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しかし何分経っても冬真は帰ってこない。
俺がかなりの不機嫌面にも関わらず、目の前のこいつはにこにこと笑顔で持ってきた弁当を俺の机に広げ始めた。すげー根性してる。
あろうことか、「あーん」と俺の口元にお箸で掴んだミートボールを持ってきたから、こいつ頭おかしいんじゃねえかと思った。
こんなに嫌がってる人に『あーん』はねえだろ。
初対面時の人をバカにしたような、あの態度はどうした。
こんなことになるなら、見下された態度の方が何億倍もマシだった。
「ぶっ!?!?」
ずっと奴を無視してそっぽ向いていると、俺の口の中にミートボールを突っ込みやがったそいつは、「もー、無視しないでよ!」と可愛いと思っているのか両の頬を膨らます。
「まじなんなんだよおまえ!!きめーんだよ!俺に絡んでくんな!!」
いい加減我慢の限界がきた俺は、立ち上がり、奴から距離を取ってそう吐き捨てた。
すると奴は、俺の言葉に微塵も懲りた様子は無く、さらに俺を愕然とさせた。
「わぁ、僕、生まれてはじめてきもいとか言われたんだけど!そんなこと言う早見くんだから、余計に僕、夢中になっちゃうのかな!」
もう、こいつには何を言っても無駄だと悟った瞬間であった。
気が抜けたようにダラリと椅子に座り直した俺は、教室にいた生徒からの視線を集めていたことにその時気付き、ああ、もう最悪…冬真早く帰ってこいよ…とどこかへ行ったきり帰ってこない幼馴染みを、少し恨んだ。
結局、冬真が教室に戻ってきたのは、昼休み終了間際だった。素知らぬ顔をして戻ってきた冬真の脛を、まずは一発強く蹴る。
「痛ッ!?なんだよ!」
「なんだよじゃねーよ!どこ行ってたんだよ!あのクソ野郎放置しやがって!!」
「どこって、咲田くんのとこだけど…って、あの人は想に用があったんじゃねーの?」
「違うわボケ!!!」
「えっ、いや、でも、」
「でももクソもねー!!!」
「えっ、ちょ、ま、お前機嫌悪すぎじゃね?ちょっと落ち着けよ!」
これが落ち着けと言われて落ち着ける問題では無いのだ。
実はあの後、奴は帰り際、「じゃあまたね!」と俺の頬に軽く唇を寄せてきやがったのだ。
教室内から聞こえる「えっ!?」という驚きの声。
怒りで頭がカッとなり、拳を握り締めて奴の顔面を殴ってやろうとする前に、奴は俺からサッと一歩離れてヒラヒラと手を振って帰って行った。
まるで、俺の機嫌を損ねさせたいがために来たような奴の言動に、俺は腸が煮えくり返る思いでその日1日を過ごした。
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