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高校に入学してからずっと長期の休みが待ち遠しかったけど、今年はそうでもなかった。何故なら、俺の側にはかっわいい〜顔をした彼氏が居たからだ。

姉貴が俺に彼氏ができたなんて聞いたら『隆になにがあった?』なんて思いそうだけど倖多の顔を見れば納得するだろう。

姉貴も羨む可愛い顔をした彼氏だ。

姉貴の驚く顔と羨む顔を想像して無意識にニヤニヤしていたら、「隆ニヤニヤと何を考えてんの?」と可愛い彼氏に突っ込まれてしまった。


「倖多、夏休み俺の実家遊びに来ねえ?」

「えっ、急だな。隆が良いなら行かせてもらうけど。」


ニヤニヤしていたことはスルーして倖多を実家に誘ってみたら、倖多は普通に頷いてくれて、俺は遊園地に行く前のガキみたいに夏休みが楽しみになってきてしまった。


さっそく夏休みに高校の後輩が遊びに来る、と母親にだけ伝えて姉貴には内緒にしてもらうようお願いしておいた。

母親ですら俺の“高校の後輩”にちょっと興味深々だった。何故なら、いっつも男ばっかうぜーと高校生活の愚痴を言いまくっていた俺が珍しく男の後輩なんて存在をうちに連れてこようとしているからだ。


こうして、期末テストも難なく終え、夏休みが始まってすぐに俺は倖多を自分の実家へと招く。


「あ、はじめましてこんにちは。俺、隆くんの後輩で新見倖多って言います。」


礼儀正しく頭を下げながら挨拶をする倖多に、母親はちょっと恥ずかしそうに「まぁ」と口に手を当てた。

母親も惚れ惚れする美貌だろう?そいつ俺の彼氏なんだぜ。へっ、と俺はドヤ顔しながら対面している二人の横を通過して玄関で靴を脱いだ。


「上がって上がって。」と高い声で倖多を家の中に招き入れる母親の声を聞きながら、俺は家の中を見渡す。


「姉貴は?」

「部屋にいるんじゃない?あっ倖多くん、アイスコーヒーは好き?」

「あっはい、好きです!」

「ちょっと待ってね、すぐ入れるからね。座って待ってて。」


母親は倖多にデレデレしながら台所に向かっていった。倖多は戸惑い気味に家の中を見渡していたから、俺は「倖多倖多、」と名前を呼びながら倖多を手招きする。


「ん?」


首を傾げて俺を見る倖多の肩に腕を回して、「ちょっとこっち来て。」と俺は姉貴の部屋まで倖多の身体をグイグイと押しながら歩く。

コンコン、と姉貴の部屋の扉をノックすると、「あ〜??」と女らしく無い返事が返ってきた。


「姉貴〜?俺〜。開けていい?」

「ん〜。」


なんかくぐもった声だなと思いながら姉貴の部屋の扉を開けたら、姉貴はミニすぎるショートパンツを履いていたため太腿から下が素足な両足をだらしなく伸ばして、棒アイスを食いながらスマホをいじっていた。


まだ倖多の存在には気付いていなかった姉貴は、春ぶりに帰ってきた弟相手に「なに?」と愛想悪く問いかけてくる。おかえりとか何か言ってくれ。倖多がちょっと苦笑してんだろ。


「かっわいい〜彼氏連れて帰ってきてやったよ。」


そう言いながら姉貴に見せつけるように倖多の腕をぐいっと部屋の入り口まで引っ張ると、姉貴はだらしなく伸ばしていた足をさっと隠すように正座した。


突然俺が『彼氏』というワードを口に出したことが驚きだったようで、倖多は焦りながら「あっやっ、あの、隆の後輩で新見倖多って言います…」と自己紹介する。


「彼氏つった?嘘でしょ。」

「ほんと。」

「絶対嘘。」


姉貴は持っていた棒アイスを齧りながらそう言って、俺が冗談を言っているのだと思っているようだった。

そしてアイスが溶ける前に急いで棒アイスに齧り付き、食べ終わると倖多の顔をまじまじと見ながら「かっわいい〜。」と口にする。そうだろ?


「隆のしょうもない嘘に付き合わされてわざわざ連れてこられたの?」

「え?…いやっ、そういうわけでは…」

「だからほんとに彼氏だってば。」


再び俺がそう言うと、姉貴は俺を睨み上げながら、部屋に落ちていた大学の教科書を俺の足目掛けてブーメランのように飛ばしてきた。


「いッッて!!!」

「隆いい加減にしな。あんたは昔からやることが幼稚なんだよ。」


姉貴のその言葉に、倖多がクスッと小さく笑う。


「隆〜?何してるの〜、コーヒー入れたよ〜。」


リビングから母親が呼びかけてくる声が聞こえてきて、その声に反応するように姉貴が立ち上がり、俺より先に俺たちの横を通り過ぎて姉貴はリビングに向かって行った。


「お母さ〜ん、隆がまたしょうもないこと言ってるよ。」

「うん?なに?」

「倖多くんのこと隆が彼氏っつってあたしを騙そうとしてくる。」

「…ふふっ。珍しく男の子連れて帰ってきたと思ったら。」


姉貴の声と、母親の笑い声が聞こえてくると、俺の隣では倖多まで俺を見てクスクスと笑ってきた。


「おい、倖多まで何笑ってんだよ。」

「隆って家でもそういう扱いなんだ?」

「はっ!?」


『家でもそういう扱い』!?

そりゃ確かに、学校では倖多に恋人のフリとかお願いして人を欺こうとしたけど、今のはガチな紹介のつもりだったんだぞ!?


俺は姉貴の態度にも倖多の発言にも不満に思いながら姉貴と母親がいるリビングに行くと、棒アイスを食った後なのに母親にアイスコーヒーを入れてもらった姉貴がコーヒーを飲みながら寛いでいる。腹壊すぞてめえ!!!!!


「おい姉貴!!倖多ほんとに彼氏だってば。」

「はいはい、もういいって。まじでしょうもない。倖多くんこいつの相手わざわざしなくていいからね?」

「…ふふふっ、…はい。」


おい倖多!
笑ってないで倖多も何か言ってくれ!!!


その後何回も倖多を彼氏だと言い続けていたけど、結局俺は、可愛い可愛いガチな彼氏を姉貴に見せびらかしに来たと言うのに俺の言葉はまったく姉貴に信じてもらえず、「倖多くん隆の扱いに困ったらいつでも相談乗るからね〜。」と言って姉貴と倖多は連絡先を交換していた。


交換するな!!!!!
俺の彼氏だっつってんだろ!!!


隆のかわいい彼氏くん おわり

2021.12.28〜2022.01.27
拍手ありがとうございました!


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