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「えっ…なんでまたいきなり…」

「だってあいつ、小池、咲田が誰かと付き合ってしまえば大人しくなるんじゃね?」


って言うのも勿論理由のひとつだが、本音は咲田が男から性的な目を向けられるのが嫌だと思ったから。


顔も心も綺麗な咲田に、そういう目を向けられるのが心底不快に感じたからだ。


「…でも、早見くん俺のこと…、」


“どう思ってんの?”

“好きでも無いのに付き合うのは…”


そんな感じのことを言いたげな顔をして、でもその先を話すのを躊躇うように口を閉じてしまう咲田。

純粋そうな咲田のことだ、やっぱそうくるか。と俺は困ったように髪をガシガシと掻きむしった。


「とりあえずお前どっか行って。」


そして次に、ゲシッと冬真の足を蹴りながら俺はそう言うと、「ええ!なんで!?良いとこなのに!」と冬真に嫌がられる。


「いいから行けって!話進まねえから!」


今度は冬真の脛をさっきより強い力で蹴ると、痛がりながら渋々冬真は帰っていった。


咲田と2人きりになるために、非常階段まで咲田の手を引き移動した。


「昼間聞いたとは思うけど、綺麗も可愛いも性格良いも弁当美味いも全部本音だから。」


咲田の顔を見下ろして口を開いた俺に、咲田は真っ赤な顔をして頷いた。


「もし咲田が俺に告ってきたらって考えた時、断る理由がねえな。とか考えてた。」


続けてそう話す俺の言葉に、咲田は恥ずかしそうに俯いた。


「咲田俺のこと好きだろ。」


こんな聞き方をするのはずるいかもしれないけど、もうすでに真っ赤な顔で恥ずかしがっている咲田から直接聞き出すために問いかけると、コクリと小さく頷く咲田。


そっと咲田の肩に両手を置いて、顔を覗き込むように目線を合わせると、少し潤んだ咲田の瞳と視線がぶつかった。


俺はそんな咲田に惹きつけられるように、咲田の赤く震える唇に、自分の唇を寄せる。


何の躊躇いも無く、俺は咲田の唇にチュッと唇を重ねてしまった。こんなの、咲田をやらしい目で見る周囲の男となんら変わりないかもしれない。


けれど、目を閉じて、静かに俺からのキスを受け入れてくれている咲田に調子に乗ってしまった俺は、角度を変えて、さっきよりも深く、再び咲田の唇に自分の唇を重ねてしまった。


柔らかい咲田の唇が気持ち良くて、暫く離したくないと思ってしまった。


そんな最中、そっと咲田の手が俺の腹部付近のシャツを握ってくる。


いちいち動作が可愛いな、と、思ってしまった俺は、もう完全に周りの咲田のことが好きな男共と同じだった。


唇を離すと、途端にこっぱずかしい気持ちになって、それを隠すようにグイッと咲田の頭を胸元に引き寄せた。


「どうする?…付き合う?やめとく?」

「………付き合いたいです。」


キスをしたあとで今更すぎる俺の問いかけに、咲田からそう返事が返ってきて、俺はわしゃわしゃと咲田の髪を撫でた。柄にもなく、内心すげえ浮かれている自分が居た。


「じゃあ、よろしくな。」


ゆっくりと咲田の身体を離すと、咲田は照れ臭そうにクスッと笑って、チラリと俺の顔を見上げて口を開いた。


「早見くんの心臓すごいドキドキしてた。」

「…うるせー、俺だって恥ずかしいんだよ。」


今日一日で飛躍しすぎた展開に、俺だってついていくのにそれなりに必死だったのだ。


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