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「せーとーくーん。あ、いたいた。」

「やあ昨日ぶりだね。」

「ゲッ…」

「ひどいじゃん、昨日。逃げるなんてさぁ。」


休み時間に隆は生徒会役員二人にガッチリと肩を組まれて挟まれていた。あの二人は中等部の頃から人気な人たちで、彼らの突然の登場に教室内がざわりとざわつき始める。


「今日放課後生徒会あるからさ、瀬戸くんも顔出しなよ。」

「は!?行きませんよ!俺入りませんし!」

「なんで?入りなよ。放課後ちょっと活動してれば良いだけで内申点はかなり上がるし、先生からは贔屓してもらえるよ?たまに差し入れだってしてもらえるし良いことばっかだよ。てかまずキミみたいな人に断られるなんてこっちからしたら考えらんないんだよね。先輩ももうキミが入ると思って話進めてるしさ。」


隆にぐいぐい話しかけているのは2年の刈谷先輩で、隆の顔は珍しく引き攣っている。隆の性格なら嫌ならはっきり断りそうなのに、刈谷先輩の勢いに押されていて少々弱気だ。


俺はそんな隆の様子を後ろから観察していたら、困ったようにおろおろとしている隆がこっちに振り向いてきて、「祥哉〜!!おい祥哉〜!!」と謎に俺を呼びつけてきた。


「は?俺?」


なんで?まあいいか、と隆のところに行くと、刈谷先輩と松村先輩の視線が俺にまで向けられる。


「ちょっ、なんか勧誘されてんだけど!?」

「え?生徒会だろ?入れば?」

「はっ!?入んの!?じゃあお前も入る!?」

「なんでだよ。勧誘されてんの隆だけだし。」

「ええっ!?俺だけ!?嫌だろ普通に!」


完全に今の隆は、威圧感のある先輩二人に挟まれてテンパってる感じだった。


「じゃあ室井くんが一緒ならいいの?」


ん?


突然刈谷先輩の口から俺の名前が出てきて驚きで固まった。なんでこの人俺の名前知ってんだ?


隆は刈谷先輩の問いかけにうんうんうんと必死に首を縦に振っている。もうこの二人に挟まれてるのが嫌で俺に対応押し付けてるだろ。


「ん〜、まあ俺としても室井くん勧誘したいところなんだけどキミ陸上部だよね。」

「ですね。」


そう、俺は陸上部。毎日部活があるし、基本的に練習が休みの日は土日のどちらか。となると放課後に行われる生徒会の活動にはまず顔を出せない。

刈谷先輩はそれを分かってくれているようで困った顔をして俺から顔を逸らし、また隆のことを見下ろした。


すると隆は、刈谷先輩の視線から逃げるように縋り付くような目で俺に視線を向けてくる。


まるで視線で鬼ごっこするように再び刈谷先輩の目が俺の方を向いたと思ったら、その後刈谷先輩は突拍子もないことを言い始める。


「もう室井くん兼部で良いから入ってくれない?たまに生徒会にも顔出す程度で陸上の方優先してくれれば良いからさ。」

「え、…まじすか。」


…とここで俺はまた隆に視線を向けると、隆はこの展開についていけてないような間抜け面で俺と刈谷先輩へ視線がいったりきたりしている。


「…まあ、俺は先輩がそれでいいなら。」


放課後毎日俺には部活があることはすでに分かっていることだ。それでも良いというのなら、と頷いた俺に続けて、刈谷先輩がまた口を開く。


「勧誘するのも結構面倒なんだよね。1年がすんなり入ってくれたら楽なんだけどこいつ昨日俺らから逃げるしさ。先輩も俺らに勧誘押し付けてくるからさっさと終わらせたかったのに。」


刈谷先輩は隆の肩に手を回したまま、ここで逃がすまいとするような態度でくどくどと愚痴を言い始めた。多分、隆さえさっさと生徒会に入ってくれたらこの人からしたらそれで良いんだろう。


入学早々騒がれ、噂され、生徒会にも勧誘され、なんだか可哀想な奴だ。


「じゃあ隆、一緒に生徒会入るか?」


陸上と生徒会の兼部なんてまったく考えもしなかった展開だけど、隆が俺と一緒なら入ると言っているなら俺が入れば丸く収まる話だ。

それなら入ってやろうじゃねえの。ってあまり深くは考えず隆に返事を促したら、隆はぎこちない動きで首を縦に振る。


「え?ほんと?瀬戸くん入ってくれるの?じゃあこれからよろしくな〜。室井くんほんとにありがとね、助かったよ。キミの負担にならないように俺と秀と瀬戸くんが生徒会頑張るからさ。」


ポンポン、と俺の肩を叩きながら刈谷先輩はそう言って、話が終わると松村先輩と共にさっさと教室を出て行った。


ようやく先輩二人が立ち去ると、隆は途端に生き返ったかのように「え!?お前と俺が!?生徒会!?てかまず生徒会ってなにすんの!?は!?」とギャーギャーと騒ぎ始めた。


いやいや、お前が俺と一緒なら入るっつったんだろ。って呆れながら隆の横に突っ立って隆を見下ろしていたら、ふと隆と目が合い隆はその瞬間いきなり黙り込んで静かになる。


「……あ、ごめん祥哉、巻き込んで。」

「ああ、ちゃんと自覚あるなら良かったわ。」

「………。」



後からハッとしたように隆は俺を巻き込んだことを反省するように黙り込む。自己中なやつかと思いきや、こういう一面もあるから憎めない。


「まあ頑張れよ、生徒会。」

「えっ!?祥哉もだろ!!」

「いや、俺はおまけだよ。メインは隆だし。」

「はっ!?そんなこと言うなって!!!」


俺を巻き込んで反省してるのかと思いきや、まだまだ巻き込む気は満々らしい。


「一緒にやるんだぞ!!やれよ!?」

「とりあえずやってはみるけど。」

「とりあえずじゃなくて一緒にやんの!祥哉やめるなら俺もやめるからな!?」

「分かったって、やるやる。」


しつこいくらい隆に念押しされ、俺の陸上部と生徒会の兼部生活が決定した。

なんでそんなに俺と一緒にやりたがるんだよ、ってまたしても不思議に思ってしまうけど、これは聞くまでもないことだ。


俺が隆の、唯一の友達に選ばれてしまったからである。

その後も隆は、クラスメイトの誰とも親しくすることは無かった。


友達は祥哉だけでいい おわり

2022.04.05〜04.28
拍手ありがとうございました!


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