3話
そして、5才になった時
俺は遠方にいる両親の知り合いに会いに行く用事が出来て、家族でいっしょに船に乗る事になった。
「アクリ、ほら手を貸しなさい、足元に気を付けるんだぞ?」
『うん』
船は前世で何回か乗ったことあるけど、今世では初めてだ。なにもないといいけど、なんたってここはワンピースの世界だ。海にはいくらでも海賊や海王類がいる。
俺の心配をよそに俺のとなりで母さんと父さんがいそいそとお茶の用意をしていた。一応、俺の両親はお金持ちらしく船も個室をとったみたいだ、結構広い。
「アクリ、喉乾いてない?お茶の用意をしたから飲みなさい」
『うん、ありがと母さん』
母さんに促されるままお茶を一口含んだ。今回はリラックス効果があるジャスミンティーのようだ。母さんは紅茶や色んなものに興味があるらしく色んなことをやったりしてる。俺も誘われるけど、やる気がでないし毎回断ってる。
…………めんどくさいし。
父さんは毎日仕事に追われているみたいで、貴重な休みはこうして家で家族と過ごすのが楽しみにしているみたいだ。
そういえば、最近俺に用意してくれるお茶はこういうリラックス効果があるものがおおいな……
「アクリ、おいしい?」
『……うん』
「そう、良かったわ」
「母さんが焼いたお菓子もあるから好きなだけ食べていいんだからな?」
ふんわりと母さんは嬉しそうに笑った。
父さんもニコニコしながら言う。
その二人の瞳の奥には俺にたいしての心配の色が見え隠れしているような気がするまだ、5歳なのに子供らしくない俺が心配なんだろう、けど、これはどうすることも出来ないことだから
『……母さん、父さん、ありがとう』
「ふふふ、どういたしまして」
「アクリが元気ならそれにこしたことはないさ」
細められた愛情に溢れたその瞳で見つめられたらなんだかものすごくむず痒くなってくる。前世ではこんなに両親に愛情をかけられたことはなかった、この人たちは本当に優しい人たちなんだな……
ニコニコ嬉しそうに紅茶を飲んでいる母さんと父さんを見つめ、自然と俺の口許には笑みが浮かんでいた。
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そして、しばらく紅茶を楽しんでいた後にそれは起こった。
急に外が騒がしくなったのだ。
「?なんだ?」
「何かあったのかしら」
席をたった父さんにつられてついていこうと椅子から降りた時、バンっと俺達の部屋の扉がおもいっきり蹴破られたのだ。
『!!!』
そこから入ってきたのは剣を手にした人相の悪い男。ニヤニヤとしながら一歩足を部屋へ踏み入れる。
「きさま、何者だ!」
俺と母さんを背後に隠しながら父さんはその男に怒鳴った。そして、いつも持ち歩く護身用の刀をかざした。
「貴様らは貴族か、金目のものよこしな!」
いきなり剣を振りかざしてきた男に父さんはは刀で受け止め俺と母さんを庇った。
『父さんっ!』
「くっアクリ!リース!下がりなさい!」
何度も振りかざされる剣を懸命に受け止めていた父さんだったけど、一瞬の隙をつかれ刀を弾き飛ばされてしまった。
「くぅっ」
「くっくっく、悪あがきもここまでだなぁ、さっさと死ねぇ!」
「あなた!」
『父さん!』
振りかざされた剣を避けるまもなく
父さんはそのまま
ザシュ!!!!
切られた…………
「あなた!!!!」
『とうさん!!!!!』
ドサァッ
床に崩れ落ちた父さんに駆け寄るけど
「がはっアクリ、かあさんをつれ、て、にげ…すま…ぐ」
そう呟いた父さんはもうピクリとも動かなくなってしまった
『……とう、さん?』
体からは赤い液体が止めどなく溢れてきてて……
「次はお前たちだなぁ」
『!!!!』
その光景を膝をつき呆然と見いってしまっていた俺の耳にその声が届いた。
『くっ』
そうだっ呆然となんてしていられない!
母さんを安全な場所につれていかないと!
父さんを切り捨てた海賊が母さんと俺に笑いながら近づいてくる。
『っっ…………』
とっさに近くに落ちていた父さんの護身用の刀を取り、まだ呆然と立ち尽くしていた母さんの手をとり海賊をすり抜け、俺は走り出した。
『母さん!こっち!』
どこか、どこか隠れられる場所は!
どこもかしこも海賊の怒声と、客の悲鳴が響き渡っている。そんな中、俺はひたすら母さんの手を引き走り続けた。
『かあさん、がんばって!おれがぜったいまもるから!』
「アクリ……っ」
くそっ
走りづらい!!
5才児の短い足を必死に動かしながら、母さんの手を引いて走る。
母さんを、母さんだけでも助けなきゃ!
息がきれる中、走っていた俺達の側にいつのまにか現れた海賊の一人に母さんの腕が捕まれ転倒してしまい、その衝撃で俺も床に叩きつけられてしまった。
「きゃぁ!」
『うぁ!?っかあさんっ』
腕を捕まれて床に転んでしまった母さんに、ニヤニヤと口許を歪めながら海賊は剣を降り下ろそうとした。
『っっやめろぉ!!』
キィィンッ
俺は持っていた父さんの刀をとっさに掲げ、母さんの前に躍りでて、降り下ろされた剣を間一髪受け止めた。
けれど
『うぁぁぁっ!』
「アクリ!」
大人と子供の力量さは歴然としていて、そのまま手すりから海まで弾き飛ばされてしまった。
しまっ!!!
『母さんっ!!!!』
「アクリーーー!!!!!!」
投げ出された俺が最後に見たのは、必死に俺に手を伸ばした母さんとそんな母さんに剣を降り下ろしている海賊の姿だった……
3話