久世
「劇をしましょう」
リリスティア
「………何を、いきなり」
久世
「ヴァイスには歌劇場がありましたよね? 私が総監督を務めます。配役はすでに決まっております」
リリスティア
「ま、待て! まだやると言ってないぞ!」
久世
「陛下………戦いが続くこの乱世。安らげるものも必要ですよ」
リリスティア
「………以前、そうやって温泉でえらい目にあったんだが………」
久世
「ではこちらが脚本です。頭に台詞入れてきてください」
リリスティア
「用意周到だな………久世。お前、何がなんでもやらせる気か………!」
久世
「監督とお呼びください」
神創系譜息抜きおとぎ話
眠れる森の美女?
昔々、ある国に一人のお姫さまかいました。
お姫様は賢く、美しく誰もがうらやむような女性でした。ですが、とある魔法使いの呪いにより、城の中で覚めることのない眠りについてしまいました。
彼女の呪いを解く方法はたったひとつ。
王子様の、キス
お姫様は、いつか王子様が、自分を助けにきてくれるのを、薔薇と共に百年待ち続けました……
「────この城か…美しい姫が眠っているという城は」
おびただしい数の茨に包まれた城を前にして、王子様はため息をつきました。おおよそ中に人がいるとは思えませんが、村人の話が本当ならば、ここには美しいお姫様が眠っているということになります。
しかし、城を前にしてため息をついた王子様は一人ではありませんでした。
「……なんだ?お前達」
紅い髪の、整った顔立ちをした王子様は訝しげに周りを見渡しました。この王子様の名前は、ヒル。母国では軍隊の指揮もする、強い王子様です。
「あ?来たくてきたんじゃねーよ」
少し荒い口調で答えたのは、隣の国のライザー王子。そうは言っていますが、腰には剣、体には防具と準備は万端です。
「お姫様ー!今オレが助けるッス!!」
意気揚揚とそう言ったのはレイム王子。今にも城に突入しそうな彼を止めるのに、二人の王子は必死でした。
「なあ、姫を助けにいくのは一人でいいだろう?」
ヒル王子がそう言うと、ライザー王子はすかさず言い返します。
「っつーかだな!なんでオレが王子なんだよ!配役おかしいだろ!」
「確かにライザー卿は王子っていうより、不良って感じッス」
「王族なのにな…」
「うるせえよテメェら!とにかくだ、姫とやらはテメーらで助けにいけ!眠った女にキスするなんざ、フェアじゃねえ!」
ライザー王子は腕を組んでそっぽを向いてしまいました。するとヒル王子は、意外なことに彼の説得に乗り出したのです。
「ライザー、姫が誰か知ってるのか?」
「あ?」
「………ベリーなら、どうするんだ?」
「な…」
ベリーと聞いた瞬間、嬉々としてレイムが両手を上げました。
「ベリーちゃんッスか?! ってことはベリーちゃんとキス出来るチャンス! ぜーっったい俺が助けに行くッス! お姫様にチューするッス!!」
意気揚揚と拳を掲げているのはレイム王子でした。レイム王子は力は強いのですが、少々猪突猛進なのが玉に傷です。
「おっまえ馬鹿殿(カイム)に似て女好きだな…」
ライザー王子がそう言うと、レイム王子は慌てて否定をします。
「カイムさんと俺は違うッスよ!俺は可愛い子が好きなんス!」
「何が違うんだよ」
「二人とも。どうやら城の中に入れそうだ。早く行くぞ」
ヒル王子に促され二人が城の中に続く門を見ると、なんと棘がひとりでによけていくではありませんか。どうやら、城と姫にかけられた悪い魔法を解く鍵は王子にあるようです。
「おおっ!俺たちを歓迎してるんスね!!」
「あ!こら待ちやがれ!」
我先にと走っていくレイム王子に続き、ヒル王子とライザー王子も走っていきました。
中はやはり棘だらけでしたが、城に仕える兵士や召使い達は、百年前の姿のまま眠りこけていました。
「ぅお姫様ァァァア!!!」
「うるせぇぇえー!!静かに探せ!!」
「これだけにぎやかだと、キスしなくとも起きそうだな」
叫びながらお姫様を探すレイム王子に、文句を言いながら探すライザー王子。ヒル王子はやる気があるのか無いのか分かりませんが、よく見ると結構熱心に探しています。
**そして**
三人の王子様は、ひとつの立派な扉を見つけました。
その扉は、古ぼけてはいましたがとても美しい装飾が施されていました。
三人の王子様は確信しました。
ここにお姫様がいる、と。
(お姫様にチューしたいッス…お姫様にチューしたいッス…そしてそしてその後は……!!あ…でももしリリム陛下だと…)
レイム王子はかなりよこしまな考えを巡らせていました。
(ったく…リリムならどうすんだよ。…あの馬鹿女が大人しく姫役なんてやんのかよ。あー帰りてえ……)
ライザー王子も、かなり胸を弾ませています。
(………話の進行上仕方ない、という理由がつけられるな。とにかく邪魔な奴らは外に出して…)
ヒル王子の脳内では既に姫のキャスティングはリリム以外ありえないようです。
そして、王子様は扉のノブに手をかけゆっくりと回しました。