何度目だろう。
あっさりとボールを奪われたナツに、グレイがだむ、と足を鳴らした。
「おいナツ、気合入れろ!」
「ああ!?オレは気合バリバリだろうが!」
「バリバリとか言ってんじゃねえよ、古くせえ!」
「てめえらうるせえんだよ!さっさと走れ!」
「「命令すんな!」」
「おい……」
「喧嘩すんなよ……」
ジェットとドロイ同様、レビィも肩を落とした。見ていられなくて、目を閉じてしまう。顧問とは名ばかりの老年教師が、ルール本を捲る音がした。ジュビアの勢いを落とさない「グレイ様ー!」の応援が、当人でもないのに心に痛い。
ある程度予想はしていたが、チームとしてはバラバラだった。幸い個人の技量は相手チームを上回っているのかチャンスは掴めるものの――繋がらない。ナツの不調もかなりの影響を及ぼしていた。
グレイがナツの胸倉を掴んだ瞬間、パスン、とリングのバスケットが揺れた。また相手側に2点入る。
「あ」
「……くそっ」
ほぼ同時に、第一クォーター終了を告げるブザーが響いた。
苦々しい表情で、五人がベンチに戻ってくる。
タオルやドリンクを差し出してみたが、皆あまり疲れている様子はない。体力よりも精神力を削られたか、息は弾むより落ちていた。
「結構開いたな、点差」
スコアボードに目をやるナツに、グレイがキリキリと目を吊り上げた。
「強引すぎんだよ!パス回せ!」
「お前だって似たようなもんだろ」
「似てねえよ!お前、オレのこと見てねえだろうが!こっちが何度合図送ったと思ってやがる!」
ナツのTシャツの襟を掴んで、グレイは彼を睨みつけた。が、いつもなら同じように掴みかかるはずのナツの両腕は、だらりと彼の身体の横に垂れ下がっている。目すら、グレイと合わせようとしなかった。
グレイがぎり、と歯を鳴らした。
「腑抜けてんじゃねえよ、気合出せ!」
「あ?お前、さっき気合入れろって言ったじゃねえか。出すのか入れんのかどっちだよ」
「ガタガタうっせえな、出し入れしときゃ良いだろうが!」
「いったん落ち着いてよ!」
練習時と違って、いつまでも喧嘩させたままにはしておけない。レビィはルーシィがどうしていたかを考えて、二人の足を順番に踏みつけた。
「いっ!?」
「たっ!?おい何ルーシィみたいなことしてんだよ!?」
グレイの言葉に、ナツが肩を揺らす。思惑とは違ったが、彼を黙らせることには成功した。
「二人とも、せめてバスケをしてよ!言い合ってる間に何本シュート決められたと思う!?」
「う」
「悪い」
ナツとグレイに並んで、何故かジェットとドロイも身を縮ませる。怯んだ男4人を前にして、レビィは仁王立ちした。
しかし具体的に巻き返しの作戦があるわけではない。どうしたもんだか、とガジルを見やると、彼はレビィの首からしゅるりとタオルを引き抜いた。
「元々お前らにチームプレーなんざ期待してねえ」
「あ?」
「なんだと?」
「好きにやれよ。オレがそれを組み立ててチームワークにしてやる」
ギヒ、と不敵な笑顔が、レビィの目には頼もしく映った。しかしナツとグレイにはそうではなかったらしい。
「んだよ、カッコ付けやがって。ムカつく」
「ああ!?」
「10分でファウル2個も取られた人間の言うことじゃねえよな」
ガジルはかなり攻撃的なプレーをしていた。余裕を取り繕っても、焦りが滲み出ている。
しかしそれは他の皆も同じだった。点を取ることに躍起になって、防御が疎かになっている。
ガジルはごす、とグレイに額をぶつけた。
「向こうのフリースローは外れてるだろうが!オレのファウルは無駄じゃねえ!」
「てめえの目付きが危ないからビビッたんだろ」
バカにしたような視線を向けるグレイの横で、ナツがガジルを睨めつけた。
「一人で目立ってんじゃねえぞ。オレだって本気出せばファウルの1つや2つ」
「いや、そんなもん競うなよ」
ジェットが疲れたように自分の肩を揉んだ。はぁ、と溜め息を吐いて、スコアボードを見やる。
「なんにせよ、お互いもうちょっと周りを見ねえと」
トリプルスコア――。
取り立てて打開策もないまま、開始30秒前のブザーとホイッスルが鳴る。
せめて、ナツの不調だけでもなんとかならないだろうか。
レビィは二階を見上げて、勝利の女神の姿を探した。
二匹の猫が、小さな手で柵を握り締めていた。