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「なぁなぁ航ってさぁ、

…ヤってる最中の動画とか撮ったりする?」


大学の教室の座席に座り、講義が始まるのを待っていたら、俺の隣に座ったなっちくんが突然コソッとそう問いかけてきた。


「は?なにをやってる最中?」

「なにって!アレに決まってんじゃん、アレ!」

「アレ?…あ、もしやセッ…むぐぐっ」


『クス』と言おうとした瞬間、なっちくんに口を手で押さえ付けられてしまったから多分正解だ。


「え、普通に撮るわけねえじゃん。自分がやられてるとこ後から見返すとか地獄すぎんだろ。」

「それが居るんだよ…!あとから見返して喜んでる奴が…!!」


なっちくんは真っ赤な顔をしながらそう言って『バシン!バシン!』と俺の背中を叩いてきた。痛い痛い!


「うん?それは宇野さんちの雄飛くんのことかい?」

「そう!!この前やる前に撮っていい?とか聞かれたからなんのことか分かってなくて『うん』って頷いちゃったんだけど、終わったあと満足そうに雄飛が撮ってたやつ見返してんの…!!スマホから俺の喘ぎ声聞こえてきてまじゾッとしたんだけど…!」


真っ赤になっている顔を俺の顔に近付けながら、コソコソ、コソコソ、となっちくんが興奮気味に話しかけてくるから、傍から見れば俺らがちょっと怪しい関係みたいに見られてしまいそうだ。


「そりゃやられてる俺らは地獄だけどあいつ逆じゃん。寮ではなっちくんに会えねえんだからそれ見て抜いてんじゃね?」

「…えぇ、…そうかな?それなら俺も雄飛の顔映ったやつがほしい…。俺目線のやつ。」

「次会った時頼めば?」

「…うん、言ってみる。」


コソコソ、コソコソ、と小声で俺はなっちくんに提案したら、なっちくんは素直に頷いていた。すっかり雄飛にベタ惚れだな〜って思いながら恥ずかしそうにしているなっちくんの横顔を見ていたら講義が始まり、俺たちの怪しい会話は自然に終了したのだった。



こんな風に俺たちは、実は結構常日頃怪しい会話ばかりしている。怪しい会話っつったら大体人には聞かせられないようなエロ話ばっかだから、いつも二人でヒソヒソ話だ。

『3ラウンド目に入られるとさすがにキツい』とか『やりたい気分じゃねえのにるいがしつこく誘ってくるから喧嘩した』って下ネタ混じりの軽い愚痴とか。なっちくんの場合はほとんど『昨日久しぶりにヤれた、めっちゃ気持ち良かった』っていうただの惚気。


あかりたちに『なに話してんの?』って聞かれて普通に『下ネタ』って答えたらサーッと俺となっちくんから離れていく。聞いちゃいけない会話だと思ってくれていそうだ。すまんな、いつも空気読んでくれてありがとう。


そんな感じでいっつも怪しい会話ばかり二人でしていたからだろう、ある日俺は一部の女の子たちが俺たちを見て“怪しげな噂話”をしているヒソヒソ声を聞いてしまった。


「あれ絶対そうだって。怪しすぎだよね。」

「うん、友達って距離じゃないもんね。」

「じゃあどっちが受け?」

「そりゃ綾部くんでしょ!!」


『そりゃ綾部くんでしょ!!』!?!?!?


女の子の口から“綾部くん”というワードが出てきたことにより、俺たちの話をされているのが確定してしまった。


「友岡くんのあの愛しそうなものを見る目見たでしょ?きっと可愛くて可愛くて仕方ないんだろうね。」


いや見てねえ見てねえ。俺なっちくんのことそんな目で見たことねえぞ?てか待って?俺なっちくんのこと悪いけど全然愛しくないんだが???


「あの綾部くんの友岡くんと喋ってる時の嬉しそうな表情は愛されてる証拠だね。」


うん、俺じゃなくて雄飛にな!!!!!


脳内で派手に突っ込みを入れながら彼女たちの会話を耳を澄ませて聞いていたら、今日も俺の隣の席に座ったなっちくんがのしっと俺の肩に腕を回して凭れ掛かりながら話しかけてきた。


「ん?航どうした?真顔で固まってたけど。」

「…なっちくん、俺らはとんでもない勘違いをされているみたいだな…。」

「勘違い???」


俺はなっちくんの目をジッと見つめながら告げると、なっちくんも俺を見つめ返しながら首を傾げた。

いやいや、こういうのだろ、こういうの。疑われてしまう理由なら自分でも結構心当たりがあり過ぎる。しかし愛しそうなものを見る目ってどんな目だ?

るいなら俺に、にこっと微笑みかけてから、よく髪とか撫でてくれるな。って、俺はるいの俺への行動を思い出しながら、なっちくんの頭の上に手を置いて、にこっとなっちくんに微笑みかけた。


「えっなに!?怖い怖い怖い!!なんか企んでるな!?」

「企んでるってひどくね?なんも企んでねえよ。」


“愛しそうなものを見る目”を俺なりに試してみたけどやっぱなっちくん相手じゃ無理がある。よって、そんな風に見えてしまう彼女たちの目がイカれているということだ。


「多分俺ら付き合ってるって疑われてるっぽいな。」

「はっ!?誰に!?」

「全然知らんグループの女の子たち。」


いまだになっちくんの頭に手を置き続けながらそう話したら、なっちくんは目をまん丸くして「はっ!?」とギョッとした顔をしていた。

このやり取りも怪しく見られてしまうだろうか?と、俺はチラッと窺うように俺たちのことを噂していた女の子グループに目を向けたら、彼女たちは「確定!確定!確定!」とヒソヒソ声で連呼しまくっていた。

ウケる、どの部分で確定だと思った?


全然違うんですけど。

だって俺たち、それぞれダーリンいますから。


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