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夕方から入場できるらしいチケットを手に入れたるいが、これからここへ来るという連絡があった。


ちょっと休憩しようかと、ポップコーンを食い歩きしながらるいを入り口まで迎えに行く。


るいが来ると分かった瞬間ニタニタしはじめたりとくんが、「まずは一回転ジェットコースター行くか。」と予定を立て始めた。


俺が持つポップコーンのカップを横から摘んでくるりとくんに半分以上食われてしまったから、「りとくん食いすぎだろ!」とカップをりとくんから遠ざければ、奴は相当なやんちゃ野郎で、俺の手首を掴んでカップを自分の方へ引き寄せ、ニタニタしながらポップコーンをバクバク食べやがる。


「あっ!おい!こら!」


りとくんからなんとかポップコーンを死守しようとしているとき、りとくんの頭上で『パシン!』と頭をしばかれる音がした。


「いってぇ!!!」


りとくんの背後に立っていたのはるいで、シッシと虫を払うようにりとくんをあしらいながら、俺の身体に手を伸ばす。


「…あー…。やっと航のとこ来れた…。」


るいはホッと息を吐き、よしよしと俺の頭を撫でながら、片腕を俺の腰に回してきた。


俺の背中に張り付いているるい、側にはそんなお兄ちゃんを呆れたように見ているりとくん。


イケメン兄弟が居るそんな光景を、周囲の人たちがジロジロと視線を向けてきて、たまらなくなって俺はとっとと歩き始めた。


「おいるい!歩きにくい!!!」


歩き始めても俺の身体を離そうとしないるいに怒鳴りつければ、るいは渋々俺の身体から手を離し、ギュッと俺の手を握った。


ああ、こりゃしばらくは俺から離れる気ねえな。と思いながら、俺はりとくんとアイコンタクトを取り、素知らぬ顔で絶叫系のアトラクションの列に並んだ。


少し並んだところで、「キャー!」という悲鳴と、ガタガタガタとコースターが走る音が聞こえ、るいはハッとしたように険しい表情を見せた。


そんなるいの表情に気付いていながらも、りとくんはわざとらしい澄ました顔をして、この位置からははっきり見える一回転しているコースターに目を向けた。


そこで、るいも見てしまったのだろう、一回転しているコースターを…


「ッハ…ッ…!」


息を吸うような、言葉にならない声を漏らしたるいが、顔面を真っ青にして一回転しているレールをまじまじと見つめた。


「ひゃははははは!!!兄貴顔!!!」


るいのその反応に、りとくんは腹を抱えながら大爆笑し始めてしまい、騒がしいりとくんに周囲の人たちからの視線が突き刺さる。


恐怖からか、はたまた大爆笑されたことによるりとくんへの怒りからか、ぷるぷると拳を震わせたるいが、りとくんの頭をぶん殴り、両腕を使ってりとくんの身体を締め付け始めてしまった。


「おい!なんなんだよあれ聞いてねえぞ!あんなの乗れるか!おまえふざけんなよ!?!?」

「痛い痛い痛い!!!離せって!!!」

「航をあんな危険な乗りもんに乗せるわけにはいかねーだろ!!!」

「え、俺らもうあれ2回乗ったぞ。」

「……おまえら頭おかしいだろ!!!」

「兄貴の方が…頭おかしい…ハァ、ハァ」


ようやく腕を離してもらえたりとくんが、苦しそうに首元を撫でてぜえはあしている。


「るいきゅん大丈夫、一瞬くるーって回るだけだから。全然怖くねーよ。」

「いや怖くねえとかそんな問題じゃねえ、もしも一回転途中に機械が故障して動かなくなったらどうすんだよ、危ねえ、危なすぎる、怖いとかそんなんじゃなくて、「はいはい、怖いんだろうが。」…りとてめえ!!!!!」


再び伸びてきたるいの手を、今度はひょいと躱したりとくんは、「ふはは!あー愉快愉快。」とお兄ちゃんを見ながらケラケラと笑った。


るいは、だんだん涙目になってきて、可哀想だから優しい俺は、ギュッとるいの手を握ってやった。


「るいきゅん大丈夫大丈夫。俺がいるから。」

「航くん…っ」

「あーめっちゃ楽しみ。」

「航くん!?!?」



乗り場が近づいて来ると、さっきまでギャーギャーうるさかったるいは一言も喋らなくなった。

そんなるいに、声を抑えて笑いを堪えているりとくん。


そんな、可哀想だけど面白すぎるるいを連れて、とうとう乗り場まで来てしまい、コースターに乗り込む。


勿論俺の隣に座ったるい。るいの前の席に座ったりとくんが、チラ、と振り返ってるいの様子を笑い混じりに伺っている。


頭上から身体に下ろすタイプのガッチリした安全バーをギュッと掴んで、るいはりとくんをジロリと睨みつけた。


間も無くコースターは発車する。


「ぅわっ!!!」

「ぶはは!」


動き出しただけで声を上げるるいと同時に、りとくんの笑い声が聞こえる。


動き出してまず緩やかなカーブを下ったコースターに、るいは「あああっ」と早くも叫んでいる。


ここまではまだ全然怖いとこじゃねーんだけどな…とるいの様子を見ながら苦笑していると、いよいよ一回転のレールは目の前だ。


「ああああああああああッ」

「ぶははははは!!!!!」


叫ぶお兄ちゃん、爆笑する弟…

そして、ふわりと一回転するコースター。


「ッ…!」


るいは叫ぶこともせず、息を飲むように黙り込んだ。

しかし一回転したあとには、1番急斜面のコースが待っている。


一回転したあと、安心したように「はぁ」と息を吐いたるいだったが、その後すぐにまた「あああああああ!!!!!」と叫び声を上げ、俺もりとくんも爆笑しながら、アトラクションを終えたのだった。


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