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「あ、ゆりさん卵は家にあります?」
「あ!ないっ!卵買わな!!!」
「ゆでたまごが無いと航に怒られちゃいますよー」
「ほんまや、危なかったぁ。るいきゅんありがとー」
「いえいえ。」
卵が陳列された棚を素通りしようとした瞬間、るいきゅんに声をかけられた。
そうそう。カレーを作るときはゆでたまごもセットで作らないと航に文句を言われるのだ。
卵はついつい買い忘れちゃうから危ないところだった。
「航が小学生の頃、ゆでたまご無しのカレー作ったら『主役は!?』って言われたことあるわー。いやいや、主役はカレーやろ。」
「ははっ、確かに。主役はカレーですね。あ、もしかして小学生の頃はカレーよりゆでたまごが好きだったとか?」
「あー言われてみればそうかも。卵あるたびに茹でろ茹でろ!て航に言われてた気がする。」
「じゃあ大きくなるにつれてようやくカレーが主役になれたわけですねー。」
卵をカゴの中に入れたところで、止まっていた足を再び動かす。
るいきゅんとの他愛ない会話をしながらの買い物はとても楽しく、笑ってばかりだ。
なぜこんなに楽しいのか。
それはやっぱりるいきゅんの気遣いのおかげで、るいきゅんからいろいろと航に関しての話を聞いてくれるから話題には困らない。
聞かれたら息子の話はいっぱい話したくなる。るいきゅんも楽しそうに聞いてくれるから話し甲斐がある。
「ゆりさんから航の話いっぱい聞けてよかったです。本人が居ると嫌がってあんまり聞けなさそうだし。」
買い物を終え、帰り道を歩く中、るいきゅんはそんな嬉しいことを言ってくれた。
レジ袋二つになった食材は、当たり前のようにるいきゅんが持ってくれている。
何も言わずに袋二つとも持ってくれたるいきゅんの気持ちに甘えて、おばちゃんは楽させてもらいましょう。
「こちらこそ、るいきゅんが一緒に買い物来てくれて良かったー、重たいのに二つとも持ってくれてありがとうねー。航の話しもっと聞かせてあげるから、またお願い。」
「こんなのお安い御用ですよ。あ、じゃあ俺航のちっちゃい頃の話とか聞きたいなー」
「あ、じゃあ家帰ったら私のとっておきのアルバム見せてあげるー。航の0歳から小学校卒業あたりまでの写真でお気に入りだけを固めてあるアルバムやねん!」
「うわ!いいんですかー?見たいっす!」
るいきゅんにアルバムを見せる約束なんかをして、あっという間に帰宅。
鍵を開けて、「ただいまー」と叫びながら扉を開けると、不機嫌そうな表情で玄関にのっそり現れた航。
「航ただいま。」
「…おかえり。」
「なにブスッとした顔してんの。」
「…起こしてくれたら俺も行ったのに。」
「母ちゃんにもたまにはるいきゅん独占させてーや。」
「…母ちゃんがるいを独占する必要ねえだろ。」
…あっらま、この子ったらもしかして母ちゃんに嫉妬かい?
と思いながら、なんとなくるいきゅんに視線を向けると、るいきゅんはクスッと笑って航に近づいて行った。
「ゆりさんに航の話いっぱい聞かせてもらったー。航がいたらできない航の話。」
「はっ!?どんな話!?」
「ないしょー。」
るいきゅんはそんな話で航の気を引きながら、買い物袋を持って部屋の中に入っていく。
「あ!そうだゆりさん、俺夕飯の支度進めておくのでアレお願いします。」
「あぁ!アレね!アレちょっと部屋から出してくる!」
「は!?アレってなんだよ!?!?」
「さーて航、じゃあ今からカレー作るぞ。航野菜洗って。」
「おい!!!」
るいきゅんは、部屋のどこかにしまってある航の幼少期の頃のアルバムを私が探しているあいだに、航と一緒に夕飯の支度を進めてくれていた。
そして、続きの夕飯の準備に加わろうとすると、「ゆりさん、座っててください。俺と航が作ります。」と言ってくれるるいきゅんの隣で、包丁を持って野菜を切っている航。
私はまた、るいきゅんの言葉に甘えて、仲良くカレーを作ってくれている二人の姿を、寛ぎながら眺めさせてもらった。
「…仲良しやなぁ、ほのぼのするわぁ。」
二人を見ていると、自然に緩んでしまう頬。
孫の顔は見れなくても、人それぞれ、さまざまな幸せの形がそこにある。
航、良い人に出会えてよかったね。
航が幸せなら、お母さんも幸せだ。
息子の幸せが母の幸せ おわり
2016/08/11〜9/13
拍手ありがとうございました!
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