でも凶ってすげえ良いんだよ?航くんはラッキーだよ、凶引いたら今年一年気を付けようって思えるし、逆に大吉引くより全然良いよ、大吉引いても浮かれて事故るかもしんねえよ?今年一年、気を付けることができる幸運の凶だよ?」

「…お、おう…るい慰めてくれてサンキューな。俺の隣にるいが居てくれるだけで本当の凶にはなんねえからずっと隣に居てくれよな。」


やたら真剣に、必死に俺を慰めようとしてくれるるいにちょっと笑って、ポンポンとるいの肩を叩きながらそう言えば、るいは「勿論。」って頷いて、またギュッと力強く俺の手を握ってくれた。

ほんとに、ほんとに、るいが隣に居てくれるだけで、心強い存在だ。


帰り道は事故らないように、と意識して車道側を歩いてくれるるい。俺以上にるいの方がいろいろ気を付けてくれてそうだ。

そして家を出る前から話していた暖かい飲み物を駅でるいに買ってもらい、暖まりながら帰宅した。

今年一年も、るいにはたくさんお世話になりそうだなぁ。


航とるいの年越し おわり

2022.12.09〜2023.01.11
拍手ありがとうございました!


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