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「咲田?さっきからどうした?顔がプチトマトみたいに真っ赤だぞ。」
「痒い痒い痒い痒い痒い痒い!!!!!」
「は?」
ほんの少しのジョークを言っただけなのに、冬真が自分の両腕をさすり始めた。
そう言えばこれ前に俺が冬真に言われたことあるセリフだな。お前が前言ったことあるセリフなのになんなんだよ。
眼鏡を奪われ不愉快だった気分はさっさと振り払ってしまおうと、今日も咲田の作ってくれた弁当をありがたく頂き、味わっている時だった。
俺の好物であるプチトマトをしっかり入れてくれている咲田の顔が、まるでプチトマトのように真っ赤だったから、指で摘んで咲田の顔とプチトマトが横に並ぶように掲げてみたのだが。
咲田は赤い顔のまま俯いて、何も言わずにもそもそとお弁当を食べ始めてしまった。俺はそんな咲田を眺めながら、ポイ、と口の中にプチトマトを放り込む。
あ〜これこれ。口に広がる甘酸っぱい味。
このフルーツのようにも思えるトマトが俺は大好きだ。
しかし、そんなトマトを俺が味わっている時、俯いているかと思いきや、赤い顔をした咲田からチラ、と盗み見するような視線を向けられる。
さっきからどうした?
二つ目のプチトマトを口の中に放り込んで、口内でトマトをプチっと弾けさせながら咲田に視線を向けると、咲田はハッとした顔をしてまた俯いてしまったのだった。
「あ〜痒い痒い痒い痒い痒い!!!」
そしてさっきから意味不明な冬真の態度に、冬真が座る椅子をガンッ!と蹴ると、冬真は少しだけ大人しくなった。
「意味不明。頭おかしくなった?」
「あ、てか想眼鏡どうすんの?今日買いに行くか?」
「チッ、めんどくせえなぁ。」
まじであいつ余計なことをしやがって。
ふと思い出したように冬真から突然振られた話題に舌打ちが漏れる。
「忌々しいから暫くコンタクトにしてみようかな。」
「お?まじで?ついに?」
「えっ…」
ついにってなんだ、ついにって。と思ったものの、咲田の何故か戸惑うような声に気を取られ、視線を向けるとまたサッと視線を逸らされた。
おいおいなんだ?
今日の咲田はなんか変だぞ。
「俺もその方が良いと思うわ〜、想の眼鏡まじダサかったしな。咲田くんもそう思わない?」
「えっ、…や、俺はどっちでも…。」
またチラ、と俺の方を見てから、すぐに視線を逸らし、ぱくりと弁当のおかずを口にした咲田の顔は、まじでプチトマトみたい。
…ん?あれ?
これはもしかして俺の顔を見て赤くなってたりする?
自意識過剰な発想ではあるが俺はふとそんなことを思ってグンと咲田に顔を近付けて見ると、「うわあ!!」と大袈裟な声を出しながら咲田は椅子から立ち上がった。
「な、なに、ちょっと…、びっくりしたじゃん…。」
あたふたしながら椅子に座り直した咲田を俺と冬真は観察するように眺めたあと、何故か無言で顔を見合わせ、その後冬真はにやにやした顔を隠すように口に手を当てた。
俺はなんとなくだけど、『痒い痒い痒い痒い痒い痒い!!!!!』と先程発した冬真の発言の意味が、ほんとうになんとなくだけど、分かってしまった気がした。
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