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高校に入学した瞬間、慣れない寮生活に苦戦し、学校でも困ることは多く、誰か一人くらい友達が欲しいと思った。
休み時間に入ってすぐ教室を見渡すと、俺に話しかけようとしているのか近付いてくる二人組。上目遣いがキモくてサッと視線を逸らし、席から立ち上がった。
後ろの方の席に一人静かに座っていたクラスメイトが偶然目に入り、座席表を見て名前を確認する。よし、室井だな。
話しかけてみると、あっさりした受け答えに好印象を抱く。そして二度目も話しかけてみたら、淡々と的確な返事を貰えてその後はもう室井ばかりを頼りまくる日々。
こいつが俺の友達になってくれたら、俺の高校生活はとりあえず安泰だ。と、俺は自分から室井に話しかけまくった。
こうして仲良くなった同じクラスの室井祥哉。一人で食堂で飯食ってるとなんとなく視線を感じて居心地が悪いため、できれば朝も夜も誰かと一緒に喋りながら飯を食いたいのに、祥哉とは時間が合わない。
聞けば部活をしているらしく、練習後に飯食ってるから食堂に行く時間はまちまちだと言われてしまった。
残念だ。せっかく良い友達ができたのに一緒に飯が食えないなんて。
「あ、キミが瀬戸隆くんだよね?ちょっといい?」
「はい?」
しょうがねえから一人で黙々と飯を食っていたら、見知らぬ生徒二人が歩み寄ってきて声をかけられた。
見るからに顔が良く周りから一目置かれている人物だということが分かる。その証拠に、彼らが現れて周囲の空気が一変した。
「おめでとう!瀬戸くんは生徒会役員に選ばれました!」
にこやかに笑いながら目の前の人物はパチパチと手を叩いている。は?何言ってんだ?
無視して飯を食い続けていたらガシッと手首を掴まれ、「おい一年、食べる手止めるくらいしろよ。」と顔から笑みを消してドス黒いオーラを醸し出しながら俺を見下ろしてきた。いや怖。
よく考えてみたら多分この人たちは上級生で、逆らった方がめんどくさそうな人物だと咄嗟に判断する。
黙って食べる手を止めて顔を合わすと、その人は再びにっこりと笑みを浮かべながら俺の目の前の席に座ってきた。
「あ、紹介が遅れてごめんね。俺は生徒会役員の刈谷悠馬。こっちは松村秀。よろしく。」
「……よろしくお願いします。」
いやこの人笑顔怖すぎ。よろしくする気なんか全然ねえけど頷いとかないと後々なにか言われそうな気がしてとりあえず頷いておく。
「単刀直入に話させてもらうけど、瀬戸くんみたいに優秀な人は生徒会に勧誘するのが代々受け継がれてるこの学校の決まりのようなものなんだよね。勿論内申点は上がるし、受験の時も有利だしやっておいて損は無いから生徒会入部は是非ともおすすめします。」
ひたすらにこにこ笑顔でなんか宗教みたいに入った方が良い、みたいな感じで勧誘されてるけどこれで『はいそうですか』って入る奴いなくね?
えーっと、なんだって?生徒会?俺が?やるわけねーだろ、内申点?興味ねえわ!!!
けれど『お断りします』なんてはっきりした断り方をしてもこの人なんかくどくどと話してきそうな空気を感じで、俺は不意をついてガシッとおぼんを掴んで席から立ち上がり、素早くその場から逃げる選択肢を選んだ。
おぼんを持った足で返却口へ走り、返却口の近くのカウンターにおぼんを置いて食べ残しを猛スピードで食べる。何やってんだこいつ、と突き刺さる食堂のおばちゃんの痛い視線を浴びながら食べ終え、返却口に食器を返却した。
チラッと振り向いてさっき俺が座っていた席を確認してみると、さっきの生徒会の二人は俺を観察するようにジッとこっちを見つめている。
まだ口の中に入ったご飯をもぐもぐと噛み締めながら、俺は引き続き逃げるように、急いで食堂を後にした。
“逃げる=入る気は無い”ということで理解してほしいと俺は勝手に自分の中ではこの話を終わらせた。
「うわ、なにあれ。あからさまに逃げられたな。」
「ぶははっ!!!瀬戸くんあんなとこで飯の続き食ってるぜ!!!ありゃ絶対入る気なさそうだな。悠馬どうする?」
「どうするも何も、入るまで勧誘してこいって先輩に言われてるしそうするしかないだろ。」
「だよな。じゃあ明日はあいつのクラス行くしかねえな。」
しかしその翌日、俺の教室までやって来た彼らに挟まれ、俺は逃げ場を失っていた。
あんな逃げ方をして、話が終わるわけがなかった。
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