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「俺となっちくんならなっちくんが受けらしい。」

「えぇ、俺航にヤられんの?」

「そうみたいだな。」

「うぇ〜っキツ〜航にケツ見せんの無理。」

「俺もなっちくんのケツべつに見たくねえわ。」


名前も知らない女の子が言っていた『受けは綾部くん』って話をなっちくんにもしてみるとめちゃくちゃ嫌そうな顔をされてしまったが、まあ多分立場が逆だったら俺も同じ反応してるだろう。

高1からのなっちくんとの仲はもうかれこれ4年以上でるいより長い。悪ノリでキスくらいはできちゃう仲だけどできてもせいぜいそこまでだ。

妙な話題におかしくてちょっと笑ってしまいそうになるが、二人でケツケツ言ってても怪しいからそんな妙な話題はすぐに終わった。


「航今日暇なんだっけ?」

「うん。どっか寄ってく?」

「うん!オープンしたてのケーキ屋で行ってみたいとこあるんだけど行っていい?この前買って帰ろうとしたらすげー並んでて買えなかったんだよ。」

「お前女子かよ。いいけど。暇だし。」

「矢田くんバイト?晩飯も食って帰る?」

「そうだな。」


っていやいや、これガチでデートじゃねえからな?なんかまじ俺らの行動考えてみたらデートかって勘違いされそうだけど違うからな?俺らのありがちな日常だからな?

学校帰りになっちくんとケーキ屋に向かって歩いている最中もそんなことを考えてしまった。だいたい甘党ななっちくんが悪いのだ、俺をデートスポットみたいな場所に誘うから。晩飯は男臭い牛丼屋にでも誘ってやろうか。


学校を出てちょっと歩いて、数十分でなっちくんが行ってみたいというオープンしたてのケーキ屋に到着するが、時間帯が良かったのかあんまり混んでなくてすぐにテーブルにつくことができた。


なっちくんは俺の目の前でムースのようなケーキとモンブランというケーキ二個食いを披露しているが、見ているだけで甘ったるすぎて、俺はケーキ一個食べた後の口の甘さをさっぱりした味のレモンティーで流し込む。


「航ケーキ屋一緒に来てくれるからまじありがたいわ〜。」


なっちくんはそう言ってご機嫌な様子で、口についたクリームをぺろっと舐め取りながらケーキを味わっている。


「雄飛誘っても嫌がるんだよなぁ〜。持ち帰りすれば?って。」

「へぇ、食いたくねえんじゃねえの?ケーキ。」

「うん、当たり。俺がケーキ食ってる時も信じらんねえもん見るような顔してくるし。」

「ふっ…なんだそれ、どんな顔だよ。」


俺と二人の時は惚気話が多いなっちくん。話したくて仕方がない様子なのは見ていてすぐわかる。特に雄飛に会えた時の直後なんてずっと惚気てばっかだ。

だから、全然俺たちのことを知らない周りの人は、なっちくんが俺と話してる時だけすっげー良い笑顔を見せているように思えるんだと思う。


「あ〜美味かったぁ。晩飯もケーキで良いくらいだな。」

「勘弁して。牛丼行こう。」

「えぇ?牛丼?それなら焼肉にしねえ?」

「焼肉か、いいなぁ。」


ケーキ二個をぺろりと食べ終え、満足そうに話しているなっちくんを連れて店を出ようとしていたところで、店の入口から女の子4人組が入って来ようとしているところだった。


「あーすんません、お先にどうぞ。」


ドアが閉まらないように押さえながら女の子たちに先に通ってもらうのを待っていたら、何故か手前の二人にギョッとした顔で見上げられる。

「ん?」と首を傾げると「あっすみません!ありがとうございます…!」とぺこぺことお辞儀をしながら俺たちの横を通っていった。


「やっば…!友岡くんと綾部くんじゃん…!」

「デート!?デート!?」

「ケーキ屋で!?かわいい〜!!」

「友岡くんまじスパダリ…!」


あっ…!あの子らよく見れば勘違いグループじゃねえか!!!俺たちの横を通り過ぎて行ったあとに聞こえてきた会話に気付き振り向いたら、がっつりこっちを見られており、サッと慌てて前を向かれた。


しかしなっちくんはそのことには全然気付いてなかったみたいで、店を出たあとなっちくんから「航まじ矢田くん化してるわ」という突然の褒め言葉を頂いた。


「え、そう?サンキュー、俺イケメン?」

「自分で言うのはやめた方がいいぞ。せっかく今の航ちょっと紳士っぽかったのに。」

「じゃあ今のなし。」


最近よくなっちくんは俺のことを『矢田くんに似てきた』って言ってくれるけど自分ではどこが似てきたのか全然分からない。でも俺から見たるいが残念ながら俺化しているように思えてしまう時がよくあるから、なっちくんの言う通り俺もるいみたいな言動取ってる時があるのかも。喜ばしいことだな。俺にとっては。


「つーかお前気付いてなかっただろ、今の子らだぞ?俺らのこと付き合ってるとか思ってるグループ。」

「えっ!?まじで!?」

「デートとか言われてたからな。なっちくんが俺をケーキ屋なんか連れてくるから。」

「友達とケーキ屋行っただけでデート!?目ぇ腐ってんじゃねえの!?そんじゃああの子らだってダブルデートしてんじゃん!!」

「ふはっ、確かに。」


なっちくんの的確なツッコミに笑いながらガラス張りのケーキ屋の横を歩いていたら、さっきの子たちは俺となっちくんを目で追うように店の中からこっちを見ていたから、俺は瞬時に悪ふざけを思いついてしまい、なっちくんの肩を組んで彼女たちに見せつけてやるようにチュッとなっちくんの頬にキスした。


「「「「ええぇぇっ!?」」」」


すると店の中からは迷惑客すぎるでかい声が聞こえてきて、なっちくんはと言えばパニック状態になって「うぇっ!?なになになに!?」と頬を手のひらで擦りながら辺りを見渡している。


「ははっウケる、みんな反応良すぎだろ。」

「てかお前いま俺の頬にチューした?」

「した。」

「なにしてくれてんだよ!!!!!」


ゴシゴシゴシゴシ、と嫌そうな顔をして俺の頬キスされた部分をずっと手のひらで擦り付けているなっちくんに、俺はへらへらと笑って返す。


「面白いかなって。それにどうせならそのまま勘違いされたままでもいいかなと思って。」

「いや良くねえだろ!!」

「だってさぁ、フリーと思われてるよりマシじゃね?多分るいもその勘違いされたままの方が安心できると思うんだよね。」

「あぁ、なるほど。航結構女の子に連絡先聞かれてんもんな。……っていやいや、ダメだろ!いくらなんでもそんな勘違いされてんのは俺が矢田くんに怒られる!!」

「ははっ、やっぱそうかな?」

「絶対そう!!!」


大丈夫だと思うけどな〜と思いながらも、なっちくんが嫌そうだから悪ふざけするのはそれっきりにして、その後も俺となっちくんは大学でいつも通り仲良く過ごした。


そして相変わらず、勘違いグループからの視線は絶え間無く感じるのだった。


航と奈知の怪しい関係 おわり

2022.10.05〜11.08
拍手ありがとうございました!

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