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「倖多どうだった!?滑った!?滑ったよな!?滑ったって言ってくれ!!!」


小学校から中学まで同じ学校で仲が良かった友人は、俺の高校受験不合格を望んでいた。何故なら、高校も同じ学校に行こうなって話してたから。

地元の友達たちが受験する公立高校を俺も希望していたが、成績が良かった俺の進路を担任は納得していなかった。

三者面談で俺の母親にも『お子さんはもっと上を目指すべきです!』と熱く説得していて、俺の希望を尊重してくれていた母親はとても困っていた。


とりあえず担任を黙らすために、と受験した高校は、超難関と言われる坊ちゃんが通う金持ち学校。


何故俺は、手を抜かなかったんだろう。


まさか、超難関と言われる高校に、自分が受かるだなんて思っても居なかった。


「…ごめん、受かっちゃった。」


苦笑しながら答えた俺に、友人の目にはジワリと涙が溜まり始めた。


「なんでだよぉ〜!倖多のバカァ〜!高校も一緒んとこ行こうっつってたじゃんかぁ!!!」

「…ごめん、まさか受かると思ってなくて。」


入試問題は難しかった。
けれど、解くのが楽しかった。

…手なんか、抜けるはず無かったのだ。


「…全寮制じゃん。…会えねえじゃんか。」

「休みになったら帰ってくるから。」

「高校行っても倖多と試験勉強とかしたかったのに…。」


教室でメソメソと俺の高校受験合格を悲しんでくれる友人を中心に、次第にクラスメイトが集まってきた。


「なになに、どうしたの?」

「なに落ち込んでんだよ。」

「…倖多が合格しちまったんだよ。」

「えっ、嘘!?じゃあ倖多くん同じ高校行けないの!?」

「はっ!?まじかよ!倖多滑れっつったじゃんか!」


高校受験の合格をここまで残念がられるのもおかしな話だが、悲しんでくれる友人たちの気持ちはとても嬉しかった。


「まあなかなか会えなくはなるけどさ、夏休みとか冬休みに帰ってくるからまた遊んでよ。」

「絶対だからな!連絡くれよ!」

「彼氏できたら報告しろよ!」

「いや待って、おかしいおかしい。」


こうして俺は、ごく普通の一般家庭でありながら、特待生で合格してしまった故に、お金持ちな坊ちゃんたちが通う全寮制男子校に入学することになる。




「じゃあ、倖多の高校受験合格を祝って。」

「「「かんぱーい!」」」


合格発表があった日の夜、家族は俺の合格を祝ってくれた。

家族仲は良く、春から寮生活が始まる俺に寂しそうにしてくれる両親。

妹は、お兄ちゃんが居なくなる分部屋が広くなる。とか言ってるけど、実はちょっとくらいは寂しいと思ってくれてるはず。

素直じゃなくてちょっと生意気な妹だけど、兄妹仲は悪くない。


「お兄ちゃんの部屋にあるテレビあたしの部屋に持ってっていい!?」

「いやいや、それもう自分の物にする気だろ!だめ!」

「良いじゃん!使わないでしょ!」

「あのテレビ俺がお年玉で買ったんだぞ!?そうやって俺が買った物どんどん自分の物にすんなよ!」

「してないよ!お兄ちゃんが使わない物はあたしが使ってあげようとしてるだけ!」

「俺まだ使わないとか言ってないけど!?」

「寮入ったら使わなくなるじゃん!」


仲は悪くないはずなんだけど、妹との言い合いはわりとしょっちゅうあることだった。

そんな俺と妹の言い合いは、いつも妹が拗ねるまで止まらない。


むっすりとした顔をして、俺を睨み付けてくる妹に、最後は俺が折れてしまうことを妹は分かっている。


「あーもう分かった分かった。いいよ持ってって。壊すなよ。」


こうして俺が寮に入る数日前、妹は俺の部屋にあったテレビを意気揚々と自分の部屋に運んでいった。


もう少しさぁ、なんかこう、『お兄ちゃん寮に入っちゃってさみしい…』とか可愛げのあること言ってくれたらいいのになぁ。





「あ〜嫌だぁ。寮に帰りたくねぇ…。」

「隆さっきからうるさい。いい加減黙りな。」


春休みは短いけど、俺は実家に帰っていた。休みの時はいつも実家に帰っていた。そして地元のダチと遊ぶ。そして良い感じになった女の子にはいつも癒しを求めていた。


しかし春休みはすぐに終わってしまうため明日には寮に帰らなくてはいけない。リビングでゴロゴロしながら嘆く俺の尻を、大学生の姉がゲシッと蹴ってくる。扱いひどすぎだろ。


「ひどくね?ちょっとくらい優しくしろよ。」

「帰ってくる度ぐちぐち言ってる声聞かされる身にもなれ。あんたが自分から勝手に受けた高校でしょうが。」

「…受かったら俺天才って思って受けたらガチで天才だったんだからしょうがねえだろ。たまには褒めろよ。」

「はいはい、天才天才。もうわかったからさっさと吹っ切れて彼氏の一人でも作ってきな。」

「は?うぜー、冗談キツすぎ。」

「かっわいい〜顔の彼氏連れてきて。」


そう言いながらバチンと俺に向かってウインクをした後、姉貴はリビングを出て行った。

完全にからかわれている。


「姉貴うぜー。」


これが、倖多との恋人のフリを実行しようと決めたほんの数日前の話である。


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