The Tragedy of Julius Caesar : William Shakespeare
ジュリアス・シーザー : 福田恆在 訳
ジュリアス・シーザー[訳者;福田恆在/新潮文庫]
1968/3/25 発行
1978/1/10 十七刷

ブルータス 忘れてくれるな、春のことを、三月十五日を! あの大シーザーが血を流したのも正義のためではなかったのか? あの体に手を触れたもののうち、そんな悪党がただの一人でもいたというのか、いたずらに兇刃を揮うのみで正義のことなど考えなかったような男が? それを、たとえ一人でもあっていいと思うのか、ほかでもない、あの地上最高の人物を斃したおれたちではないか、それもただあの男が盗人にもひとしき奴輩を庇護した一事を憎んでのこと、そのおれたちが陋劣きわまる賄賂におのが指先を穢し、天下に周き栄誉を一握りの目くされ金で売り渡す、それでいいのか? おれはむしろ犬になって月に吠えたほうがいい、そんなローマ人に成りさがるくらいなら。
キャシアス ブルータス、おれに吠えるのはやめろ。もうこれ以上、我慢はしないぞ。正気とは思われぬ、そうまでしておれを追い落そうなどと。おれは武人だぞ、おれは、しかもきみより経験を積んでいる、部下の信賞必罰についてもはるかに心得ているのだ。

[99項 11行-100項 4行]

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