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俺、奥田郁馬(おくだ いくま)のずっと親友に抱いていた気持ちが“恋”だと自覚できたのは、親友が遠くに行ってしまってからだった。


小学3年生の頃、初めて同じクラスになった黒いランドセルを背負ったちっちゃい男子に目が釘付けになった事は今でも覚えている。

めちゃくちゃ可愛い顔をしているのに、黒いランドセルを背負った自分と同じ男子。彼が、のちに俺の親友となる片桐永遠だが、今思えばそれは一目惚れなのかもしれない。


新しい教室に入ってきて、『俺の席どこ〜?』ってちょこまかと教室を走っているところを自分より背の高い女子に『あそこに座席表貼ってあるよ』って教えてもらっている。


『ありがとう!』


にっこり笑って女子にお礼を言ったその子が座った席は俺の後ろの席だった。お礼を言われた女子も、ちっちゃい男子を見て『かわいい〜』と言っていたから、そう思うのは俺だけでは無いようだ。


すぐに俺は彼のほうへ振り向いて、『名前なに?』って聞くと、『片桐永遠!』って可愛い笑顔で教えてくれる。


『俺奥野郁馬!よろしくな!』

『うん!よろしく!』


人懐っこくて、笑った顔がさらに可愛かった。

そんな永遠に自分からたくさん話しかけて、クラスで一番仲良くなった。くるっとまあるいぱっちりした目に、白くて柔らかいほっぺが可愛くて、よくツンツンしたり摘んだりして遊んでいた。

赤くて小さな唇も気になっていて、むぎゅって永遠の唇を摘んで遊んだりもしていた。変な顔になるのがそれもまた可愛くて、永遠に触れながらたくさん笑った。


小4まで同じクラスで、5、6年は離れてしまったけど学校が終わるとよく一緒に遊んだ。多分俺が永遠の一番仲良い友達だな、もう親友だな、って自分の中では決めつけては満足していた。永遠は自分のもの、ってくらいの独占欲まで、多分この時の俺の中にはすでにあっただろうな。


『郁馬!俺らおんなじクラスやで!』

『まじ!?』


中学校に入学し、掲示板に貼り出されていたクラス分けの紙を一足先に見ていた永遠が、後から登校してきた俺に気付きそう教えてくれた。


『うお〜!!ほんまや!!』

『教室はよ行こ〜。』

『おう!!あ〜俺中学楽しみになってきたわ!!』

『俺も!!』


永遠と同じクラスになれたのが嬉しくて、すでに10センチくらい身長差があった永遠の頭を抱き寄せてぐしゃぐしゃと髪を撫でながら、ウキウキとテンション高く教室へ向かう。


『相変わらず仲良しやな〜』って同じ小学校だった同級生に言われたり、『奥田くんがまた永遠くんいじってる〜』って俺らを見て女子に笑われたりする、楽しい楽しい中学校生活。


『見て、この永遠のほっぺたびょんびょん伸びる。やわらけ〜』

『痛い!お前引っ張りすぎや!』


女子が俺と永遠のやり取りを見て笑うから、俺は余計に調子に乗って永遠に触れまくり、いじりまくってしまうのだった。



小学生の頃は気付かなかったが、中1の半ば頃になると永遠のかなりの頭の良さに気付いた。テスト週間に入ると真面目にテスト勉強する永遠に焦り、試験の結果を見せ合うとまた焦る。永遠のテストの点数は、全部90点以上だ。

なぜこんなにも焦るのかというと、『このままだと永遠と同じ高校には行けなくなる』と早くもそんなことを考えるようになったから。


『永遠進路もう考えてる?』

『うん!姉ちゃんの行ってる高校受ける。』

『うわ、でた、姉ちゃん。永遠ほんまシスコンやなぁ。』

『ちゃうわ!!姉ちゃんの行ってる学校めっちゃ綺麗やねん。あと制服も可愛いんやって。まあそこはどうでもいいけど。』


永遠に進路の話を聞くと悩むことなくそう答えた。二つ年上の永遠の姉は小学生の頃から俺もよく知っている。永遠の家に遊びに行くと、昔から永遠は永菜ちゃん永菜ちゃんっていっつもお姉ちゃんに甘えていたイメージだ。


家に帰ると俺はすぐにその高校について調べてみた。永遠が受けようとしている学科にはまず俺が普通に勉強頑張って受験しても受からない。しかし別の学科なら?

倍率はかなり高いが俺でも今から死ぬ気で勉強したら不可能では無いと考えた。


こうして俺は、親友が受験する高校をなんとか自分も目指そうと、中2から猛烈に勉強に励むようになる。なんでここまで永遠と同じ学校に行きたいと思ってるのかなんて、その時の俺は考えることもなかった。

ただただ俺は、高校生活も永遠と一緒に送りたかった。もうすでに俺は、永遠のことが大好きだった。





「永遠おはよう。」

「…おはよう。」


それは、高校1年生の冬の事だった。

念願だった永遠と同じ学校に入学し、毎日一緒にチャリ通していたある朝。


永遠は朝から暗い顔をしていたから、「どうした?」って顔を覗き込みながら問いかけると、すぐに永遠の目にはうるっと涙の膜が張っていたことに気付く。


「永遠どうしたん?」


心配になってもう一度問いかけると、永遠は「郁馬ぁ〜」って泣きそうになりながら俺の名前を呼ぶ。


「なに?どうしたん?」

「俺引っ越さなあかんかも…、転校しなあかん…」

「はっ!?なんで!?」


通学路のど真ん中の道で、俺はチャリを漕いでいた足を止めて大声を上げる。通行人が迷惑そうに俺を避ける姿も視界には入らず、永遠をまっすぐ見続けた。


「お父さん出世して本社勤務になるから転勤やって…、やったぁ、給料上がるわ…!」

「おい!言うてる事と顔が合ってへんぞ!?」


永遠は泣きそうな顔をして声を震わせながら、そんな片桐一家にとっては喜ばしい話を口にした。


「それで永遠も引っ越さなあかんの!?おっちゃんだけ単身赴任したらええやん!!」


人の家のことに口出しなんて厚かましいと分かっているものの、永遠と離れるのが嫌でそんな自分本位のことを口にしたら永遠は首を振り、「何年なんかわからんもん、ずっとかもしれんし…」ってしょんぼりしながら話した。


「嫌やぁ!!お前行くなよぉ…!!」


俺まで涙目になりながら泣きそうな声でそう言ったら、「なんで郁馬が泣きそうになってんねん」ってちょっとだけ笑みを浮かべる永遠。

そんなんずっと永遠と一緒に居たいからに決まってるやろ!って言いたかったけど、言葉を出す前にぼろぼろと涙が溢れてきてしまった。


「えっ嘘やん、俺より泣いてる。」


俺の涙を見て永遠の涙はすっかり引っ込み、その後道のど真ん中で「あ〜〜〜」とあほみたいに泣き声を上げてしまい、永遠はそんな俺に爆笑していた。


笑い事ちゃうわボケ!!!!!



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