12話
「終わったみたいだな。」
昼を少し過ぎるくらいに様子を見に来たじーちゃんは俺達のほとんど空になった樽を見た。
「おうっ!みろよっじじぃっ!キレイに剥けてんだろ!?今回は指だって怪我しなかったんだぜ!?」
嬉しそうに掌をみせながら告げるサンジ兄にじーちゃんはふんと鼻で笑ってみせた。
「あれだけ俺が教えてやったんだ、出来ねえわけねぇだろっチビナス」
「なんだと!?」
むきーっ!と怒るサンジ兄を無視しじーちゃんは俺達の剥いた野菜を手に取った。
「……ふん、これだけ出来れば上出来だな。」
「!!あ、あたりまえだろっ!?」
じーちゃんの言葉にぱっと一瞬嬉しそうな顔をしたサンジ兄は、はっとしていつも通り悪態をついた。
……嬉しさを押し隠してるみたいだけど隠せてないぞ、サンジ兄。
「調子に乗んなっチビナス!」
「うっせぇっ!じじいっ」
毎回恒例のじーちゃんとサンジ兄の喧嘩が勃発し俺はそれを微笑ましく思いながら終わるまでずっと眺める事にした。
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「ふぅ……ふぅ……このチビナスめ」
「はぁ、はぁ……この暴力じじいめ」
『……………………』
なん十分たっただろう。
やっとじーちゃんとサンジ兄の喧嘩は止まった、というか他のコック達が必死に止めた。
微笑ましく眺めていたら『笑ってみてないで止めろっ!!』と突っ込まれたけど、ただのじゃれあいなんだから止める必要ないんじゃないかと思う……
ただ、ちょっと激しすぎて流血沙汰が起きるだけだし、うん。
そして、気を取り直したじーちゃんは俺の剥いたジャガイモを手に取り、俺の方を向いた。
「ガキんちょ、てめぇはずいぶん慣れてるみたいじゃねえか」
皮の剥き口も絶妙な加減で向かれていて、剥き残しもない。剥いたあとの皮さえもすぐに途切れることなく繋がっている。
『まぁね、色々やって来たから』
詳しくは話さずそういうとじーちゃんは料理は作れるのか?と聞いてきた。
『うん、レシピがあれば一通り。後はパンやデザートとかかな?あ、けど各野菜の栄養値とかは覚えなきゃわからない』
だって、この世界は前世の世界と違って見たことない野菜や果物だらけなのだ。
「……アクリ、すげぇ」
俺の隣で呟くサンジ兄に努力したからと告げておいた。
たとえ俺にとって一つ一つが簡単でも当時の俺はかなりの数の資格やらなんやらを同時に覚え、取得していた。あの時の俺はかなり努力していたとおもう……。
「ふん、ならガキんちょ、それだけできるならてめぇにも料理を教えてやる」
『え?』
「ほ、ほんとか!?じじい!」
「これだけできるんだ、その言葉も嘘じゃねえだろう。やるか、俺ぁ、厳しいぞ」
真剣に見つめて問うてくるじーちゃんに俺は頷いた。
『うん、やる。お願いします』
ここでやっていくって決めたんだ。
どんなに辛くても頑張って見せるさ。
「よっし!アクリ!いっしょにがんばろうぜ!」
自分のことのように嬉しそうにぐっとガッツポーズを決めるサンジ兄に頷いた。
そんな、俺の決意にじーちゃんはわしわしと頭を撫で
「なら、これからはサンジ共々てめぇにも教えてやる、覚悟しておけよ。サンジおめぇもだ!」
『うん』
「あたりまえだろっ!?」
俺たちの元気な返事に珍しくじーちゃんは満足げに鼻をならした。
12話