8話
「やり方はそれで全部だ」
『ん、わかった』
甲板で一通りじーちゃんにやり方を教えてもらった俺は実践の為に、水をはったバケツに雑巾を入れ絞った後、床に手をついてそのまま廊下をかけるように往復した。
「……っふう……さすがに、キツいな」
まだ、体が子供なだけあって体力がそんなにないらしい。すぐに体力が尽きる。
息が切れるのを何とか落ち着かせ何度も往復を繰り返した後、一度雑巾をバケツに戻すことにした。
『あれ?』
バケツのとこに歩いていけばそこにはまだじーちゃんが柵に持たれながらたたずんでいた。
『じ、オーナーまだいたんだ』
ずっと静かだったからもう仕事に戻ったのかと思ってたんだけど。
不思議そうに問いかけた俺に、じーちゃんはこっちをちらりと見た後、少し考える素振りをみせ口を開いた。
「……おい、がきんちょ」
『ん?』
「………………おめぇは両親を殺した海賊が憎いか……?」
『え……?』
唐突に告げられた言葉に俺は目を瞬かせた。
両親を殺した海賊が憎いか?
そう問いかけてくるじーちゃんの顔をじっと見ながら俺は考える。
憎いか憎くないかでいったら、それは……
「憎いよ……」
憎いに決まってる……
あの優しい人たちを殺したんだ。
今でもあの時のことを鮮明に思い出す。
父さんの血に染まっていく体
海に落ちていく俺に必死に泣きながら手を伸ばす母さんの姿
忘れるはずが……
忘れられるはずがない
思い出すたびに体のなかに怒りが混み上がってくる。
少しの沈黙が流れた後、じーちゃんは俺の目をまっすぐ見つめた。
「…………おめぇは知らねぇだろうが………………おりゃぁ海賊だった、元だがな。」
『…………………』
「おれぁ、おめぇの両親を殺した海賊どもと同じだ、それを知ってもまだおめぇは……ここにいてぇか。」
真剣な目で問いかけてくるじーちゃんを俺はじっと見つめ返す。
たしかに、あの優しい人たちを殺した"海賊"が許せない、許せるはずがない
なんの罪もなかったあの人たちの人生を一瞬で奪いさっていったんだから
だけど
『……俺は、ここにいたい』
あの太陽のような優しい笑顔をくれる《兄》のそばに……
「…………ここで働いてる連中も皆とは言わねえが海賊上がりのやつも居る、それでもか」
『たとえそうだったとしても、"別"じゃないか』
あんたとあの海賊どもは
俺ははっきりとじーちゃんの目を見て答えた。
『例えあんたが、"元海賊"であっても、俺の両親を殺したのはあんたじゃない、あいつらだ。』
海賊だからとすべての海賊が悪いなどと俺は思わない、ちゃんとしってるから、海賊の中には"悪い海賊"がいれば自分の信念をもった"いい海賊"だって居るってことを 。
『だから、俺は出ていかないよ、あんただってもう俺の家族なんだからな…………《じーちゃん》』
「…………………………」
そう呼び掛ければ、少しの沈黙の後、じーちゃんは仕方なさそうにため息をはいて、そして口端をあげた。
「……がきんちょだと思っていたが、おめぇは見かけ通りのガキってわけじゃなさそうだな。」
『………………………まぁ、人よりちょっと覚めてるだけだよ…うん。』
実年齢は20こえてますなんていえないよな、さすがに。
口に出さずに心の中で呟けば、柵に持たれていた体をお越し近寄ってきたじーちゃんに頭をガシガシとかき混ぜられた。
「…………ふん、ならしっかり働くことだ、自分のいった言葉にはちゃんと責任をもて、わかったな」
俺の返事を聞かないままきびすを返すと、振り返ることなくじーちゃんは船の中にもどっていった。
『……………………』
そのまま、一人残された俺はじーちゃんに撫でられた頭に触れてみる
どうやらあれは、俺のことを心配してくれていたらしい…………
サンジ兄の説明を受けていた時見てたのも、倉庫に来たのも……
『…………………ふ』
ぶっきらぼうな態度で中々分かりにくいけど、
……なんとも、不器用なじーちゃんだよ。
さっきまでのやり取りを思いだし、俺は自然と混み上がる笑いを抑えられなかった。
8話