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メロンパンを早々に食べ終わってしまった俺は、頬杖をついてぼーっと無意識に咲田の弁当を眺めていたようで、咲田が俺の方に弁当を差し出してきた。
「良かったらなんか食べる?メロンパンだけじゃお腹すかねぇ?」
そう問いかけてくる咲田に、俺はじーっとある一点を見つめた。
「…じゃ、これ。」
「ぶはっ!」
俺が指差したおかずをみた冬真が噴き出した。俺は瞬時に奴を睨む。
…というのも俺が指差したそれは俺の大好物で、それを知ってるから冬真は噴き出したんだろう。
ああ、やっぱりこいつそれを選んだか、と言いたげに。
「えっなに?」
「それ、想がなによりも好きなプチトマト。」
冬真の発言に咲田が、俺、プチトマト、俺と視線を彷徨わせるのに気付き、俺は顔から火が出るほど恥ずかしくなってきた。
そう、俺は冬真の言う通り、なによりもプチトマトが好きなのだ。
「あれ、顔がプチトマトみたいに真っ赤だぞ想。」
「冬真しね!」
バカにしたように話す冬真の脛を、力いっぱい蹴ってやった。
「ふふっ、じゃあ今度からプチトマト多めに入れてくる。」
「…まじで?」
その咲田の話は、かなり魅力的すぎて、俺は真面目な顔で咲田に問い返した。
「うん、まじまじ。」
ニシシと笑った咲田に俺はニヤリと笑い返した。
「ラッキー、ありがたく頂戴するわ。」
そう言って俺は、甘酸っぱくて美味しいプチトマトを口の中に放り込んだ。
「あ〜、これこれ。これが食いたかったんだよ。」
「な?咲田くんバカだろこいつ。」
呆れたような目でプチトマトを食べる俺を見る冬真に、咲田は首を横に振った。
「んーん、大好きなものを美味しそうに食べるの、見てて楽しい。」
その咲田の台詞に、妙に気恥ずかしい気持ちになってしまった。
「あれ?想また顔がプチトマトみたいに、」
「しね!」
冬真がいちいちうっとおしい。
昼食後は休み時間が終わるまでその場でダラダラと過ごし、休み時間終了5分前に咲田は自分の教室に戻って行った。
咲田が立ち去った後、冬真は真剣な顔つきになって、俺に問いかけた。
「…なあ想、咲田くんが気になってんのって、俺じゃなくね?」
「はあ?お前だろ。」
いきなりなに言い出すんだよ。
なに言ってんだこいつ、と言う目で冬真を見るが、逆に冬真が『お前がなに言ってんだ』と言いたげな目で見てくるから暫し不穏な空気が流れる。
「…まあいっか。想バカだし。」
「はあ!?俺より成績悪いやつがよく言うわ!」
「勉強の話じゃねーし!」
「勉強なしにしてもお前の方がバカだろ!」
「はあー?どこがー?」
「全体的にだよ!」
教室で声を荒げて言い合う俺らに、周りは口喧嘩でもしているのかとそわそわしているようだが、こんなのはただの日常会話で、構わず汚い言葉で罵り合っていた。
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