「納得いかない!」
「お前ホントうっせえな」
「さっさと終わらせちまおうぜ」

春の陽射しは暖かく穏やかで、それでいて心を躍らせる。こんな良い天気なのに、どうしてこんなことに、とルーシィは箒をぎゅ、と握り締めた。

「罰掃除とか、信じられない!あたし優等生なのよ!?真面目なのよ!?」

勉学面で突出したレビィほど成績が優秀だというわけではないが、ルーシィは少なくとも問題を起こしたことはない。同級生から見ても、教師から見ても、品行方正な普通の生徒――の、はずだった。
職員室で教師がぼそりと零した『問題児が三人になった』が耳に残る。罰として言い付けられた裏庭掃除よりも、ルーシィにはそのことが重かった。
グレイは明らかに適当だとわかる仕草で、さかさかと地面を掃いた。透明の破れたビニール袋が土埃と共に転がる。
ナツはそれを流れるように植え込みの中に掃き入れた。

「そーじそーじ、そーせーじー」
「何よその歌」
「腹減ってきた。なんか食いモン持ってねえ?」
「持ってない」
「じゃあなんか冷たいモンでも…ほら、この塀越えたとこ、自動販売機あったよな」
「あたしの視線じゃダメかしら」

箒の柄で塀を指すナツに、出来うる限界ぎりぎりの冷たい目を向けてやる。グレイがはあ、と溜め息を吐いた。

「お前ら、ちゃんと…っておい、ナツ!オレが掃いたゴミ、全部隠してんじゃねえよ!」
「ああ?バカか、お前。これは肥料になるんだよ」
「ビニールがなるわけねえだろ!」

グレイはちりとりで直接ゴミを集めなおして、今度はすぐにゴミ袋に入れた。そのしゃがんだ彼の前に、ナツが何食わぬ顔をして埃を立てる。

「ぶはっ、てめえ!」
「んだよ、集めてんだろ。さっさと入れろよ」
「何もねえじゃねえか!」
「ああ?見えねえのか、でっかいゴミがあるだろが。ほら、そこに」
「オレを指差してんじゃねえ!」

ルーシィは彼らの怒鳴り声をBGMに、大きなゴミだけを大雑把に掃いた。グレイが放り出したちりとりで、ゴミ袋に集める。
何故か転がっていた自転車のチューブらしき物を入れると、袋は大きく膨らんだ。

「ねー、このくらいで良いんじゃない?」
「この燃えないゴミが!」
「残念でしたー、オレは燃えてますぅ!」
「ねーってば」
「そういう意味じゃねえだろが!おめでたい頭してやがるな!」
「んだとぉ!?」
「聞きなさいよ!」

ルーシィは箒で彼らの頭をぼん、ぼん、と叩いた。がくん、と首が揺れた二人は、目を丸くしてこちらを向く。

「何すんだよ!?」
「おい、ルーシィ!?」
「アンタら放っておいたら何時まで経っても終わらないじゃない!」

仁王立ちするように腰に手を当てると、グレイが眉を寄せた。

「気が強いこって」
「何よ」
「いや、ルーシィらしいって言ったんだよ」

彼は肩を竦めて、ふ、と遠くを見るような目をした。

「ほら、公園とかでよ。身体大きいガキや年上にもすぐ口やら手やら出して、よく喧嘩してたよな」
「へ?そ、そんな記憶ないわよ?」
「…お前、まさか自分が大人しい子供だった、とか思ってる?」
「……うーん?」

正直、あまり覚えていない。首を傾げるルーシィに、ナツが目を瞬かせた。

「喧嘩すんの?お前」
「しまくりだよな、ルーシィ」
「ちょっと!?今はそんなことしないわよ!」
「さっき殴られたような気がする」
「オレも」
「くっ……」
「面白ぇな、お前」

ナツが感心したような声を出した。と、何かに釣られるように校舎の方を振り向く。

「ん?おい、グレイ。なんか呼んでる奴居るぞ」
「あ?」

一階の窓――確か、理科室――から、女生徒が手を振っていた。

「グレイくーん!」
「うっせえ…誰だよ、あれ」

作ったような黄色い声に、ナツが顰めっ面で小さく吐き捨てる。
グレイは愛想笑いも浮かべず、首を動かしただけだった。

「去年、同じクラスだっただろ」
「そうだったか?」

彼女は身をくねくねと捩らせて、小さく握った拳を口元に当てた。

「グレイくん、ゴミ捨て行くの?私もなのー」
「は?いや、オレは」

グレイが振り返ってこちらを見た。ナツがにやり、と口元を歪める。

「よし、ゴミ捨てジャンケンしなくて済んだな」

ゴミ捨て場はここからかなり離れたところにある。これは乗るしかない。
ルーシィもにこやかに手を振った。

「行ってらっしゃーい」
「……行って来る」

しぶしぶ袋の口を縛る彼は、春なのに秋を感じさせた。半ば引きずるようにしてゴミを運んでいくその後姿を見送って、ルーシィはふう、と息を吐く。理科室の中ではゴミ袋の取り合いになっているのが見えた。






ルーシィ・ハートフィリア、問題児の称号を得る


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