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平和だった日常に変化が訪れたのは、あれから3日後の休み時間だった。

次の授業が移動教室のため、教科書と筆記用具を持ち廊下を歩いていた時のことだ。

前から歩いてきた生徒に冬真が気付かず、互いの肩がぶつかった。

その拍子に落ちてしまったその生徒が持っていたスマホを、俺がキャッチしたことが全てもの始まりだった。


「おおぉ!想ナイスキャッチ!」

「ナイスキャッチ!じゃねーよ、前見て歩けバカ!」


冬真にそう叱りながらスマホを渡そうと生徒を見ると、その人はポカンと口を開けて俺をまじまじと眺めている。


「……なに?」

「あっごめん!ありがとう…。」


ハッとした表情をしてから謝る彼に、スマホを返した。


「つーかお前も謝れや!」


バフッと冬真の後頭部を教科書で殴れば、「いてっ」と言いながら殴られた頭を撫でている。


「はいはい分かってるって」と文句を言いながら冬真はその生徒と向き合い、「ごめん。」と軽く謝った。


「あっいや…、こちらこそ…。」


申し訳なさそうに小さくお辞儀をしてから、彼は俺らの前から立ち去った。

その時冬真が、立ち去った彼の背中をじっと見つめて黙り込んでいたことには気付かなかった。


「…今の同じ学年のやつ?」

「さあ?」

「すげえ美形だったんだけど…。」

「はあ?なに、惚れたの?」

「ほっ、惚れてねえ!!」


軽く冗談で言ったのに、声を張り上げて否定されたもんだから、俺は咄嗟に耳を塞いだ。


「冬真うるせー。」

「想がアホなこと言うからだろ!」


アホなことって。
冗談だろ、なにムキになってんだ。


「でも男相手に美形とか言われたらてっきりそうなのかと思うだろ。」

「お前、さっきのやつ見て無かったのかよ!?マジで美形だったぞ!!つか美人!!」


冬真が声を張り上げて言うもんだから、どんだけ美形だったんだとあの生徒を思い出そうとしたが、ぶっちゃけあんまり覚えてない。

けれど、俺の顔をまじまじと見られたその目は、綺麗な二重瞼に縁取られた黒目がちの瞳だった気がする。


そんなことがあった日のさらに数日後、俺たちは彼が、この学校ではかなり美人で有名なやつだったと知る。それは些細な出来事からだった。


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