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自己紹介が終わったあと、ニコリと笑みを浮かべたまま何も話さない咲田。

え、なにほんと。
この空気ついていけねえ。


そんな時、空気を読んでか、はたまた読んでいないからか口を挟んだ冬真のおかげで俺はひとまずその空気から解放された。


「てか咲田くん人気すぎんだろ!みんな見てるぞ!?」

「えっ?」


興奮気味に話す冬真の言葉に、咲田はキョトンとた顔をするだけ。


『えっ?』じゃねーよ。

この人もひょっとして、自分が人気ある自覚無いんじゃないか?


「それを言うなら矢野くんじゃん。」

「えっ俺?つか俺のこと知ってんの!?」


冬真は目をまるくして、咲田の発言に驚いた。


「うん。だって俺のクラスでも矢野くんかなり人気だし。」

「へっ?……まじで?」


驚きの表情のあと苦笑いになる冬真に、俺は堪えきれずに笑い声が出た。


「ハハッ、よかったな冬真!人気だって!」

「うっわ想ムカつく!バカにしてんだろ!?」

「してねーよ。すげーじゃん、人気者。」


俺は男だらけの人気者なんてやだけどね。と内心ペロリと舌を出す。


「早見くんは、……あっ」


咲田が何か言いかけたところで、休み時間終了のチャイムが鳴った。


「残念、もうちょっと喋りたかったんだけどなぁ。……また来ていい?」


咲田の問いかけに、俺は冬真に言ったのだろうと思い、チラリと冬真の方を見た。


「あ、うんうん。全然オッケー!」

「…よかった。じゃあまたね!」


冬真の言葉に笑みを浮かべ、咲田は手を振りながら、駆け足で俺たちのクラスの教室を後にした。

咲田は最後まで注目の的だった。


「なんか…気さくなやつだな。」


咲田が去った後、教室の出入口を眺めながらポツリと冬真が呟く。


「うん。つか冬真、気に入られたんじゃね?」

「は!?…いやいやいや!」


いやいやいや。って、なに動揺してんだよ。
こいつ、実はちょっと咲田のこと気になってんだろ。幼馴染みの俺が言うんだから間違いない。


「まあ男くさい奴よりは良いんじゃねえの?つってもあいつも普通に男だけどな。」

「いやいやいや!何お前普通に勧めちゃってるわけ!?俺が男と付き合ってもいいのかよ!?」

「まー個人の自由だし。おばちゃんには黙っててやるよ。」

「寧ろ言ったら殴る!!てか話勝手に進みすぎだろ!」

「うん。勝手に話進めた自覚ある。」


まあどっちも人気者っつーことで誰も文句は言わないだろ。
俺はそんなことを考えながら、ふぁあと抑えられない欠伸をした。


「…まあ確かに、咲田くんと付き合ったら他の奴らにはもう告られないしいいかもな。」

「はぁ?その理由で付き合うのは失礼だろー。しかも告白されねえとは決まってないぞ。」

「つーかちょいちょい腹立つな想、他人事かよ!」

「いや?モテるっていいことだよ。」


と全然思ってもいないことを言いながら、俺はまた内心ペロリと舌を出した。


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